ハイパフォーマーの特性を人材育成に活かすには?
会社の業績を伸ばすための方法は企業の方針や事業戦略によりさまざまですが、「活躍する人材を増やす」「活躍する人材のパフォーマンスを向上させる」など、人材が業績向上に大きく影響するところは間違いありません。
人材が企業の骨子のテーマである中「ハイパフォーマー」と呼ばれる高い成績を残す優秀な人材は貴重な存在です。「売上の8割は2割のハイパフォーマーが生み出す」「人口の二割の裕福な層が社会全体の富の8割を占有する」などの「8-2の法則(パレートの法則)」も、上位成績者の優位性を顕著に表現するものです。“全体の少数の要因が全体の多数の結果に影響を与えている” ことを示した「パレートの法則」は、経済や社会、自然現象などでも多く存在しています。
企業にはさまざまな価値観を持つ多様な人材がおり、活力のある組織を構成する上で重要なことでもあります。ハイパフォーマーのパフォーマンスをさらに向上させるのはもちろん、残り8割の社員のパフォーマンスも同時に向上させることが重要です。まずは、ハイパフォーマーの特徴を分析し、採用や教育研修などの人材育成の場に組み込んでいくことが大切になります。
今回は「ハイパフォーマー」の特性を分析し、人材育成に活用する方法についてご紹介します。
ハイパフォーマーを分析して育成につなげる
ハイパフォーマーを構成する3つの要素
「ハイパフォーマー」は、業務に必要な高いスキルを有しており、かつ高い成果を出す人材です。「コンピテンシー」(人材の適性を見極めた配置・採用などを効率的に行なうために用いられる企業人事の評価基準)から派生した概念とも言われ、自社業績への貢献度が高い人材でもあるとも言われています。
ハイパフォーマーのこれまでの経験や入社経路を、専用の管理システムなどを活用して管理すれば、採用活動が効果的になると共に、人材流出のリスク防止などにも役立てることができます。
思想や価値観
ハイパフォーマーは「何のために行動を起こすのか」など、業務に対する明確な目的意識を持っています。目的意識とは、自分や会社にとって何が重要なのかや、顧客が望んでいるものを具体的にイメージするなど、思想や価値観、信念、アイデンティティーに基づいています。
思想や価値観は、行動を起こす場合や何かを判断する際の価値基準にもなっています。ハイパフォーマーの思想や価値観を収集・分析することで、彼らが大切にしている価値観を明確にすることができます。思想や価値観を他の社員と共有したり、企業のコアの価値観と一致させることは、人材育成や組織力を高める取り組みに活かすことができます。
発揮している知識、スキル
ハイパフォーマーの行動は、行動を可能にする知識やスキルに基づいています。ハイパフォーマーが持つ知識やスキルをデータ化することで、他の社員の人材育成に活用できます。
ハイパフォーマーが持っている資格や業務経験をまずはリサーチしデータとして管理してましょう。知識やスキルデータは、新たな人材採用の際にも、選考基準として活用することができます。
行動特性
行動特性とは、「なぜ彼らはそのような行動をとるのか」「どのようにして、その行動がとれるようになったのか」「ある状況で、彼らはどのような行動をとるのか」などを見える化していくことです。
「自発的」の行動特性を具体的にしてみる場合「指示されなくても自分で考え行動する」「どんな仕事でも前向きに取り組む」などに分解していきます。行動レベルに落とし込むことで、日々の実践に落とし込むことができ、人事データとして活用しやすくなります。
ハイパフォーマー分析の手順
ハイパフォーマーの人物像よりも、ハイパフォーマーが取っている/きた行動に着目します。どれもハイパフォーマーの完成形だけでなく、成長してきたステージに分けて示すことも重要です。こういったハイパフォーマーの分析には、「コンピテンシー」を活用することをオススメします。
そもそも、「コンピテンシー」とは「業務遂行能力の高い人物(ハイパフォーマー)に共通する行動特性」と理解されています。もともとはハーバード大学で研究が進められ、人材開発の領域で、すでに日本国内でも広く用いられている考え方です。
「コンピテンシー」の特異な点は、コンピテンシーの高さが、そのまま学歴や専門性と必ずしも比例するわけではないというところです。一般的に使われる「頭の良さ」を表す指標というよりはむしろ、他者とは異なる行動特性を持ち、これを活用することで高い業務遂行能力を発揮している点が注目される領域なのです。
ハイパフォーマーの行動特性=「コンピテンシー」ですが、「コンピテンシーモデル」は、これを実務で使用するためにモデル化したものです。
実際に組織の中で「コンピテンシー」を活かしていくためには、いかに自社ならではの「コンピテンシーモデル」を作成できるかにかかっています。実際に「コンピテンシーモデル」を作成するにあたっての手順は、おおまかに以下のようなカタチになります。
1.どのような人物を目標としていくか、ハイパフォーマー(高業績)の人材の洗い出し・明確化
どのような人物を目標とするのかを明確化する必要があります。「業績が非常に良い」「効率的に業務をこなす」「ミスが少ない」など、業種や職種により様々な目標が考えられます。今回は「業績が非常に良い(ハイパフォーマー)」を目標とすると仮定します。
2.行動特性を把握し、コンピテンシーの項目を作成する
ハイパフォーマーによるチームを作り、どの領域のモデルを作成するかを確定後、「コンピテンシー・ディクショナリー」から、必要なコンピテンシーの項目・要素を作成します。
3.ハイパフォーマーへのインタビュー
②で項目の選定完了後は、ハイパフォーマーへのヒアリングを実行します。普段の行動レベルから、業務上で重視している、業務達成のためのモチベーションに関してなどを、前回選定した項目に沿ってヒアリングします。
出典元:日本におけるコンピテンシー―モデリングと運用― 井村直恵
4.組織の将来ビジョンとのすり合わせ
ハイパフォーマーへのヒアリングができ、コンピテンシーモデルがある程度固まった後は、経営層との考え方のすり合わせを行います。
5.全社周知と内容の共有
コンピテンシーモデルが完成したら、全社員に共有し、行動指針とするべく活動を展開します。
※コンピテンシーモデルの作り方の詳細は「自社独自のコンピテンシーモデルの作り方、5ステップとは」を参照ください。
ハイパフォーマー以外の人材の育成方法
それぞれの人材の特徴を抽出し分析する
企業と個人が在りたい姿に向かってともに成長するための仕組みとして、人材の見える化がまずは重要です。見える化を行うためには、基準となるモデルが必要で、そのためにはまず、6割のミドルパフォーマーや2割のローパフォーマーに対して、ハイパフォーマーと同様の分析を行いましょう。
一例として、人の能力を氷山で表現してみます。氷山を使って表現したいこととして、「海面上は見えるけれど、海面下の広がりは把握し難いこと。そして、海面下にこそ膨大な質量が隠れている」という二点があります。(図2)
出典元『POSITIVE』人材要件を定義し、ハイパフォーマーの行動を探る
- 知識:外からも把握し易く試験や職務経験などで測ることのできるもの。
- 技量(スキル):論理思考力、コミュニケーション力、発想力といったものであり、知識・経験を用いて業務を遂行する上で必要になってくるもの。
- 行動特性:知識や技量を活かして成果を生み出すための行動が取れるかどうかを左右するもの。
- 思想・価値観:行動特性よりも更に深いところで個人の判断や行動を決定づけるもの。
海面上の「知識/技量(スキル)」は、職種や時代背景に応じて変わってくるものですが、「思想・価値観」は企業として個人として普遍的なものです。
実際に人物を分析する際に重要なのは、自社社員が共通して持ち合わせる「価値観」や「スキル」よりも、ハイパフォーマーだけが持ち合わせている「スキル」や「価値観」を明確にすることです。ハイパフォーマーだけが有しており、なぜミドリパフォーマーやローパフォーマーが持ち合わせていないのか、その点を明確にする必要があります。
明らかになったハイパフォーマーの特徴は、ミドル層やローパフォーマーの育成に活用します。実際に、身につけてもらいたいスキルなどを明確にし、目的に沿った研修を行いながら上位との差を埋めていくことを具体的にイメージしていくことが有効です。
ハイパフォーマーの特徴を組織に広く展開していくために
ハイパフォーマーの資質を向上させることはもちろん、一般の社員をしっかりと育成するためには、ハイパフォーマーだけが持ち合わせているスキルや特徴などを特定する必要があります。
内容としては「スキル」が最も育成しやすく、「性格・価値観」「行動特性」が最も後付けでの育成が難しいものです。性格や価値観などはある程度、採用時に見極めることが重要になるので、留意しておくことをオススメします。
スキルなどは、後からでもバックアップできる素養は、社内に研修体制などの仕組みをしっかり整えることが大切になります。