生産性向上要因を追及したホーソン実験の内容とは
現在、人手不足や働き方改革が進められている中で、組織や仕事の生産性を向上させることは多くの企業の課題となっています。その生産性向上を検証するための研究が「ホーソン実験」です。
ホーソン実験とは、アメリカの電機機器製造企業のウェスタンエリクトリック社でジョージ・エルトン・メイヨー教授によって行われた実験で、目的は生産性向上において何が起因するのかを導き出すことでした。ホーソン実験の結果から、生産性向上には作業環境ではなく人間関係が影響することがわかりました。
具体的にホーソン実験ではどのような要因が検証されたのでしょうか?実験内容から、その要因について説明致します。
なぜホーソン実験が行われたのか
そもそもなぜホーソン実験が行われたのでしょうか。
はじまりは、フィラデルフィアの紡績工場での圧倒的な離職率の高さに困った社長から、メイヨーが直々にお願いされた調査からでした。ホーソン実験の前哨戦といわれるミュール実験です。
紡績工場の仕事内容を調査したところ、単調で孤独な作業の連続でした。そこでメイヨーは「1日4回10分間の休憩をいれる」ことを実践しました。すると250%もあった離職率が5%へと下がったのです。
この実験を機に、メイヨーは労働の生産性を上げるものは何なのか、実験を行うことにしたのです。
ホーソン実験の4つの実験内容とその結果
メイヨーは、1924年から1932年の約8年をかけて、シカゴ郊外にあるウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場にて、労働の生産性を上げる要因を追求する実験を行いました。
ホーソン工場では、「照明実験」「組み立て実験」「面談実験」「バンク配線作業実験」の4つの実験が行われました。
1.照明実験(労働環境は影響するか)
この実験では労働環境が生産性にどう影響を与えるかということを調べる実験でした。照明が暗い状態で作業をすると生産性が低くなり、明るいと生産性が上がるという仮説の元、それぞれの環境での生産性を測りました。
結果は「生産性に労働環境は関係ない」というものでした。確かに明るい環境では生産性は上がったのですが、暗い状況であっても生産性は下がらずむしろ上がったのです。作業条件と能率には相関関係はありませんでした。
2.組み立て実験(労働条件・待遇は影響するか)
この実験では無作為に選んだ女性6名に継電器のリレーをさせます。ただ、賃金を上げたり下げたり、休憩時間や食事の有無、部屋の温度の上昇、下降など労働条件を変えながら、その生産性と作業能率を計測していきました。
仮説としては照明実験と同じように物理的な労働条件が悪くなれば、生産性は低下すると考えていたのですが、結果は労働条件が悪かろうと生産性は一定のペースを保ち、むしろ向上していったのです。
3.面談実験(個人の感情が影響するか)
この実験では、メイヨーは従業員2万人、1人1人と面談を行い仕事に対してどういう感情で働いているのかを聞き、個人の感情が仕事にどう影響を与えるのかについて調べました。
すると、面談で話を聞いただけで、従業員の生産性が向上したのです。面談での会話は愚痴なども多くありましたが、従業員の労働意欲は、労働条件や賃金よりも、職場の人間関係や仕事に対する思いといった感情的な部分と切り離すことができないことが判明しました。
4.バンク配線作業実験(人間関係が影響するか)
メイヨーは従業員を職種ごとにグループ分けして、電話交換機(バンク)の配線作業を行わせ、その共同作業の成果を調べました。
その結果、 それぞれの労働者は自分の持てる力をすべて出し切るのではなく、状況や場面に応じて自ら労働量を制限していることが分かりました。また生産性の違いは労働者の能力よりも意識によるところが大きいということがわかりました。さらに品質検査では、上司と従業員との間に良好な人間関係を築いているほうが、より欠陥やミスの少ない製品を製造できることもわかりました。
良好な人間関係が生産性向上をもたらす
ホーソン実験から、メイヨーは以下の考えを導き出しました。
- 生産性向上には物理的な労働条件は関係がない。
- 生産性向上をするには、職場の人間関係や仕事に対する思いなど感情的な部分が影響を与える。
- 良好な人間関係を気付けている方がミスが少なく力を出す。
このように、ホーソン実験は作業環境ではなく人間関係が労働生産性に影響するという非常に興味深い知見を残しました。
今までの物理的な条件や環境が就業意欲を左右すると思われていた社会から、個人の思いや人間関係の研究が多く進められました。リーダーシップ研究などにもつながる礎となる理論となり、現代でも多く引き継がれています。