「ストレス耐性が低い」ことはマイナスなのか?
仕事や人間関係における「ストレス」は、誰もが避けて通りたいもの、感じたくないものです。同時に、ストレスに負けない強いメンタルを持ちたいと考える人も少なくありません。
近年耳にすることの多い「ストレス耐性(英訳:stress tolerance)」とは、文字通りの意味で、「ストレスに耐える強さ」を意味しています。
ここ数十年、企業の人材採用や育成時において「ストレス耐性」は重要項目としてチェックされるようになっています。背景の一因には、近年、過労や精神障害など仕事に由来する労災の請求件数や認定件数は年々増加傾向にあることが指摘されています。
増加の背景には、①労働力不足によって、1人あたりに求められる業務量や業務の質が上がっていること②グローバル化やロボット・人工知能の発達により、業務内容そのものが変化していることなどが挙げられています。
企業でも、採用選考時などにストレス耐性をチェックする企業が少なくないですが、ストレス耐性が低い=優秀でない人材ということでも、就職時に不利になるわけでもありません。
大切なことは「ストレス耐性が低い」人材特有の特徴を知り、その知識や情報を自身の成長や組織づくりに活用していくことです。
「ストレス耐性が低い」ことがどういった状態を指すのか、その内容について見てみましょう。
ストレス耐性が低いことが意味することとは?
さまざまな形で降りかかるストレスに対して、適応できるスキルや抵抗する力をもっているかをはかることができるのが「ストレス耐性」です。ストレス耐性は、人によってレベルが異なります。
ストレス耐性の高い人ほど、大きなストレスを受けても乗り越えられ、耐性の低い人は、ちょっとしたことでも落ち込んでしまうという傾向があります。
しかしちょっとしたことでも落ち込んでしまうがゆえに、些細な問題に気づくことができるような強みも存在します。まずはストレス耐性の低い人の特徴について確認しましょう。
ストレス耐性が低い人材の特徴とは
ストレス耐性の低い人材の特徴はいくつかあります。それぞれの内容や理由について説明します。
- 人に合わせることができる
- 几帳面で責任感が強い
- 悩みを引きずる
- 自分に厳しい
- 逃げ癖がある
- 怒られるのを避ける
- マルチタスクが苦手な傾向にある
人に合わせることができる
組織の中で働く上では、周囲と足並みを揃えることは大切です。仕事上では特に重視される特徴でもあるでしょう。
「人に合わせる」といった行動が過度になってしまうと、かえってストレス耐性を下げてしまうこともあります。人に合わせすぎて疲弊したり、マイペースになれない自分にストレスを感じることが原因です。
几帳面で責任感が強い
真面目すぎることはえてしてストレス耐性に影響はしてしまいますが、良くいえば、真面目で一生懸命であると言えます。自分の意見を通すことより、周りの状況をきちんとみて対応できるので、職場などでは重宝される人材です。
度を超してしまうと「頑固で融通が利かない」と評価されてしまうこともあります。ある程度相手の反応を受け流せるようにすると、ストレスも軽減できるようになります。
悩みを引きずる
ストレス耐性が低い人の特徴の一つに、気持ちの切り替えの遅さが挙げられます。
仕事上であった小さいトラブルをいつまでも悩み続け、他の仕事が手につかなかったり、一日そのことを悩み続けます。仕事とプライベートのスイッチが切り替わらないので、いつまでも嫌な気持ちを引きずりがちです。
自分に厳しい
自分に厳しい人も、ストレス耐性が低い傾向にあります。真面目過ぎる性格が災いしており、目の前にある問題を完璧に解決できない自分に強い憤りを感じてしまったりします。
自分が思い描く結果を求める上、誰かに頼ることも避けるので、結果的に他人にまで厳しくしがちで、周りから反感を買ってしまうことも少なくありません。
逃げ癖がある
物事を中途半場な状態でやめる、仕事が続かないなどの傾向がある人は要注意です。
たとえば、仕事上で苦手な同僚や上司との間に、何らかのトラブルがありストレスを抱えてしまったとしましょう。仕事を円滑に進めるために問題となっている相手とも向かい合うべきですが、ストレス耐性の低い人は、自分が苦手な人物から逃げる傾向にあります。
ひどくなると、仕事を途中でボイコットし、自ら退職して周囲に迷惑をかけてしまいます。
怒られるのを避ける
怒られることに慣れていないのもストレス耐性が低いサインです。いわゆる、”優等生タイプ”の人の中には、ほとんど怒られた経験がないまま社会人になった人もいるのではないでしょうか?
ストレス耐性が低い人は、怒られることを恐れ、失敗をきちんと報告できません。このような状態も続けば、相手に状況がばれてしまいます。ばれた後に怒られることで、「やっぱり怒られるのは嫌だ」と感じ、ますますストレス耐性が落ちてしまうという悪循環に陥りがちです。
マルチタスクが苦手な傾向にある
複数のタスクを同時にこなすこと=マルチタスクですが、ビジネスの現場では、マルチタスクが不向きの場合や人材もあります。
特にストレス耐性が低い人のケースでは、マルチタスクに苦手意識を持つ人が多い傾向にあります。
ストレス耐性が低い人材を活躍させる方法とは
ストレス耐性が低い人材をいかに組織で活躍させていくか。どういった仕事・方法があるか、重視すべき観点を以下にまとめてみます。
ストレス耐性が低い人材でも、少しずつでも自尊心を感じることができる仕事を経験させることで、ストレス耐性を高めることも可能です。
業務や配属先を考慮する上でのポイント
- ノルマが過度に厳しくない
- 深く考え込むような作業を回避する
- 自分のペースで働くことができる
- 人との関わりをケースバイケースで調整することができる
- 自分主体で仕事ができる(やらされている感を極力感じさせない)
ストレス耐性の低い人材でも比較的業務に取り組みやすいものが、ノルマなどのある営業職ではなく、ルーティンワークが多めの事務職などです。押しなべて残業も少なく、ある程度自分のペースでスキルを身につけることができるので、ストレスの少ない職種と言えます。
在宅ワーカーなどは時間の確保が自分のペースでできる仕事です。仕事相手とのコミュニケーションもそれほど頻繁でないため、それほどストレスを感じることもないでしょう。業務内容は多種多様ですが、パソコンがあれば場所や時間を選ばずに仕事ができるというのは、とても良い利点でしょう。
作家やwebライターのような仕事も向いているかもしれません。文字を書くことはある意味、自分の言葉で意見をまとめる行為のため、ストレス発散の一因にもなりえます。他にもゲームテスター(発売前のゲームのプログラムにミスがないかをチェックする仕事)などもおすすめです。自分の好きなことや得意なことを仕事にすることで、ストレスを感じにくくなります。
ものづくりの現場でいうと、工場勤務などの業務も合っているケースがあります。車の部品の製造など、一般的にモノづくりと呼ばれる職種は、人間関係のトラブルが少ない傾向にあるとも言われています。一つの作業に没頭することができるので、無心に仕事に取り組みたい人にはうってつけの職種です。製品ができあがった時の達成感も味わえるので、少しずつストレス耐性を高めることにも繋がるでしょう。
ストレス耐性が低い人材への理解を深め、育成に努める
ストレス耐性は人物像を理解する一つの要因ですが「根本の処理能力」や「転換能力」「経験」などは、個人のその時々の状態や獲得したスキル、モチベーションが変化する中で変わっていくものです。「ストレス耐性が低い」ということでその人材の可能性を見ないことは非常にもったいないことです。
ストレス耐性が低い人にも特徴とそこに至る背景があり、良いところを伸ばすことが、売り手市場での人材獲得競争で良い人材を採用するために必要です。それ以前に、ストレス耐性が低い・高いに関係なく、不要なストレスを与え続ける労働環境は望ましくありません。
最近は、政府の施策や多くの企業でも、労働生産性の低下や体調不良を引き起こすような要素は極力排除した労働環境づくりや、ストレスと上手に付き合う方法などを教育・研修するなどの取り組みが推進されています。これらの取り組み事例にも注目し、自分自身の状態や自社の環境作りを日々、意識していきたいものです。