キャリアドリフトとは?将来の予測が困難な現代はキャリアビジョンの構築も難しい
キャリアドリフトとは、仕事の経験を意味する「キャリア(career)」と漂流を意味する「ドリフト(drift)」を組み合わせた言葉で「漂流するように流れに身を任せてキャリアを形成していこう」という考え方を意味します。
少子高齢化による人手不足が続く中で、社員の離職を防止して企業が成長を続けるためには、自社内で働く社員のキャリア形成・能力開発が必要不可欠です。
総合人事・人財サービスを展開するアデコ株式会社の調査によると、キャリアビジョンを持っていないと答えた人は、調査対象者全体の72.8%でした。労働者の多くがキャリアビジョンを持っておらず、自身の今後についてビジョンが描けていない状態であることがわかります。
出典元『Adecco』「人生100年時代」のキャリアビジョンに関する意識調査
同調査によると、キャリア構築についての不安があると答えた人は、調査対象者全体の76.9%でした。キャリアビジョンを持っていないと答えた人の割合とほぼ同じであることから、今後のビジョンが描けていない状態は本人が望んでいる状態ではなく、労働者の多くがキャリアビジョンの構築を望んでいることが分かります。
出典元『Adecco』「人生100年時代」のキャリアビジョンに関する意識調査
現在のビジネスは、市場のグローバル化に伴う競争の激化や、ロボット・人工知能などのテクノロジーの発達によって将来の予測が困難になり、VUCA時代と呼ばれる時代になっています。
将来の予測の難しさは、ビジネスだけでなく個人のキャリア形成にも影響を与えています。将来の予測が困難なためにキャリアビジョンを描くことが難しいことから「あえてキャリアをデザインしない」キャリアドリフトという考え方が生まれました。
今回の記事では、キャリアドリフトの概要について、意味や定義、企業で活用するメリット・デメリットなどをご紹介します。
キャリアドリフトとは?意味や定義、企業で活用するメリット・デメリットなどについて
キャリアドリフトの概要について、意味や定義、企業で活用するメリット・デメリットなどを、順を追ってご説明します。
キャリアドリフトの意味や定義とは?
キャリアドリフトとは、仕事の経験を意味する「キャリア(career)」と漂流を意味する「ドリフト(drift)」を組み合わせた言葉です。
キャリアドリフトは、英語の意味の通り「漂流するように流れに身を任せてキャリアを形成していこう」という考え方として、神戸大学大学院教授の金井壽宏氏が提唱した理論です。漂流と言っても「何も考えずにフラフラ漂う」という後ろ向きな意味ではなく「時代や環境の変化に合わせる」という前向きな意味として用いられます。
キャリアドリフトという概念が生まれた背景とは?
キャリアドリフトという概念が生まれた背景には、年功序列や終身雇用の企業が減少して同じ企業で生涯安定して働くことが難しくなってきたことや、IT化が進んで社会が目まぐるしい速さで変化して将来の予測が困難になってきたことなどの時代背景があります。
今後の市場や社会の予測が難しくなってきている時代で大切なことは、変化に対して柔軟に対応することです。キャリアビジョンを固めても環境の変化であっさりと崩れてしまう可能性がありますし、目まぐるしく変化する時代に自分が将来何をしたいのか分からないという人もいるでしょう。
キャリアドリフトは、いつ崩れるか分からないような計画は最初から立てずに今やるべきことに集中し、環境の変化に対して柔軟に対応していつでもチャンスを掴める態勢を作っておこうという、変化の激しい時代に適応したキャリア理論であると言えます。
キャリアデザイン、キャリアパス、キャリア開発、キャリアアンカーとの意味の違いとは?
キャリアドリフトと混同されやすい言葉として、キャリアデザイン、キャリアパス、キャリア開発、キャリアアンカーなどがあります。
キャリアドリフトとの意味の違いを知っておくために、それぞれの概要について簡単にご紹介します。
キャリアデザインとは?
キャリアデザインとは「どんな仕事をしたいか」「どのような働き方や家庭生活を送りたいか」といった人生の理想を描き、理想の実現に向けた計画を設計することを意味します。キャリアデザインで考えるキャリアとは、仕事の能力や経験のことだけでなく、子育てや親の介護といった家庭のことも含めた個人の人生そのもののことです。
キャリアパスとは?
キャリアパスとは、目指す職位や職務等に到達するための経験の積み重ね、能力を高めていくための道筋や順序のことを意味します。1つの企業の中で成長していく方法として、スキルアップやキャリアアップしていくためには何が必要か、どういうステップを踏んでいく必要があるのかなどを示したもののことです。
キャリア開発とは?
キャリア開発とは、英語ではキャリア・ディベロップメント・プログラムといい、社員のキャリアを開発していくプログラムのことを指します。社員がどのような職業能力を持っていてどんなキャリアを描くことができるのか、描いたキャリアをどのように開発していくのかを、中長期的・体系的に計画していくことです。
キャリアアンカーとは?
キャリアアンカーとは、仕事の経験を意味する「キャリア(career)」と船の錨を意味する「アンカー(anchor)」を組み合わせた言葉です。「仕事の条件でこれだけは譲れない」「家庭のためでもこれだけは犠牲にしたくない」といったような、個人がキャリアを選択する際に最も大切にする欲求や価値観を意味します。
キャリアドリフトを企業で活用するメリットとは?
キャリアドリフトを企業で活用するメリットは、現在の仕事に対する社員のモチベーションアップが期待できることです。
キャリアドリフトは、単に時代の流れに身を任せるというだけではなく、目の前のことに集中して精一杯取り組むということも含めた考え方です。一見マッチしていなさそうな仕事であっても、全力で取り組むことで、新しい視点や価値観の発見につながる可能性があります。
キャリアドリフトを企業で活用する際には、社員に対してキャリアドリフトの考え方を伝える上で「将来どんな経験や能力が役に立つか分からないこと」と同時に「いつか来るチャンスを掴むためには今できることを精一杯頑張っておくことが重要である」と伝えておくことが大切です。
キャリアドリフトを企業で活用するデメリットとは?
キャリアドリフトを企業で活用するデメリットは、将来の目標やキャリアデザインを考える機会が少なくなるため、現状で満足してしまったり、将来の目標を自社内で描けず退職を考えてしまったりする人が現れる可能性があることです。
キャリアドリフトはキャリアデザインをしないということではなく、きちんと節目で自己を振り返ることが大切です。時代の流れに身を任せながらも、自分の成長やスキルの棚卸しをしないと、今後のキャリアに活かしていくことができません。
キャリアドリフトを企業で活用する際には、キャリアドリフトはキャリアを考えないことや諦めることではなく、不確定な将来の変化に対応してキャリアを構築するための考え方であることを、社員にしっかりと伝えておくことが大切です。
キャリアドリフトの考え方は明確なキャリアビジョンを持たない人に効果的!
キャリアドリフトとは、キャリアデザインの反対語とも言える概念で、社会や環境の流れに身を任せてキャリアを構築しようという考え方です。
キャリアドリフトは、いつ崩れるか分からないような計画は最初から立てずに今やるべきことに集中し、環境の変化に対して柔軟に対応していつでもチャンスを掴める態勢を作っておこうという、変化の激しい時代に適応したキャリア理論であると言えます。
キャリアドリフトを企業で活用する際には、キャリアドリフトはキャリアを考えないことや諦めることではなく、不確定な将来の変化に対応してキャリアを構築するための考え方であることを、社員にしっかりと伝えておくことが大切です。
キャリアに対する考え方は、人によって様々です。キャリアデザインを明確にしたい社員に対してはキャリア開発を行う、明確なキャリアビジョンを持たない社員に対してはキャリアドリフトの考え方を提示するなど、社員一人ひとりの価値観に合わせた支援を行うことが大切です。