コンピテンシー評価シートを作成する方法や注意事項、ポイントとは?

自社に最適の「コンピテンシー評価シート」、作成できていますか?

多くの企業で長年、人事の領域で力を入れているものの一つに「評価制度」があります。評価と一口に言ってもその手法は千差万別です。評価手法をどう使いこなしても、すべての評価に関する問題やケースに対応し、社員誰もが満足できる評価制度を運用できている、という企業は多くはないのが現状です。

数ある評価制度の中で近年注目されているものの一つが「コンピテンシー評価」です。コンピテンシー評価では「コンピテンシー」を評価項目・基準として設定し、人事制度の中に組み込んで利用するシステムで、理想の状態(=『コンピテンシーモデル』)を定め、そこに向かって社員一人ひとりが目標設定し、上司や同僚などの周囲からの評価を受けつつ、自己も評価し、その結果を期末の査定や行動改善に活用していく、というものです。日本企業でも数十年前から導入している企業は少なくなく、大学などの教育現場や研究機関でも人材開発のために採用されています。

「コンピテンシー評価」を実際に人事評価で運用する際には、「コンピテンシー評価シート」を作成して導入する必要があります。コンピテンシー評価シートは、評価項目や評価基準、評価尺度などを一覧化したもので、コンピテンシー評価シートを活用することで、評価を受ける社員も、自分自身がどういった行動をすることが評価につながるのかを、客観的に判断することが可能になります。

コンピテンシー評価シートの概要と作成方法のポイントとは

コンピテンシー評価シートの概要や、シートに記載すべき事項、運用時における注意点について説明します。

コンピテンシー評価シートの概要とは

コンピテンシーを有効に運用するためには、自社ならではの、オリジナルの評価項目の作成が必要です。

評価項目を作成する具体的な方法は、必要とされるコンピテンシーの大きなテーマである「分類」を定め、それぞれの具体的行動内容を示します。役職や等級、資格ごとに具体的な行動レベルで落とし込んでいきます。

評価方法は「3段階」程度が適当とされています。この背景には、3段階以上になると、段階の評価にブレが生じやすくなるからと言われています。

実際に作成する場合には、役職や職務ごとの行動の説明の中に、従業員(読者)に行動イメージをわかすため、行動の具体例「たとえば~といったような仕事」と明示することをおすすめします。もちろん、業務内容や業務の範囲に変化があれば、その都度、事例などは変更しましょう。

コンピテンシー評価シートに記載すべき事項について

評価項目と評価基準(どういった行動がどの評価になるのか、またその評価比重)などを明確に作成します。

STEP1.評価項目を分類する

コンピテンシーはその内容や特性によっても分類することができますが、その分類法に“定型”があるわけではありません。企業や組織の目的・方向性によって、各々に適した分類法を策定していく必要があるのです。

今回のテーマである「評価項目」においては、以下のような分類の仕方があります。

  1. 自己成熟性…冷静さやストレス耐性、ビジネスマナーなどの指標
  2. 変化行動・意思決定…自立志向や自己革新、チャレンジ性などの指標
  3. 対人(顧客)・営業活動…親密性やプレゼン力、人脈などの指標
  4. 組織・チームワーク…同僚との関係、ムードメーカー性などの指標
  5. 業務遂行…専門知識、文章力、コスト意識、計画性などの指標
  6. 戦略・思考…視点の広さ・深さ、論理思考やアイデア力などの指標
  7. 情報…情報の収集・整理・伝達などの指標
  8. リーダー…理念・方針の共有、部下への配慮、公平さなどの指標

出典元『株式会社あしたのチーム』コンピテンシーマスター評価項目一覧

  1. 成果達成志向
  2. コミュニケーション
  3. チームワーク
  4. マネジメント
  5. 部下育成
  6. 顧客満足
  7. 自己研鑽
  8. 行動・時間管理
  9. 論理的な問題解決
  10. 関係構築

出典元『日本生産性本部』コンピテンシー評価モデル集【改訂増補第5版】

STEP2.具体的な評価軸を決める

詳細な評価軸を設定します。一例として、上記の「リーダー」のパターンを例にとって見てみましょう。

【注意】組織や評価項目を活用する目的によって、その内容や行動レベルは変化すること、また、評価の項目数も変化するなどの点は大前提です。

■理念・方針の共有:経営理念・方針、新しいやり方をわかりやすく部下・後輩に理解させ、実行させる
■経営への参画:部下・後輩を上手に計画・企画立案や改善活動に参加させる
■部下・後輩の指導/育成:育成 部下・後輩に気づきを与え、仕事を通じて計画的に部下の人間性を高め、成長させる
■権限の委譲:やる気と意欲のある部下・後輩に、思い切って仕事を任せ、伸び伸びと仕事をさせる
■部下・後輩への配慮:部下・後輩への気配り、心配り
■コミュニケーションの充実:ひとり一人の部下・後輩とより良い信頼関係を築き、効果的に仕事に活用する
■指揮・命令・徹底:目標や新しいやり方、規則やルールを部下・後輩に徹底して守らせる
■経営幹部との関係:い意味での緊張感を保ち、適切な報告・連絡・相談をする
■部下・後輩に対する公平さ:部下・後輩を分けへだてなく扱う
■採用と抜擢 :「素材」を見出し、場を与える
■目標の管理および評価:具体的な目標を設定し、定期的に途中面談し、結果を評価する
■部下・後輩との対立:部下・後輩に嫌われることを恐れず、言うべきこと厳しいことを堂々と言う
■システム管理力:既存の管理システムを利用し、経営の実効性を上げている
■業務管理力:業務効率アップのために、仕事の流れや分担をしっかりとチェックする
■後継者の育成:自分の腹心(分身)決め、計画的に特別教育している

出典元『株式会社あしたのチーム』コンピテンシーマスター評価項目一覧

STEP3.評価基準を整理する

次のステップは「基準の整理」です。評価をするためには「基準」と「項目」が重要ですが、これと共に重要になってくるのが「評価の尺度」です。基準と項目が設定されても、その基準と項目をどういった尺度で計るかを決めていなければ正確な評価を実現することはできません。評価基準と評価項目を設定したら、次に評価の尺度を明確にする、ということを覚えておきましょう。

「評価の尺度」ですが、大きく分けて「共通基準」と「個別基準」の2種類があります。

共通基準の尺度について

共通基準とは、企業や組織全体、あるいは全社員に共通する基準です。組織には、さまざまな業務や職務があり、社員の役割も異なります。おのおのに求められる能力・スキルや期待される内容も違えば、個人の評価基準や項目も異なります。

個別の評価が必要となるわけですが、個別評価を行う以前に、社員全体に共通する評価尺度がなければ、組織全体がまとまりの無いものになってしまいます。組織全体の共通基準という尺度を設定することによって、組織全体で、公平で公正な評価を実現できるのです。

共通基準の例
出典元『Forward March』人事評価の基準と項目

個別基準の尺度について

組織には多様な職務・業務があり、個人によって求められる要求・スキルも異なります。この時に活用するのが「個別基準の尺度」です。

個別基準は、共通基準と比較すると、評価項目を業務に沿って具体的に落とし込んでいく意味で、内容がより具体的になります。営業職などの数値的な評価項目が多くなりがちな職種は、共通基準を適用しやすく、反対に業務目標が数値化しにくい職務(広報、バックオフィス系など)は「個別基準」で評価する方が適当です。

「個別基準」を設ける場合のポイントは『業務上、可能な限り具体的な尺度を設けること』です。具体的な評価軸があることで、評価される社員自身が、自分に求められる会社のニーズを自覚しキャリアマップを描いていくことができるからです。

コンピテンシー評価シート一例
出典元『重本コンサルティングオフィス』コンピテンシー評価

コンピテンシー評価シート運用時の注意点について

人事評価制度を運用していくにあたって、評価の基準や項目の設定は非常に重要です。評価が曖昧なものになりがちであれば、基準や項目の設定が原因の場合が多いと思います。

評価の基準や項目の設定は、企業の経営理念や骨子となる方針が反映されるものです。企業が目指すべき方向に社員も共に向けていくためには、まず明確な理念や信念があり、それを評価の基準に結びつけていくことが大切です。

社員にとっても基準が明確になることはプラスになります。目指すべき方向が明確になり、自身がすべきこと求められることが鮮明になるためです。人事評価を通じて、自分自身のキャリアプランもしっかりと見えてくることにもつながります。

自己・一次評価の評点は、評価者・被評価者が明確な根拠を持って行えるような評価基準と公正さを第一に、未来のなりたい姿を具体的にイメージし、モチベーションにつなげることで、企業としての大きな成長が期待できるのです。

コンピテンシー評価は構築・ブラッシュアップの繰り返し

コンピテンシー評価の制度を導入する際は、評価シートを部署・モデルごとに事前に共有し、透明性のある評価を行っていることを周知しておくことがポイントです。人事評価制度を運用していくにあたって、評価基準が曖昧で不透明な部分が仮にあるとすれば、そもそもの基準や項目の設定のどこかに不備があると考え、再点検してみることをおススメします。

企業や組織が目指すべき方向に進んでいくためにも、組織としての理念と方向性を今一度しっかりと落とし込むことからスタートしましょう。

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