「本物」を意味するリーダーシップ
リーダーシップは古くから学問的な関心を集めており、20世紀初頭にアメリカを中心にその理論化・体系化が進められてきました。
初期の研究ではリーダーシップは生まれついた才覚によるものだという見解でしたが、時代を経るごとに変わっていき、現代では「リーダーシップは生まれつきのものではない」「どのような状況下でも唯一普遍で最適となるリーダーシップは存在しない」という考え方が主流となっています。
近代のリーダーシップ研究であるコンセプト理論では「状況に応じた具体的なリーダーシップのとり方」が研究されています。コンセプト理論のひとつに「オーセンティックリーダーシップ」があります。オーセンティック(Authentic)とは、日本語で「確実な」「本物の」などの意味があり、オーセンティックリーダーシップとは「自分らしさ」を活かしたリーダーシップです。今回はオーセンティックリーダーシップの詳細を説明します。
オーセンティックリーダーシップとは
オーセンティックリーダーシップは、米国メドトロニック社の元CEOであるビル・ジョージ氏によって提唱されたリーダーシップ理論です。「オーセンティック(authentic)」とは、直訳すると「本物の・確実な・真正な」という意味することばです。
オーセンティックリーダーシップの詳細は2003年に出版された著書『ミッション・リーダーシップ』に述べられています。ビル・ジョージ氏は、リーダーシップにおける倫理観や道徳観についての必要性を主張しています。
オーセンティックリーダーシップの5つの特性とは
ビル・ジョージ氏が提唱するオーセンティックリーダーシップには、以下の5つの特性があります。
- 自分の目標を明快に理解する
- 自身のコア・バリューに忠実である
- 情熱的に人をリードする
- 人とリレーションシップを構築する
- 自身の規律を守る
彼の提唱するリーダーシップの大きな特徴は、社会的な地位や評価、そして資産などではなく、意志や理想を第一とした行動理念を最優先しているという点です。外的な評価でなく、個性や本質に根ざした地に足ついた「自分らしさ」で組織のメンバーをリードします。
フォロワーに対してもたらす効果について
意志や理想を明確にもち、しっかりとコア・バリューを伝えることがオーセンティックリーダーシップでは重要と説明しましたが、具体的にはどのような影響をフォロワーに与えるのでしょうか?
リーダーシップに関する研究は「リーダーシップとは何か?」という問いから出発し、時代とともに解釈を変えてきました。現在では「状況や組織メンバーによって臨機応変に変えるべきもの」という考え方が主流となっていて「絶対的に正しいリーダーシップ」というものはないとされています。だからこそ「私はこういうスタンスのリーダーシップをとります」ということを表明するためにも、コア・バリューをフォロワーに伝えることが大切です。
自らの真意を伝えることでで生まれるのは「フォロワーとの信頼関係」です。
状況に応じて求められるリーダーシップは異なりますが、状況によって「演じている=偽っている」とフォロワーが感じてしまうと、そもそものコミュニケーションが破綻する恐れがあります。
長期的な視点での組織成長や事業成長のためには、いくつもの課題を乗り越えていく必要があります。困難な課題に対してフォロワーとともに乗り越えていくためにも、コア・バリューを共有し、信頼関係を強くすることが重要なのです。
実践のための4つのステップとは
「口うるさく自分の正義感を話す」だけでは、フォロワーの信頼を得るほどの説得力は期待できません。2008年にオーセンティック・リーダーシップを実践するための4つのステップが考案されました。
1.自己理解
自身が組織に対してどのような位置にいるのか、自身や組織といった内的・外的な価値観がどのような関係性で存在しているのかを正しく理解する必要があります。
自分の強み・弱み、他人にどのように見られているか、自分がどういう理念や感情を持っているか……など、複数の視点から客観的に自己分析を行います。
2.自己の道徳観理解
オーセンティックリーダーシップが生まれるきっかけになったのは、企業の不祥事です。利益を伸ばすだけでなく、倫理的な側面をビジネスにおいて強化する必要が生まれ、リーダーシップに道徳観をどのように取り入れるかがポイントになりました。
自己の道徳観理解のステップでは、地位や名誉、資産など外部の影響に受けない普遍的な思想をしっかりと見つめ直します。
3.バランスをとって処理
簡単に言えば「PDCAサイクルをしっかりと回していきましょう」というステップです。自分の目標、コア・バリュー、道徳に対して行動が適切かどうかを常に振り返り、軌道修正を行います。
4.透明性のある関係を維持
「透明性のある」とは、組織内の情報がしっかりと共有されているということです。
「なぜこの行動をしたのか」に対して正義感に即した理由付けを行い、フォロワーと議論・共有することで信頼関係を構築していかねばなりません。
外的評価に惑わされない「正義感」を持つことが大切
チームの生産性や業績の向上がアウトプットとなる近代のリーダーシップ研究において、倫理観などの自分の感情が反映されていないことで生まれたのがオーセンティックリーダーシップです。
外的要因にだけ目を配るのではなく、自分自身の内的要因にも目を配り、正義感を軸に組織を引っ張っていく必要性が、過去の企業不祥事などで言及されるようになりました。「リーダー自身の心」を大切にし、自分らしさを生かして人を導くリーダーシップが、オーセンティックリーダーシップの本質なのです。