「ストレス耐性が高い」=「優秀な人材」は本当か?
近年耳にすることの多い「ストレス耐性(英訳:stress tolerance)」とは、文字通りの意味で、「ストレスに耐える強さ」を意味しています。企業の中では、採用選考時などにストレス耐性をチェックする企業は多く、「ストレス耐性が高い」ことは、人事面でプラスに働く要素となっています。
必ずしも「ストレス耐性が高い」=「優秀」ということではありませんが、さまざまな側面から考えて、耐性は高めておくことは、個人・組織の双方にとってプラスに働くことが往々にしてあります。
こういった人材に対する考え方もあり、企業の人材採用や育成時において「ストレス耐性」は重要項目としてチェックされるようになっています。背景には、過労などによる精神障害など仕事に由来する労災の請求件数や認定件数が、年々増加傾向しているという現状があります。
厚生労働省が実施している労働安全衛生調査では、労働者が感じるストレスについての調査が行われています。強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者割合は、60%前後で推移しています。
出典元『厚生労働省』平成29年 労働安全衛生調査(実態調査)労働者調査
政府も2000年代以降、さまざまな施策を展開しています。2000年8月には「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針(「4つのケア」)」を策定しています。
2015年12月からは、労働安全衛生法を改正する法律を制定しています。労働者が50人以上いる事業所での「ストレスチェック」が義務化するとともに、メンタルヘルス関連の助成金制度も拡充させるなど、国を挙げて、さまざまなメンタルヘルス対策を講じています。
平成23年実施の独立行政法人の労働政策研究・研修機構「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」によると、メンタルヘルスケアの担い手として重視される立場の第1位は「職場の上司や同僚」で、2位が「人事労務部門」という結果が出ています。職場の上司や同僚は、採用や配属などでも考慮できるポイントであるため、人事部門がメンタルヘルスケアの担い手として大きな影響力を持っていることが分かります。
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研修機構』「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」
誰もが生き生きと仕事ができる環境にすることは、人事担当者やマネジャーの役割の一つでもあります。そのためにも、社員一人ひとりの「ストレス耐性」をいかに高めていくか、という取り組みも必要不可欠なのものです。今ではストレス耐性を高める取り組み方についてご紹介していきます。
「ストレス耐性」をいかに高めるか?
さまざまな形で降りかかるストレスに対して、適応できるスキルや抵抗する力をもっているかをはかることができるのが「ストレス耐性」です。ストレス耐性は、人によってレベルが異なります。
ストレス耐性の高い人ほど、大きなストレスを受けても乗り越えられ、耐性の低い人は、ちょっとしたことでも落ち込んでしまうという傾向があります。
ストレス耐性は、自身で意識して行動したり鍛えることで高めることができます。社員のストレス耐性をチェックすることで、社員へのフォローや人材の配置部署への見極めに重要な項目だといえます。
変化しやすいストレス耐性の要素と高めるための取り組み
健康心理学や脳科学の研究では「ストレスがプラスになるかマイナスになるかの違い」は、個人のものの見方や捉え方に起因することが大きいとされています。
重要なプレゼンを20分後に控えている時に、自分が大きな失敗をした時をイメージしてみます。この状況を肯定的に捉えるか、否定的に捉えるかは人それぞれです。
出来事は一つでも、そのものの見方や捉え方は人により異なります。肯定的に捉える場合は、自律神経やホルモンが肯定的な反応をしてプラスのストレスに、否定的に捉えてしまうと自律神経やホルモンのバランスは崩れ、マイナスのストレスになります。
ストレスの意義・意味・価値に目を向ける
健康心理学者のケリー・マクゴニガル氏は「意義あることを求める方がただ不快感を避けようとするより健康には良い」と述べています。ストレスを感じるような体験や出来事を「人生にとって意義のあること」「意味にあるもの」として捉えたり、ストレス自体に「意義・意味・価値」を見い出すことには、大きな意味があります。
このような思考をすることで、自律神経やホルモンの働きは健康的になります。健康的な思考は人生に幸せや充実感を生みだし、目標達成や問題解決に役立つ最適な心の状態を作ることにつながります。
ストレスに対する捉え方がプラスに変わるため、ストレスがストレスではなくなるというプラスの要素もあります。
ストレスを真正面から受け止める
ストレスを感じている時に、無理にストレスを感じないふりをするのはかえって負担になります。努力しても状況が変わらないような場合、心で感じているストレスを「辛いことは辛い」と正直に受け止めることが大切です。
同じ部署にどうしても気が合わない人がいて、それによってストレスがかかっているような場合、いくらストレスに感じても環境はなかなか変わりません。そういう時に自分の心に正直に、辛いものは辛い、と思うことが大切です。自覚して受け止めても状況は変わらないかもしれませんが、辛いと感じている自分の心を受け止めるだけでも、気持ちが楽になることもあるのです。
ストレスは無理にごまかすよりも正直に受け止めたほうが、ストレスに対する体制を高めることができるのです。
自分の意見を言えるようにする
ストレス耐性を高めることで重要なのは「自分の意見を言えるようにすること」です。自分の意見を言えない人はストレスが溜まりやすい傾向にあります。「これはいやだ」ということを言えず溜め込んでしまい、その結果ストレスを抱えます。
「意見が言うのが得手・不得手」というのではなくて「自分の意見をはっきり言うことができればストレスが減る」という考え方にシフトできれば、自然と意見することもできるようになるものです。
適度な運動やストレッチを行う
適度な運動やストレッチは、自律神経やホルモンのバランスを整え、自分に対する自信を高めてくれるもので、ストレスに対しても強くなれます。日々の生活で、早寝早起きや食生活を整えるなどを心掛けることは身体の健全さを作ると同時に、ストレス耐性を高めることにもなるのです。
睡眠不足はストレスを感じやすい状態を作り出す特徴的なものです。睡眠は日々しっかりとるように心がけましょう。
コントロールできることとできないことをわけて考える
コントロールできることとできないことをわけて思考することは、ストレス耐性を高めるのに非常に有効です。天気や他人などはコントロールできない最たるものです。
旅行中に悪天候に見舞われることがあっても、それは人がコントロールできない事象です。こういったことに自分の感情をいれないようにすればその分イライラすることも格段に減るでしょう。
完璧主義をやめる
ストレス耐性を高める方法としては「完璧主義をやめる」ことも重要です。完璧さを求めると些細なことでもイライラしてしまいます。いい結果が出ても、できていないことに着目してしまうため、どういう状況でもストレスが溜まる一方になります。
完璧主義をやめて、さまざまなことへのハードルを下げましょう。まずは低めに目標を設定します。それを越えてさらにいい結果が出てくると、120%、150%といった風に結果を積み上げていくことに達成感を得ることができ、同じことをしてもストレスを感じることが減っていきます。
完璧主義をやめ、今できていることに着目しましょう。さまざまな事象の良い面や楽しいことに集中することで、ストレス耐性を高めることができるのです。
組織全体のストレス耐性を高め鍛えていく
人事担当者の業務として近年、メンタルヘルスケアが非常に重要なミッションとして位置付けられており、社員の不要なストレス要因を排除するだけでなく、ストレス耐性そのものを高める取り組みも望まれています。
ストレス耐性を高めるためのメカニズムを理解し、社員一人ひとりのストレス耐性を高めるような施策を考えていくことが重要です。地道に少しずつでも、根本的なメンタルヘルスケアを実践していくことが、第一歩なのです。