SNSと採用の関係について
Facebook、Instagram, Twitterなどのソーシャルネットワークサイト(SNS)は日本でも若者を中心に広く普及し、様々な世代の人々が様々な用途で使っていると思います。
およそ9年前、まだフェイスブックが大学生限定のサービスだったころに、New York TImes で「For Some, Online Persona Undermines a Resume」という記事がSNSを採用に使うことについて疑問を投げかけました。
かなり記事は古いですが、当時は非常にインパクトのあった話題でした。
当時のフェイスブックは大学生向けのSNSサイトだっただけに、企業のスカウト達がこぞって大学生の様子をフェイスブックで観察していたようです。
内定をもらっていたはずなのに、なぜか自分だけ連絡がスパッと途絶えた。。。なんて経験をする大学生が続出。
企業側がSNSを覗いてしまう最大の理由としては「赤信号(赤旗)を見つけるため」「どこか企業の理念と決定的に反する行動はしていないかの最終確認のため」と、どちらかといえば消去法的な使い道をしている会社がほとんどだったそうです。
過激なパーティーなどをしている様子をわざわざ公共の場で共有するような大学生は、やはりイメージは悪く写ってしまうのも無理はないでしょう。
フェイスブック発祥のアメリカでは、応募者のフェイスブックを覗くのは、(企業側にとっては)もはや当たり前の常套手段として受け入れられているようです。
さらにユーザー層が広がった現在の日本でも、SNSを採用の一貫として利用する流れになっているように思えます。
日本にいる私の友人も、就職活動の頃からフェイスブックを途端に使わなくなり「どうしたんだろう」と思っていたら、「けっこう採用の人チェックしてるから気を付けてる」と言っていました。日本でも、このような問題はもう新しくはないのかもしれません。
SNSと採用の関係について、注意すべき課題とは
SNSを採用に使う上で、これから明らかにしておくべきだろう課題は以下の点だと考えています。
- 採用におけるプライバシーはどこまで保護されるべきか
- SNSを採用に使うことの人事担当者と学生(応募者)の認識の違い
- SNSを選考に使うことに対する学生(応募者)の反応は?
- SNSは、信頼性と妥当性を持ち合わせた、正確な人の「ものさし」であるかどうか?
- SNS利用者と非利用者との間に格差は生まれないか?
- 企業側がSNSを採用に利用していることが広く知れ渡った場合、企業のイメージや公平性は失われないか?
- ユーザーがそういう事実を認識しつつある今、逆にSNSを利用して偽りの「良い自分」を演出しているユーザーはどのように見極めるのか?
- SNSが大学生以外にも広く普及した今、SNSの公共性は会社内の人間関係にどのように影響を与え得るか?
また採用だけでなく、会社内での上司や部下の関係にどのように影響を与えているのかも気になるところです。
Facebookからその人の性格がどこまで分かるのか?
Facebookの情報からその人の性格がどれだけわかるのかについて、実証した研究を紹介したいと思います。
ノーザンイリノイ大学のKluemper教授らのチームが、Facebookを使ってSNSを使った性格診断が果たして個人の性格をどれだけ予測できるのかについて検証しました。
まず調査に参加した大学生の性格を計るため、性格診断書に答えてもらいました。
Big Fiveと言われる5つの性格特性が使われました。
Big Fiveとは、心理学で一番研究されているアプローチのひとつで、性格を次の5つの要素に分類し、それぞれの程度を計測したものです。(ミツカリにも使われています。)
- Openness to experience(経験への開放性)- 知的好奇心などの程度
- Conscientiousness(誠実性)- 自己統制力やまじめさの程度
- Extraversion(外向性)ー社交性や活動性の程度
- Agreeableness(協調性)ー 利他性や協調性の程度
- Neuroticism(神経症傾向)ー ストレスに対する敏感さ
※わかり易い覚え方:OCEAN(オーシャン)
そして、研究の目的をまったく知らされていない三人の評価者(人事・採用の経験のある社会人2人と、大学院生1人)が、調査に参加した大学生のFacebookページを1人につきたった5分だけ観察しました。参加した大学生の記入したまったく同じ性格診断書を使い、それぞれの大学生に対しての性格を評価しました。
この研究の目的は、見ず知らずの人がたった5分のFacebookを通して見た印象だけの性格診断が、本人自ら行った性格診断とどれだけ一致しているかを調べ、比較するところにあります。
もし、Facebookでの振舞いが人の性格をある程度正確にあらわしているのだとすれば、評価者と当事者の性格診断の間には、正の相関関係が存在するはずと仮定します。この場合の相関関係とは、評価者と当事者の性格診断がどの程度一致しているのか、を表わすものです。
Facebookを使った性格診断は結構正しいかもしれない
当事者の性格診断と評価者の性格診断の相関関係の結果を、Big Fiveの分類で見てみると、
- 経験への開放性(+0.42)
- 誠実性 (+0.30)
- 外向性(+0.44)
- 協調性(+0.40)
- 神経症傾向(+0.23)
とすべての要素において、中くらいの有意な正の相関が得られました。相関関係を少し説明すると、1.00又は-1.00が上限で、絶対値が1.00に近づけば近づくほど両者の関係性は高い、ということを意味する。
絶対値1.00の完璧な相関関係とは程遠いものの、社会科学の中ではこれくらいの相関関係はそこそこ良いとされています。
たった5分の観察だけですべての分類で有意な相関関係が存在したことを考えると、「Facebookを使った性格診断は結構あなどれないかもしれない」と結論づけられています。
なかでも「外向性」「経験への開放性」「協調性」の相関が強かったことを考えると、「外交的で開放性のある人ほどFacebookで性格が現れやすい」といえるのではないでしょうか。
また、別のグループを使って同じ調査をしたところ、ほぼ同じような結果が得られました。
Facebookを採用に使う上で、注意すべきこと
しかし、Facebookを性格評価に使うには、注意点が必要だとも述べています。
- インタビューなどでは聞いてはいけない年齢、人種、宗教、ジェンダー、配偶者などのプライバシーに関わる情報もFacebookでは入手できてしまうため、公平性が危ぶまれる。
- 採用担当者がSNSを基準にしているとユーザー側が知った場合、ユーザーが企業に対してネガティブなイメージを持たれるかもしれない。
Facebookから、性格の全体像は把握できる
Facebookを通した性格診断は完璧とは程遠いものの、ある程度の全体像を把握する点ではそれなりの証拠が得られました。
しかしプライバシーの問題などもあるので、依然SNSの使用には注意が必要です。
また、今はLinkedInなどの就職に特化したSNSが存在します。それらに比べて、Facebookがどれほど有用であるか正当な理由がない限り、Facebookを採用の一環として使用するには、リスクを把握することが大切です。