新卒採用のメリットを活かせていない日本
日本では新卒採用シーンが激化しています。中途採用に比べて一般的に語られる新卒採用のメリットは、「自社に合わせて育成でき、ロイヤリティーが確保できる」などと言われています。
しかし実際には、新卒採用者による離職率は中途採用と比べて高いことを示すデータがあります。このデータは、実は新卒採用者を研修や教育によって組織文化へ定着できていないことを示唆しています。
本記事では、その誤った認識を改めて新卒採用で成功するためのカルチャーフィットの可能性を探っていきます。
売り手市場の新卒採用
就職売り手市場になり、新卒採用の激化がますます進行する日本の採用シーンでは、新卒採用の強化は多くの採用担当者の抱える課題ではないでしょうか。
新卒採用で注意すべき点、強化できる点はあるのでしょうか?
新卒採用と中途採用のメリット・デメリット
新卒採用の特徴やメリット・デメリットは、中途採用の場合と比較される形で、広く認識されているでしょう。
それぞれのメリット・デメリットを比べると、以下のようになります。
メリット | デメリット | |
新卒採用 |
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中途採用 |
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(出展元)
『新卒採用ブログ OfferBox式』
激化する採用戦線!増員は中途か?新卒か?比較から見えた新卒採用のメリット
『日本の人事部』
よくわかる講座 : 中途採用とは
『マイナビ 新卒採用サポネット』
新卒採用のメリット
『優クリ Lab for Business』
中途採用』vs『新卒』デザイナー採用におけるメリット・デメリットは?
新卒採用の神話は、今の日本では成り立っていない
新卒採用と中途採用のメリット・デメリットを比べると、あることに気がつきます。
新卒採用では「自社の社風に浸透させて、高い忠誠心が期待」できるのに対し、中途採用では「前職の経験があるから、企業文化に馴染みにくく早期離職しやすい」と捉えている共通理解がある事です。
多くの企業が、新卒採用のメリットを「特定の企業文化に染まっていないから、入社後の教育で、企業文化が定着する」という前提で考えている事を意味しています。
しかし大規模な調査結果から、その前提は誤りである事がわかります。
野村総合研究所による「中小企業における就業者の離職率(2014年3月)」によると、小規模事業者から中小企業にかけて、新卒採用者の方が実は中途採用者よりも高い離職率である事がわかります。
上のグラフを見ると、資金力の低い小規模事業者の新卒採用の離職率が一番高いことは、それほど教育や研修費にかけるコストの損失が大きい事を示唆しています。
厚生労働省による年代別の離職率を見ても、男女ともに離職率が一番高い年齢層は、新卒採用を含むと推測される24歳以下の層で、離職率は年齢が高くなるに連れて減少傾向にあります。
一連のデータが示唆していることは、新卒採用者に対して「自社の社風に合わせて教育し、企業文化を継承する」ことができていない社会の現状を表しています。
むしろ「前職の経験があるから、企業文化に馴染みにくく早期離職しやすい」はずの中途採用者の方が離職率は低くなっています。このような傾向は近年特有のものではなくて、新卒採用シーンに根強く残っている問題だということが厚生労働省のグラフから読み取れます。
では、新卒採用者は、どのような理由で辞めてしまうのでしょうか?
下のグラフを見ると、就職後3年以内に離職をする理由の断トツトップに挙がるのが「人間関係への不満」である事がわかります。(「人間関係の何に対しての不満なのか明らかではないですが、「給与への不満」よりも高い理由であることは興味深いです。)
一連のグラフから様々なことが憶測できますが、実は新卒採用のメリットであると思われていた「自社の社風に合わせて、高いロイヤリティーの期待」「企業文化の継承」「企業文化の浸透は入社後に教育可能」という前提は、現実では間違いであることがわかります。
新卒採用者は、教育される以前に合わないと思ったら辞めてしまうケースの方が多いのです。このような早期離脱は、企業側にとって(特に教育にコストをかけられない中小企業にとって)多大な機会と資金の損失になります。
新卒採用における問題点・改善案は?
データを通して日本の現状を見ると、新卒採用者を研修や教育で組織文化に定着させる方法は実際には難しい事がわかりました。
では、期待と現実のギャップはどこから生まれるのでしょうか?
曖昧な人材要件定義
新卒採用は、ある程度即戦力が期待できる中途採用と比べて成長や教育への期待が含まれます。そのため、新卒採用選考は「性格・人柄」(矢野経済研究所、2009)や「コミュニケーション能力」(日本経済団体連合会、2016)など、内面に関わる要素が最も評価される傾向があります。
しかし「性格・人柄」や「コミュニケーション能力」とは、具体的にどういうことなのでしょうか?本当に面接や適性検査で見抜く事ができるのでしょうか?
心理学の理論的枠組みによると、「性格・人柄」などはある程度一定のものであり、外部の環境が影響する余地は少ないとされています。有名なものに「内向性・外向性」などがありますが、これらは個人に内在する特性で、生涯を通してある程度一定であると捉えています。
一方で「コミュニケーション能力」は(習得の個人差はあれど)、「スキル」の一部として、子供が読み書きを教えてもらって習得していくように、ある程度トレーニングによって鍛える事ができると言います。
これらの区別が曖昧だと、新卒採用の選考の時点で「入社後に伸びる資質」を見ているのか「ある程度変わらない資質」を評価しているのかが分からなくなります。
入社後は、新卒採用者の「変わる」部分を教育する
新卒採用選考で最も重要視される「性格・人柄」と「コミュニケーション能力」をしっかりと定義すると、入社後に教育すべき点は実は「スキル」の部分である方が得策だと言えます。
「自社の社風に浸透させて、高い忠誠心が期待できる」前提の新卒採用選考方法では、「性格・人柄」の部分の教育を入社後に期待している可能性があります。
ここに、現実と期待のミスマッチが生じています。
組織文化や会社のビジョンに合うか合わないかは、育った環境から形成される仕事への価値観や一定である性格に依存するので、教育による変化は期待しにくいでしょう。
この部分が柔軟に教育可能なら、より多くの新卒採用者が各企業の組織文化に適応し、継承していくはずです。しかし実際には、多くの新卒採用者の方が中途採用に比べて3年目の離職率が高いことを調査結果が示しています。
逆に中途採用の場合は、すでに出来上がったビジョンと価値観が備わっている事についてお互いに暗黙の了解があります。入社後の成長を見込む必要もないため、採用段階においてのマッチングの精度が無意識に上がっている可能性があります。結果的に、中途採用の方がカルチャーフィットのミスマッチが少ない場合が多いのではないでしょうか。
新卒採用こそ、カルチャーフィットが大事!
入社後に何が教育できて、何が教育できないかが明確になってくると、新卒採用選考では何に気をつけて評価すべきなのかがわかってきます。
新卒採用の時点では、入社後に変わらない要素を基準に評価すると良いでしょう。つまり、企業と候補者との間の内面的な部分でのマッチを見るべきです。内面的な部分のマッチは、性格特性やキャリアの価値観におけるカルチャーフィットだと捉えることができます。
「人間関係への不満」の離職理由が「給与への不満」よりも高いことを考慮すると、採用時点でカルチャーフィットを重視する事は、コスト面でも非常に効果の高い施策と言えます。現実的に考えると、企業は教育の先行投資をかけているにも関わらず、辞職して欲しくない理由で給与を引き上げる事は不可能だからです。
さらに先行投資にかかるコストを考慮すると、3年以内で辞められてしまうのは多大な損失です。そしてこの問題は、離職率が最も高く、かつ資金力のない小規模事業者にとって最も深刻な問題であると予想できます。それならば、入社後のミスマッチの可能性を採用の段階でなるべく減らしてしまう方が懸命です。
そのためには、採用選考で何を見るべきかの明確な指針の設定が必要です。
新卒採用でのカルチャーフィットの精度をあげよう!
新卒採用のカルチャーフィットが上手くいっていない理由として、曖昧な人材要件定義があります。
「人柄・性格」や「コミュニケーション能力」という曖昧な定義のもと、ぼんやりとした「なんとなくの理想の人材」を追い求めていると、実はその人材はそれぞれの組織文化に適した人材ではないかもしれません。
また人材要件定義がそもそも曖昧だと、面接で一体何を基準に判断すれば良いかも分からなくなります。なるべく明確に、求める人材像を定義しましょう。
離職理由のトップ「人間関係への不満」には、上司や経営者が対象となっているので、新卒採用者と上司との配属におけるカルチャーフィットを考慮するのも良いでしょう。
(明確な人材要件定義の例として、株式会社ゼロトゥワン様の「志望理由は『人』です。という曖昧さを精一杯言語化してみた。」が参考になると思います)
新卒採用でこそ、カルチャーフィットを見よう!
売り手市場により激戦化した新卒採用シーンですが、新卒採用の早期離職は依然として大きな課題です。
一般的な認識による新卒採用のメリットは「育成の余地があり、高いロイヤリティーが期待できる」ですが、実際に新卒採用者が組織風土へ定着する場合は少なく、結果的に高い離職率に悩む人事担当者は多いです。
その施策として、入社後の成長に期待すべき部分は「スキル」であり、新卒採用選考の時点で選別すべきなのは「カルチャーフィット」である、と設定すると良いでしょう。
カルチャーフィットは内面や価値観をベースにしたマッチなので、より明確な人材要件定義が必要になります。入社前にミスマッチをなるべく減らすことで、入社後に起こる多大な研修や人材育成費のコストを下げることができるでしょう。
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