優秀な人材の流出を防ぐリテンションとは?定義やメリットを考える

優秀な人材をつなぎとめる「リテンション」施策

バブル崩壊以降の1990年代後半、日本経済が低迷していた時代から近年まで、多かれ少なかれ企業の多くは、リストラや早期退職など会社都合による個人の離職を促進し、人員整理を積極的に行ってきた時代がありました。ただここ数年は景気も順調に回復し、雇用も安定。失業率も3%台まで低下するなど、企業の採用活動も活発化しています。

雇用の安定は転職市場を活況にさせます。反対に、売り手市場の中で企業の多くは、人材の流動化と団塊の世代の大量退職などによる人材不足や、人材獲得競争の激化に悩まされています。

人材の流出は、既存社員の負担や育成コストが増加すると同時に、企業の主要な業務が停滞するなど、企業活動自体に大きな損失となります。この側面から見ても、優秀な人材の流出をいかに食い止めるかは、ここ最近の人事分野における大きな命題の一つだと言われています。

自社にとって必要な人材をいかにとどまらせるか。この課題に対して近年注目されている考え方が「リテンション」です。

enジャパンの調査では「企業がリテンションについて何か対応をしているか」という質問では、「対応している」と回答した企業は全体の35%にとどまっています。徐々に増加している傾向にあるものの、実際に対応している企業は少数派であることがわかります。

リテンション対応をしている企業
出典元『エン・ジャパン』リテンションに効果的な施策は、社内コミュニケーションの活性化と待遇改善。

「リテンション」をいかに高め、優秀な人材の流出を防ぐか。企業としては、より早い対策が必要であるということがいえます。

「リテンション」の定義や活用の目的とは

既存人材の流出を防ぐための「リテンション」。新規人材の獲得が難しくなっていく中、既存人材の確保も重要性が高まっていきます。

そもそもリテンションとは何か、目的や活用するメリットなどの概要について確認します。

リテンションの意味や定義とは

「リテンション」とは、自社の人材や顧客との関係を「維持・保持」するという意味です。HRの分野においては「人材確保」を意味する、人材マネジメント用語とされており、幹部候補や将来を有望視されている若手社員など、自社にとって必要な人材の確保や流出を防ぐための人事・経営戦略として重視されています。

「リテンション」を施策として導入する際、大きく分けて「金銭的報酬」と「非金銭的報酬」の2種類を社員に提供して活用されるのが一般的です。金銭的報酬・非金銭的報酬のどちらかだけを用いるのではなく、バランスよく組み合わせることが重要です。

  • 金銭的報酬
    給与やボーナスなどの短期的インセンティブや、ストックオプション制度などの長期的インセンティブ
  • 非金銭的報酬
    就業環境の充実やワークライフバランスの実現、スキルやキャリア向上のサポートといった報酬

「リテンション」の他の意味合いとして、マーケティング分野における『CRM(顧客関係性マネジメント)』に関係するマーケティング用語として使用されることもあります。

企業の多くは、一度の顧客の離反と、そのための新規顧客開拓のコストに悩んでいます。リテンションでは、既存顧客のニーズを吸い上げ、他のサービス・製品を紹介するなどで、定期的に既存顧客との接点を持つことができます。新規顧客獲得施策とは別に、既存顧客をいかに維持し、離反させないかという視点でのマーケティング施策に活用されています。

リテンション施策活用の目的について

日本経済の大きな懸念点として、雇用の安定化による転職市場の活況と人材の流動化、近年の団塊世代の大量退職、少子高齢化など、社会的要因による人材不足が挙げられます。2018年に生まれた子供が22歳(大学新卒)の年齢になるときには2040年ですので、2040年までの労働人口は国の調査などでも明らかになっていますので、少なくともまだ数十年は人材不足に悩まされるといっても過言ではないでしょう。

人材の新規獲得が難しくなる中で、既存人材の流出防止も必然的に重要性が高まっています。人材が流出することで、企業に残る社員の負担が増えることはもちろん、人材の補填や育成コストの増加、基幹業務の停滞、これらなどから結果、企業の利益の損失などにつながることが懸念されています。また、既存顧客や社員の情報、企業の機密情報といった重要な情報が流出するリスクも高まります。こういった状況を防ぐためにも、不用意な人材の流出を防止する=「リテンション」を活用することは、人事的観点はもちろん、経営的観点からも必要不可欠なことなのです。

「リテンション」において最も重要なのは『非金銭的報酬』と言われています。転職が当たり前で人材の移動も活発化している現在においては、すべての人材が「報酬第一」で転職するわけではありません。人によっては、仕事のやりがいやスキルの獲得を重視することもあるでしょうし、充実した福利厚生を求めるケース、ワークライフバランスが実現されている就業環境を好む人など、それぞれが働く価値を見つけることができる企業を求めています。

特に最近の若年層において、非金銭的報酬への重要性は高まっています。20代のための求人サイト「Re就活」の登録会員を対象とした調査レポートによると、転職理由として「人間関係・社風が合わない」「ワークライフバランスが悪い」などが「給料が低い」よりも多く挙げられています。

職歴ありの転職理由
出典元『学情』Re就活登録会員対象「就職・転職活動に関するアンケート」調査レポート 2018年3月版

人材の流出を防止するには、離職の原因と背景の客観的な分析を行い、分析結果に基づいた自社に適した施策を導入する必要があります。

リテンション施策活用のメリットとは

採用に関するコストの削減

人材が外部に流失する=新たな採用が必要ということです。ただ、人材採用は求人広告などの費用に始まり、多額のコストがかかります。もちろん、面接などの採用業務が増加することで、人事部門に従事する社員の負担と人件費も増加します。さらに採用後も、オリエンテーションやOJTといった現場の社員の作業が増えることで、現場の生産性低下につながる恐れもあります。

人材の流出を防ぐことは、補充のための採用にかかる人的・時間的コストはもちろん、間接コストなどを容易に増やさないことにつながります。

従業員のモチベーション向上

リテンション施策は、「金銭的報酬」と「非金銭的報酬」の2つを組み合わせて実施されることが多く、報酬や働く環境が整備されることで、従業員のモチベーションを高める効果が期待できます。

特に最近の傾向として、報酬と同程度かもしくはそれ以上に、「自分自身の能力・スキルを発揮したい」というキャリア形成など仕事に「やりがい」を求める層が、一定数以上存在することもわかっています。こういった層には、組織の中で仕事に対するやりがいや成長できる実感、ワークライフバランス、福利厚生といった非金銭報酬を前提としたリテンション施策を実施することが、モチベーションの向上や維持につながる最適な方法と考えられます。

顧客や企業の機密情報の流出防止

人材の流出は企業機密や顧客情報が流出するリスクの発生につながることも懸念されます。最近では、同僚や部下を引き連れて独立するケースなども発生しています。

金銭的・非金銭的な報酬でニーズにこたえることができる労働環境の構築や、社内ベンチャー制度などを活用した新規事業構築のサポートといった形で社員のやる気を後押しすることで、人材を企業にとどめ、企業や顧客の重要な機密情報が流出するリスクを事前に防ぐ効果が期待できるのです。

リテンション活用の注意点について

人材を自社に引き留める手段の最たるものは「報酬の改善」と言われています。ただし、近年社員の志向も多様化が進んでおり、多くの企業の実態としては、給与面のみを改善することで、問題を解決することは難しいのが現状です。

実際、給与水準だけ見ると他社に見劣りする企業でも、社員のモチベーションが高いレベルで維持できている、活気のある企業は存在しています。「リテンション」=「給与(報酬)改善」の図式は、必ずしも有効でないことは認識しておく必要があると言えるでしょう。

「リテンション」を活用する場合は、仕事に対するやりがいや専門的なスキルな向上が見込める組織かどうか、自己成長を感じられる職場風土があるかどうか。また、十分な福利厚生、ワークライフバランスのとれた職場環境があるかなど、企業の状況を客観的かつ多方面から俯瞰する必要があることを忘れてはなりません。

多くのことが求められるため、長期的な戦略を立てる必要があります。まずは自社においてネックとなっている離職理由を解決するリテンション施策の優先順位を高め、1つずつ確実に行っていくことが大切です。

「リテンション」を自社で活用していくために

労働人口の減少に伴い、優秀な人材を確保しておくためのリテンション施策は、企業にとって、重要な経営課題の一つといえます。「非金銭的報酬」を重視する人材の存在も念頭に、経営者(経営陣)や人事担当者は労働環境の改善や社員育成に焦点を合わせたリテンション施策が求められます。

20代のための求人サイト「Re就活」の調査では、20代の若手人材の離職理由のトップが「人間関係・社風が合わない」でした。リテンション施策として改善できるのかを判断することも大切ですが、改善が難しい場合は、採用の段階から「人間関係や社風が合うか」を見極めることも求められます。

自社の人的課題のすべてをリテンション施策だけで解決しようとするのではなく、採用戦略(採用要件定義)や評価制度など、最も適した施策を選択することが必要です。まずは自社の人的課題をリストアップし、どのように解決していくべきか検討するところから始めてみてはいかがでしょうか?

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