採用学から探る採用の課題〜人材要件定義の曖昧さ〜

売り手市場の中での採用戦略

2017年7月1日時点での、2018年度卒業予定者の内定率は8割を超えました。(出典元:『キャリタス就活2018』7 月 1 日時点の就職活動調査〈速報〉 
7月の時点で内定率が8割を超える事例は、リーマンショック以前と同等の高水準だそうです。

この傾向は、人口減少による人手不足も相まって就職売り手市場になり、以前にも増して人材獲得競争が激化している事を示唆しているでしょう。このような状況では、企業の採用力がより求められてくるのではないでしょうか。

では採用担当者や経営者は、具体的にどのように採用戦略をたてれば良いのでしょうか?

意外にも心理学、経済学、経営学、社会学などをまたがり、人事や採用に関する実証研究が近年になって注目されています。

特に日本では、経営学者である服部泰宏教授が「採用学」を提唱しています。服部教授の著書「採用学」では、採用を科学的に捉えていくことの可能性と重要性について述べています。

さらに服部泰宏教授は、株式会社ビジネスリサーチラボと共同で、採用学研究所を立ち上げ、採用の研究を現場に生かしていく試みをされています。

そこで本記事では、採用学の観点から採用の課題を明らかにしていきたいと思います。
特に日本式な採用の一番の問題点は、「人材要件定義の曖昧さ」であると言えます。

服部泰宏教授著「採用学」が示唆する採用の課題
(「採用学」から要約)

服部教授によると、日本の採用は欧米に比べると、特殊な問題を抱えているという。

欧米では欠員がでたその都度、応募をかける採用が一般的だが、日本では定期的に多くの人材を一度に獲得する「新卒一括採用」が一般的だ。また、日本では長期雇用を前提とした採用方法なので、企業側は「ジェネラリスト」を求める傾向にある。

実際、矢野経済研究所(2009)の新人採用に関するアンケート調査によると、企業が新卒採用面接で最も重視する点は「性格・人柄」の回答が最も高い割合を占めてたり、日本経済団体連合会の調査によれば、「コミュニケーション能力」「主体性」「協調性」が最も高い割合を閉め、専門性やスキルを重視する企業は少ない。

そして日本企業が採用力を高めるための一般的な方法は、応募数をとにかく増やす方法である。これには、母集団を増やせば増やすほど、優秀な人材や求めている人材に出会える確率も上がるだろうという根拠がある。

「人材要件定義の曖昧さ」という問題

このような施策と傾向のもと、明らかになってくる日本の採用シーンの大きな課題は「人材要件定義の曖昧さ」である。

そもそも面接とは、企業が候補者に対して「求める」人材かどうかを見極め、入社後のパフォーマンスを予測する行為である。しかし、面接や選考段階での判断は入社後のパフォーマンスの20%も予測できていないことが科学的な研究による暫定的な結論である。

さらに面接側の人材要件定義が曖昧だと、面接で何を評価すれば良いかがわからないため、正確さはさらに低下するだろう。面接官が求める人材要件を明確に理解している場合でも、相性やバイアスなどにより数十分の面接で将来のパフォーマンスを完璧に予測することは難しい。

多くの企業が「コミュニケーション能力」や「主体性」を重要視していることは一般的に広く認知されているから、候補者も「正しい」回答を事前に用意できてしまう。
(事前に用意することについては「適性検査の嘘についてどう向き合うべき?心理学の知見から」で掘り下げています。)

さらに多くの企業が共通の「理想の人材」を求めてしまうことで、採用選考が企業間で一元化してしまう。そうすると、企業と候補者との間の期待が曖昧になっていく。企業と候補者側の期待が曖昧になったまま入社すると、結果的に期待と求められる人材像のミスマッチにより、早期離職に繋がる。

(注:「採用学」では詳しくは触れられていないですが、スキルではない価値観部分のミスマッチによる離職率の増加、それによるコストの損失については実証研究により明らかになっています。)

とにかく応募数を増やすという方法も人材要件が定義されていないまままだと、不適格な応募者も余計に増えることになり、選考精度の向上は期待できない。応募数をとにかく増やす方法は、特に人事担当者側のコストがかかり、資金のない企業には選択できない方法でもある。

売り手市場により採用活動自体にコストのかかる時代であるからこそ、選考時点での正確さを効率的に向上させることが、より良い採用であると捉えるべきだ。

「採用学」から分かるこれからの方向性

矢野経済研究所(2009)によると、多くの企業が離職防止についてとる対策は「研修」と「面接・カウンセリング」であることが分かります。しかし、「採用学」の観点から見てみると、入社「前」に対策をとることがいかに大切かが分かってきます。

採用の時点で求める人材を適切に見極められれば、入社後の離職防止も防げるはずです。
そして、多くの企業は「求める人材」を適切に定義できていないが故に入社後のミスマッチも起きやすいのだ、と服部教授は指摘しています。

まとめると、採用時点における方法の緻密さが欠けているというのが「採用学」の大まかなメッセージでしょう。

本記事では人材要件定義の科学的な解決策については省きますが、以下に「採用学」が示唆する大まかな方向性について記します。

  • 採用では何を「見ないべきか」を定義する ー 入社後に育成できる部分(変わる部分)よりも、変わらない部分を重視すべき。
  • 自社の求める人材を客観的に分析することで、新しい「優秀さ」を発見する可能性がある。
  • 自社独自の「良い人材」を定義することは、採用ブランディング構築することに繋がる。
  • 人材要件定義を明確にすれば、採用にかけるコストを抑えてより効率的な採用ができる。

特に本書では、「日本一短いES」などで話題になった三幸製菓株式会社の採用方法を例に、採用ブランディングのケーススタディを紹介しています。自社の求める人材要件定義にしっかりと基づいていれば、たとえ他社とは違う奇抜な採用方法には周りからは見えたとしても、本質的な採用ができている例です。

むしろ、他社とは違う採用方法だからこそ、差別化ができ、採用ブランド力が増していくと言えます。

求める人物像、しっかり定義できていますか?

売り手市場で激戦化した日本の採用シーンでは、より戦略的な採用が求められているでしょう。しかし、多くの企業では、従来の新卒一括採用や長期的雇用が前提にあるために、具体的な施策がないまま採用方法は硬直化しているのが現状です。

近年、日本で発祥した採用学の観点からみると、多くの企業に共通している課題点は、人材要件定義の曖昧さです。自社の求める人材像を見つめ直し、しっかりと定義していくことで、それに沿った具体的な施策が出来上がるはずです。

明確な人材要件が揃えば、他社との差別化ができ、結果的に独自の採用ブランディングを構築することに繋がります。

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