パラレルキャリア・パラレルワークとは?
働き方改革が本格化する昨今、テレワークや副業・兼業、短時間勤務など、多様な働き方を導入する企業が増えています。そんななか、新しい働き方として注目を集めているのがパラレルキャリアです。
パラレルキャリアとは「本業を持ちながら、第二の活動をすること」と定義されています。。第二の活動は、別の仕事を持つことや、プライベートでボランティア活動や非営利団体(NPO)に参加することや別企業への就職、自営業の開始など多岐にわたります。
ところで、パラレルキャリアは副業とはどう違うのでしょうか。
副業は、収入を増やすために本業以外の仕事をするという意味合いが大きいと考えられます。これに対し、パラレルキャリアにおいては、収入増よりはスキルアップや将来に向けた自己投資、社会貢献などのほうが重視されます。つまり、パラレルキャリアは副業を超えた概念ととらえたほうがよいでしょう。
高まるパラレルキャリアへの関心
ビジネスパーソンたちの間で、パラレルキャリアへの関心はどれほど高まっているのでしょうか。
中小企業庁の調査では、現状大多数の企業が副業を「原則禁止」しており、認めている企業は全体の14%程度となっています。
労働者サイドからは、以前から、副業・兼業を求める声は以前から多く、年々増加しています。総務省の調査によると、副業・兼業を行う理由としては、「自分がやりたい仕事であること」「スキルアップ」「資格の活用」「十分な収入の確保」などさまざま。副業・兼業の形態も、正社員、パート・アルバイト、会社役員、起業など多岐にわたります。
そもそも副業に興味がある人の割合は?
そもそも副業の現状はどうでしょうか。
総務省統計局「平成24年度就業構造基本調査」によると、全就業者のうち副業をしている就業者は約234万人(3.6%)、副業を希望する就業者は約 368 万人(5.7%)となっています。
参考URL:『総務省統計局』「平成24年度就業構造基本調査」男女、年齢別副業を有する有業者数(※エクセルファイルです)
リクルートキャリアの「兼業・副業に対する企業の意識調査」では、兼業・副業を禁止している企業の割合が77.2%となっています。
出展元『リクルートキャリア』兼業・副業に対する企業の意識調査
まだまだ多くの企業が副業解禁に対して慎重な姿勢を示しているのが現状です。兼業・副業の禁止規定そのものが、副業への興味を表明する就業者の数を抑えている可能性が高いと推測できます。
従業員にとって、どんなメリット・デメリットがあるの?
従業員から考えた、パラレルキャリアを実践するメリット・デメリットについて述べていきます。
従業員にとってのメリット
- 自身のスキルアップや視野の拡大
- 自己実現や社会貢献を追求することによる幸福感の向上
- 本業では出会えない人々との人脈形成
従業員にとってのデメリット
- 就業時間が増えることで本業に支障がでること
- タイムマネジメント・タスク管理が困難になること
- 本業へのコミットメントを疑われる恐れ
そもそも「会社の規則違反」と見なされるリスクと隣り合わせです。副業が認められていない会社に勤めている場合、たとえ本業以外の活動が無報酬であっても、周囲から「本業にコミットしていない」と思われる可能性はデメリットといえるでしょう。
企業側にとってのメリット・デメリットとは?
企業側にとって、従業員のパラレルキャリアを認めることで享受できるメリットは何でしょうか。
企業にとってのメリット
- 採用力の強化
- 社員のスキルアップとそれに伴う生産性向上
- 本業とのシナジー
人口減少が進むにつれ、優秀な人材は企業間で取り合いになることは間違いありません。今後の採用において「自社はパラレルキャリアが可能」と謳うことが、優秀な人材を引きつける材料になりえます。
パラレルキャリアを容認することで、企業側は次のようなデメリットを留意する必要があります。
企業にとってのデメリット
- 情報漏えいのリスク
- 本業への支障
- 従業員の健康配慮
- 他社への人材流出
- 就業規則改正などの事務コストの増大
本業以外の活動が順調にいき始めた従業員が、本業を退職して起業または転職を選ぶ可能性はあるでしょう。就業規則の改正、社会保険料や割増賃金などの負担調整といった事務コストが発生することが予想されます。
パラレルキャリア導入事例に学ぶ
従業員・企業に様々なメリット・デメリットがありながらも、パラレルキャリアを認めることで従業員と企業の双方がメリットを享受しているという先駆事例を2つ紹介します。
1つ目は、ソニー株式会社に勤めながら、在学中に起業した株式会社ハピキラ FACTORYの経営を続けている正能茉優さんの事例です。「パラレルキャリア女子」「新しい働き方の実践者」として注目を集めている正能さん。「仕事や趣味、家族などバランスよくこなし、生きていきたい」という本人のニーズが満たされ、理想の生き方ができているといいます。同時に企業側は、正能さんがハピキラで得てきた人脈や幅広い経験を、新規事業創出などに活かしており、Win-Winの関係ができています。
2つ目は、副業解禁をはかったサイボウズ株式会社の事例です。サイボウズ株式会社は、フルタイム分の給与が不要になったことで、高給人材が登用しやすくなったこと、働き方の多様化を促すことでマネジメント力を強化できたことなどをメリットとして挙げています。一方、従業員も自分自身の経験の幅を広げ、リフレッシュ効果を得ているといいます。
企業がパラレルキャリアを導入するにはどんな方法がある?
企業が実際にパラレルキャリアを導入するうえで、どんな行動をとればよいのでしょうか。
パラレルキャリアを前提に、兼業・副業禁止規定を見直すという制度的な変更が重要となります。情報漏えいなどのリスク管理の対策としては、毎年兼業や副業の申請の機会を設けて、「社内情報を持ち出さない」「本業に影響しない」といった基本事項を確認するという方法も有効です。
パラレルキャリアは従業員のみのニーズではなく、国も推進している新しい働き方の一つです。(参考URL:『中小企業庁』兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業)オープン・イノベーションの促進、自己実現・人材育成の促進を通じた一億総活躍社会の創出への貢献といった目標を達成するには、パラレルキャリアの容認が重要な役割を果たします。
人事担当者や経営者にとっては、自社でもパラレルキャリアのニーズがあるかもしれないという前提のもと、制度導入を検討すべきタイミングがきているといえます。
パラレルキャリアにより得られるメリット・デメリットを客観的に比較し、成功・失敗事例を学ぶことで、検討を進めてみてはいかがでしょうか。