人材採用における現状とメンター制度の導入状況
バブル期を超える有効求人倍率の高さで、超売り手市場の格好を呈している採用市場。優秀な人材の獲得、そして獲得した人材を社内に定着させることは、以前にも増して重要な課題となっています。
大学新卒者の3年以内の離職率の高さは以前30%前後で推移しており、頭を悩ませている人事担当者も多いはず。今回は、若手社員の成長を促し、定着率を高める方法として注目されている、メンター制度についてご紹介します。
メンター制度とは、若手社員のサポート役として、会社や配属部署の上司とは別に、指導・相談役となる先輩社員がサポートを行う制度のことです。1980年代にアメリカで発祥したと言われています。日本政府も離職率の高さには危機感を抱いており、「人材確保等支援助成金」制度を作り、目標とした離職率まで低減できた場合に助成金を支給するといった対策も講じています。女性社員活躍のための「メンター制度導入マニュアル」を作成してインターネット上で公開するなど、政府が非常に力を入れている分野であります。
新入社員に対するメンター制度や、それに準ずる制度があると答えた企業は、全体の約51%とされています。獲得した人材を定着させるための施策が、十分に実施されていない状況と考えられます。
出典元『経営プロ』若手育成に「メンター制度」は本当に効いている?!
メンター制度の概要について
メンター制度、メンター制度に準ずる制度がある日本企業は51%、メンター制度を辞めてしまった企業は8%、そもそもメンター制度を導入していない企業が41%と、メンター制度が根付いているとは言えない状況となっています。
メンター制度の「メンター」の意味は、人材育成の指導法の1つと言われる「メンタリング」からきており、指導する側を「メンター」、指導される側を「メンティ」と言います。メンター制度は1980年代のアメリカで確立された人材育成方法です。
「指導法」とお伝えしましたが、メンター制度では、メンターからメンティに対し、指示や命令による指導が行われるわけではありません。両者間の対話を通じて、メンティが自ら気づきを得て、成長していくというところに、メンター制度の意義があります。
メンター制度を導入すると、具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。
メンター制度導入の効果とは
メンター制度を導入することで期待できる効果は、次の3つが挙げられます。
若手社員の育成と定着
メンター役の先輩社員が、自身の成功体験を語ることで、メンティである若手社員は、成功へのイメージが形成できるようになり、仕事へのモチベーション向上が期待できます。
メンターのリーダーシップ力向上と今後のキャリア形成
メンターがメンティに関わっていくことで、メンターが数年前の過去の自分を思い出し、自らの成長を実感すると共に、その実感が新たな自信をもたらします。
組織風土の醸成
メンター制度を導入することで、メンター・メンティ間だけでなく、会社全体に人材育成の重要性を浸透させ、組織風土を作り出すことができます。
人材を大切にするという組織風土は、今後の採用活動においても、応募者に対する魅力にも繋がります。
メンター制度のメリットとデメリットとは
メンター制度を導入するにあたっては、事前にそのメリットとデメリットを、それぞれを理解しておくことが重要です。
メンター制度のメリットについて
メンタリングチェーンと呼ばれますが、部署間を越えたコミュニケーション、相談しやすい雰囲気を醸成することができます。メンター・メンティ間だけのことと捉えられやすいメンター制度ですが、社内コミュニケーションの活発化にも繋がるとされています。
メンターは「教えることの責任」を感じるようになるので、より自身の仕事に対し責任感を持って取り組んでくれることが期待できます。
メンティはメンターと関わる中で、数年後の自分の姿をイメージし、キャリアアップへの意欲が高まることが期待できます。身近にロールモデルとなる人がいることで、会社で働く意義、なりたい自分を明確化することができ、結果的に定着率を高めることに繋がります。
メンター制度のデメリットについて
最も大きいデメリットは、メンターの業務負荷が増えることでしょう。メンターによって指導内容やレベルに差が出てしまうことも予め想定しておかねばなりません。
メンターとメンティのマッチングに失敗すると、制度が無意味となってしまうため、どのメンターにどのメンティを任せるかという、マッチングの精度も重要となります。
自社の状況に即したメンター制度を
メンター制度には、メリットもデメリットもあり、導入さえすればいいというものではありません。
メンター制度を導入したものの、十分に活用できていない企業もあります。メンター制度では解決できない、そもそもの人間関係や社風との相性による離職が原因のケースも多々あるからです。
他社が導入しているから、昔から運用している制度だから、と他社事例をそのまま導入したり、これまでの制度から改善・アップデートしないのでは、制度が形骸化してしまいます。自社の置かれている状況や課題と向き合い、解消するために、どのようにメンター制度を活用するのかといった視点が求められています。