【経営戦略の羅針盤】「着実志向」と「挑戦志向」を理解し、組織の成長を加速させる人材マネジメント
現代のビジネス環境は、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)と呼ばれるように、予測が困難な時代を迎えています。このような環境下で企業が持続的に成長を遂げるためには、組織を構成する「人」の能力を最大限に引き出すことが不可欠です。
特に重要となるのが、社員一人ひとりが持つ「着実志向」と「挑戦志向」という二つの主要な志向性の理解と、その戦略的な活用です。
この記事では、経営者・人事担当者向けに、「着実志向」と「挑戦志向」の社員を深く理解し、採用・配置・評価・育成の各フェーズでどのように活用し、組織全体のパフォーマンスを最大化できるのかを、具体的な施策とともに徹底解説します。
目次
「着実志向」と「挑戦志向」の定義と特性
まず、組織戦略の根幹となる二つの志向性について、明確に定義し、それぞれの特性を理解します。
「着実志向」社員の特性と強み
「着実志向」とは、安定性、確実性、正確性を重視し、計画通りに物事を進めることに価値を見出す志向性です。
| 特性 | 強み(組織への貢献) | 潜在的リスク |
| 計画性・順守 | 既存事業の安定運用、業務プロセスの標準化・改善 | 新規事業や変化への適応遅延 |
| 正確性・品質 | 高品質な成果物の保証、リスクマネジメントの徹底 | スピード感の欠如、過度な慎重さ |
| 専門性の追求 | 特定分野における深い知識と技術の蓄積 | 視野の狭まり、部門間の連携不足 |
オペレーション部門、財務・経理、品質管理、法務など、高い正確性とリスク回避が求められる分野で、その真価を発揮します。
彼らは「守り」の要であり、企業の「信頼性」を支える基盤となります。
「挑戦志向」社員の特性と強み
「挑戦志向」とは、変化、成長、未知への取り組みを重視し、リスクを恐れずに新たな価値創造に挑むことに喜びを見出す志向性です。
| 特性 | 強み(組織への貢献) | 潜在的リスク |
| 実行力・スピード | 新規事業の立ち上げ、市場の変化への迅速な対応 | 計画性の欠如、軽率な意思決定 |
| 革新性・創造性 | イノベーションの創出、競争優位性の確立 | 既存ルールの無視、組織内の摩擦 |
| 成長意欲 | 高いモチベーションによる組織の活性化 | 早期離職リスク、過度な成功へのプレッシャー |
研究開発(R&D)、新規事業開発(インキュベーション)、営業・マーケティング(特に立ち上げフェーズ)など、不確実性の高い環境で成果が求められる分野で活躍します。
彼らは「攻め」の原動力であり、企業の「未来」を切り開く牽引役となります。
採用戦略:両志向性を兼ね備えた「両利き人材」の発掘
経営者・人事担当者として、採用プロセスにおいてこれらの志向性をどのように見抜き、組織にフィットする人材を採用するかが重要です。
採用選考における志向性の見極め方
一般的なスキルや経験だけでなく、「行動特性」や「価値観」を問う質問を通じて志向性を深く探ります。
| 志向性 | 質問例(STAR面接法) | 着目すべき回答の要素 |
| 着実志向 | 「過去に、大きなプロジェクトでリスクを回避するために、あなたが最も慎重に取り組んだプロセスについて具体的に教えてください。」 | 手順の明確化、チェックリストの利用、ステークホルダーへの確認頻度、過去の失敗からの学習 |
| 挑戦志向 | 「前例のない困難な課題に直面した際、どのように周囲を巻き込み、解決に導いたかを具体的に教えてください。」 | 未知への好奇心、失敗を恐れない姿勢、自発的な行動、既存ルールの打破、アジャイルな試行錯誤 |
組織の「両利き経営」を支える人材ポートフォリオ
企業は、既存事業の深化(着実性)と新規事業の探索(挑戦性)を同時に行う「両利き経営(Ambidextrous Organization)」を目指すべきです。
これは、必ずしも一人の社員が両方の能力を持つ必要はなく、組織全体として両方の志向性のバランスを取ることが重要です。
- ポートフォリオの視点
- 既存事業部門には着実志向の社員を厚く配置しつつ、挑戦的な改善を促す「チェンジ・エージェント(挑戦志向の強い社員)」を少数配置する。
- 新規事業部門には挑戦志向の社員を中心に、成功確率を高めるための「プランニング・スペシャリスト(着実志向の社員)」を配置する。
配置・異動戦略:適材適所による組織パフォーマンスの最大化
採用した人材を、組織の戦略と個人の志向性が最もマッチするポジションに配置することで、最高のパフォーマンスを引き出します。
配置の原則:事業フェーズと志向性のマッピング
事業のライフサイクル(導入期・成長期・成熟期・衰退期)に応じて、必要とされる志向性の比率を調整します。
- 導入期・新規事業開発
- 挑戦志向 8割 + 着実志向 2割
- 理由: スピード感と市場へのアジャイルな適応が最優先。計画より実行が重視される。
- 成熟期・安定事業の運用
- 着実志向 7割 + 挑戦志向 3割
- 理由: 効率化と安定的な収益確保が最優先。挑戦志向の社員は「カイゼン」や「周辺事業の探索」に注力させる。
意図的な「異文化交流」としての異動
異なる志向性を持つ社員を意図的に異動させることは、組織全体の学習能力を高める強力なテコとなります。
- 着実志向社員を新規事業へ
- 計画性やリスクヘッジの視点を持ち込み、無謀な挑戦に歯止めをかける。
- 挑戦志向社員を基幹部門へ
- 既存の硬直化した業務プロセスに疑問を投げかけ、大胆なデジタル変革(DX)やイノベーションを促す。
人事評価・育成戦略:志向性に応じたモチベーションの管理
社員のモチベーションを維持・向上させるためには、画一的な評価制度ではなく、それぞれの志向性に合わせたアプローチが必要です。
評価制度:プロセスとアウトカムのバランス
| 志向性 | 評価の重点項目 | 具体的な指標例 |
| 着実志向 | プロセスの遵守と安定性 | エラー率の低減、コンプライアンス順守、計画達成率、ノウハウのドキュメント化 |
| 挑戦志向 | アウトカム(結果)と革新性 | 新規顧客獲得数、新技術・新製品の採択、投資対効果(ROI)、失敗からの学びと次のアクション |
重要なポイントは、着実志向の社員に対して「失敗がないこと」を、挑戦志向の社員に対して「新しいことへのトライアル」を正当に評価することです。 失敗を責める文化は、特に挑戦志向の芽を摘みます。
育成:キャリアパスの複線化
志向性によってキャリアパスの希望が異なるため、複線化したキャリアラダーを提供します。
- 着実志向向けのキャリアパス
- 専門職(スペシャリスト)コース
- 特定分野の深い知識と技術を磨き続け、組織内で最も頼られる存在(例:チーフエンジニア、シニアアナリスト)
- 専門職(スペシャリスト)コース
- 挑戦志向向けのキャリアパス
- マネジメント/ジェネラリストコース
- 多様な部門・事業を経験し、組織を率いるリーダーや新しいビジネスを創出する経営人材(例:事業部長、社内起業家)
- マネジメント/ジェネラリストコース
組織文化:両志向性を共存させるリーダーシップ
最も難しい課題は、相反する性質を持つ二つの志向性を組織内で摩擦なく共存させるための「組織文化」を醸成することです。
心理的安全性の確保と対話の場
異なる志向性を持つ社員同士が、互いの価値観や貢献を認め合うためには、心理的安全性の高い環境が不可欠です。
- 「失敗の共有会」の実施
- 挑戦志向の社員が「賢明な失敗(Intelligent Failure)」から得た教訓を共有する場を設け、着実志向の社員がそれを業務プロセス改善に活かす。
- クロスファンクショナル・チーム
- 部署を横断したチームを組み、着実志向の「なぜそうするのか」という問いと、挑戦志向の「なぜやらないのか」という問いをぶつけ合う対話を奨励する。
リーダーシップ:統合と調整の役割
経営者・人事担当者を含むリーダーは、二つの志向性の「統合者(Integrator)」としての役割を担います。
- 共通のビジョン提示
- 着実な業務も、挑戦的なイノベーションも、最終的に目指す企業のビジョンは一つであることを繰り返し強調し、組織の一体感を醸成します。
- 境界線(ルール)の明確化
- 「どこまでが着実性が求められる領域で、どこからが挑戦が奨励される領域なのか」という裁量の境界線を明確にすることで、社員が迷いなく行動できる基盤を提供します。
「着実と挑戦」を統合し、持続的成長を実現する
「着実志向」と「挑戦志向」は、組織の成長にとってどちらも欠かせない車の両輪です。片方だけでは、組織は立ち止まるか、暴走するかのどちらかになってしまいます。
| 経営課題 | 解決に導く志向性 | 具体的な戦略アクション |
| 既存事業の収益力強化 | 着実志向 | 品質管理の徹底、業務プロセスの標準化、専門職キャリアパスの確立 |
| 新規事業の創出 | 挑戦志向 | 失敗を許容する評価制度、インキュベーション部門へのリソース集中、リスクを取るリーダーの選抜 |
| 組織の持続的な革新 | 両志向性の統合 | 意図的なジョブローテーション、心理的安全性の高い対話環境、複線化キャリアパス |
経営者・人事担当者の皆様は、まず自社の社員構成を「着実志向」と「挑戦志向」の観点から現状分析することから始めてください。
そして、そのバランスを戦略的にマネジメントすることで、VUCA時代においても揺るがない「両利き経営」を実現し、持続的な企業成長を確固たるものにできるはずです。
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