ストレス耐性を入社前に見極める
「ストレス耐性(英訳:stress tolerance)」とは、「ストレスに耐える強さ」を意味しています。
企業の人材採用や育成時において「ストレス耐性」は重要項目としてチェックされるようになりました。過労など起因する事象がさまざまとはいえ、精神障害など仕事に由来する労災の請求件数や認定件数は増加傾向にあります。
精神障害の労災請求が増加している背景として、①労働力不足によって、1人あたりに求められる業務量や業務の質が上がっていること②グローバル化やロボット・人工知能の発達により、業務内容そのものが変化していることなどが考えられます。
労災を認定されてしまうことで、実態がどうあれ「ブラック企業」として悪評が広まるなど、企業ブランディングへの影響も大きくなります。多くの企業が、メンタルヘルス不調を起こす応募者を採用しないために、採用選考時にストレス耐性検査を実施しています。
今回は、適性検査の一種であるストレス耐性検査がどの程度ストレス耐性を見極めることができるのかについて説明します。
ストレス耐性は検査によって明らかになる
ストレス耐性とは、仕事上さまざまな形で降りかかるストレスに対して、適応できるスキルや抵抗する力をもっているかの能力のことです。ストレス耐性の度合いは、人によって様々であり、検査によって測ることができます。
ストレス耐性が高い人ほど、重いストレスを受けても乗り越えられます。ストレス耐性の低い人は、少しのことでも落ち込んでしまう傾向があります。
ストレス耐性は、教育研修を通して鍛えることで高められます。人事考課や採用を行う人事担当者は、ストレス耐性をチェックすることで、社員へのフォローや人材の配置部署への見極めができやすくなるため、定期的にチェックしておくべき項目です。
ストレス耐性を決定する6つの要素とは
ストレス耐性の度合いは、人によって様々です。ストレス耐性を決定づける要素として「感知能力」「回避能力」「処理能力」「転換能力」「経験」「容量」が挙げられます。
- 感知能力
- 回避能力
- 処理能力
- 転換能力
- 経験
- 容量
感知能力
感知能力とは、ストレスの原因となるストレッサーがある時に気づくかどうかの能力です。ストレッサーに気が付かなければ、ストレスと感じることもないためです。
相手に横柄な態度をとられても「さっきの態度は皮肉だったの?」と考える人にとってはストレスにはなりません。感知能力が高い人は、様々なストレッサーに気が付きやすいためにストレスを感じやすく、ストレス耐性が低い傾向になります。
感知能力は、個人の性格や心身の状態に影響されることが多いです。
回避能力
回避能力とは、ストレスを作りやすい性格かどうかです。
相手から失礼な態度をとられても「仕事だから」と割り切ることができる人や、細かいことにとらわれない人は、ストレスを感じにくくなります。
回避能力は、自律神経系や内分泌系、免疫系の安定と関連性があります。心身が健康であれば、ストレスの影響は少なくなります。
処理能力
処理能力とは、ストレスの原因となるストレッサーそのものをなくす、ストレッサーの影響を弱めることができるかの能力です。ストレッサーに有効な対処ができる人は、ストレスに強いと考えられます。
ストレスの原因となるストレッサーを解消できれば、ストレスを感じることもなくなります。仕事の量が多ければいかに効率よく仕事をこなすか調整する、対人面で問題があればチームのコミュニケーションの質を高める策を講じるなど、原因をいかに処理するかの能力は個人によって変わります。
転換能力
転換能力とは、ストレス状態に陥ったときに、ストレスを良い方向に捉え直すことができる能力です。
転換能力の高い人は、ストレスをポジティブな事柄に置き換えられるため、心身に大きな影響を与えにくくなります。「失敗は自分にとって非常に貴重な学びだった」「自分にさまざまなことがあったからこそ、人に気遣うことができるようになった」と考えることができます。
経験
経験とは、過去に受けたストレッサーの頻度や内容などの経験がどの程度あるかです。何度も同じようなストレッサーに遭遇すると、ストレッサーに慣れることで、徐々にストレスを感じにくくなります。
経験が多いことで、ストレス耐性を弱めてしまうケースもあります。「失恋は何度もした。すでに慣れているから自分は平気だ」と思える人と「また失恋してしまった…。自分は誰とも付き合えないのかな……」と思う人がいます。
容量
容量とは、ストレスの保有量がどの程度あるかです。ストレスを感じても、個人のストレスの許容範囲ならば、ストレスをストレスと感じることはありません。
ストレス容量は、個人の心身の状態によっても変化します。大きな失敗をしたとき、大きな怪我をしたときなどであれば、些細なストレスも大きな影響を与えてしまいます。
育成できない部分と見極めについて
「感知能力」など、後天的に育成することが難しいストレス耐性が挙げられます。感知能力などは、個人の性格や価値観、持って生まれた気質に由来するものであるためです。
後天的に育成できないストレス耐性については、採用前に見極めることが大切です。性格や価値観、ストレス耐性の見極めは、適性検査が得意とする分野です。
育成できる(変化する可能性のある)ストレス耐性
「転換能力」や「経験」「容量」などの、後天的に育成できるストレス耐性の見極めは、育成できないストレス耐性と比べて、見極めの重要性は高くありません。
組織の中で働く間に、従業員は様々な経験を経て成長します。成長に比例して、ストレス耐性のレベルや対応力は変化していきます。経験などはストレスを受ける人の現状に紐づくため、地道に育成することで、ストレス耐性は徐々に強くなっていきます。
ストレス耐性における注意点とは
ストレス耐性の度合いは、個人差があるだけでなく、同一人物であっても変化します。ストレスをあまり感じないタフな人でも、何か大きな失敗を経験した後は自信を喪失してストレス耐性が弱体化し、小さなストレスでも影響を受けやすくなります。
注意すべき点は「ストレス耐性が高い人材=優秀な人材」とは言い切れないことです。
ストレス耐性が低い人材は、几帳面であり丁寧な仕事をする、リスクヘッジができているなどの特徴が挙げられます。ストレス耐性が低い人材でも、個人の特性を把握した上で適した業務や職種に配属すること、前提となるストレス要因を排除することで、活躍する人材となります。
挑戦して失敗した経験は、自分にとって重要なことであるほど苦しい経験です。 しかし、失敗はストレス耐性をつけるチャンスでもあります。
失敗したとしても、挑戦し続けることが貴重な経験となり、個人を形成していきます。小さい失敗を積み重ねてストレス耐性をつけていくことが、人としての成長にもつながります。
ストレス耐性検査では先天的な要素を見極めよう!
ストレス耐性は、個人差があるだけでなく、同一人物でも変化しうるものです。ストレス耐性検査で後天的に変化しにくい(育成できない)部分の見極めに用いるのは有意義ですが、ストレス耐性が低いことを理由に採用の是非を決めることは適当ではありません。
ストレス耐性が高い人材でも、ストレスを与える要因であるストレッサーが多い環境にあれば、メンタルヘルス不調を起こすリスクがあります。
ストレス耐性の強さだけでなく、自社の環境におけるストレスの原因について理解しましょう。ストレス耐性の低い人材も多面的に見極めることで、ストレス耐性の強弱にかかわらず、メンタルヘルス対策を実施することが大切です。