あなたのその行動「オワハラ」になっていませんか?
近年、学生の売り手市場が続く昨今の新卒採用市場では、内定候補者や内定者に対する「オワハラ」「就職活動終われハラスメント」が増加傾向にあると言われています。
「オワハラ」とは、人事や採用担当者が相手を圧迫するような物言いや、不安をあおる言い方で、学生の就職活動を終了するよう強要することです。学生の売り手市場に反比例して厳しさを増す企業の採用環境を背景に、最近この問題がさまざまなところで話題になっています。
面接時に他社の就職状況をヒアリングし、他社との比較をしているような学生なら、暗に「自分の会社に現時点で決めてくれたら内定を出す」などの誘い文句を言うケースがあります。他社の面最終面接時に、内定が出ている他社に辞退の連絡をさせる、内定承諾書をその場で記載することを強要するなど、選考時から内定承諾書を提出させる段階で、「オワハラ」を展開する事例が多くあります。他にも、研修や交流会などの企業の予定で長期間拘束し、就活ができない状況にする悪質なケースも報告されています。
「オワハラ」の背景には、売り手市場の中、優秀な人材を囲い込みたいという思いや、意図せず、内定辞退を防ぐため施策が行き過ぎてしまうことなどがあると言われています。
こういった社会的な風潮の中、大学側も学生に対して「オワハラ」への対応策を展開しています。内定取り消しは早々簡単にできないことや、学生が企業に提出する誓約書などに法的な拘束力がない点などを説明し、安易に「オワハラ」に屈しないよう、指導しています。
とはいえ、こういった情報戦で学生側もある程度「オワハラ」に慣れてしまった結果「内定承諾書」の役割は年々軽んじられ、「迷っている段階であれば、複数提出しておこう」という傾向を助長していることもまた、新たな問題として提起されています。
企業側は、内定承諾書が提出された学生からの突然の内定辞退に、採用活動はさらに長期化し、内定辞退を回避するためのフォローが時として、「オワハラ」になってしまう。そんな悪循環も生まれているのです。
参考までに、ソーシャルメディアやWebサイトの構築・運用を提供するガイアックスが実施した、2015年卒の学生を対象とした調査を見ると、学生が就活を終了する時期と、辞退を伝える時期に、数ヶ月のずれがあることが顕著に表れています。
就活終了時期を5~6月に設定している学生が多い反面、内定を辞退する人が目立つのは7月、その後も10月まで辞退率は高いまま推移しています。さらに、年始から入社直前の3月にかけても辞退は微増。10月頃の内定式参加後も他社の内定を保有したまま、入社直前まで辞退をしない学生も一定数いることが見て取れます。
出典元『ガイアックス』オワハラ対策で学生は内定承諾を複数確保、辞退申し出が遅れる傾向に ~内定後の人事と内定者のコミュニケーション継続が解決の鍵~
【参考】大学側のオワハラに対する見解
「誓約書を書いて提出しても、学生は、他社の選考を受け続けて構いません。他社の選考を受ける中で、より志望度の高い企業に内定を得た場合、誓約書を書いた企業に内定辞退を申し出ても構いません。誓約書に法的拘束力はありません。(中略)学生が内定辞退をできるのとは逆に、企業はいったん出した内定を安易に取り消すことはできません。 」
引用元『Yahoo!JAPAN ニュース』採用時期が分散した今年、「オワハラ」にどう対処するか』 上西充子 法政大学キャリアデザイン学部教授、2015年7月9日
オワハラの実態と防止のポイント
「オワハラ」の形は、前述したように、軽いプレッシャーをかけるだけのところから、強制的に就職活動を終了させるような悪質なものまでさまざまです。
一般的にみられる「オワハラ」のパターンと、防止策について紹介します。
内定承諾書を提出させる
確認書類として提出をさせている企業も多い「内定承諾書」ですが、受け取り方ややり方によっては、「オワハラ」の範疇に入ります。もちろん、「内定承諾書(入社誓約書)」には法的な拘束力はありません。心理的なプレッシャーを与えるケースもある、というレベルですが、扱いには注意が必要です。
適したフォローとは
あくまでも、個人の意思を尊重しつつ、内定の意思を確認する意味での書類であることも十分説明を尽くしましょう。
採用活動の継続を確認したい場合は「あなたの意思に任せるし、自社に決めてほしいという意図でない。ただし、自社にも採用スケジュールがあるので、最終判断ができるタイミングを教えてほしい」という風に、相手を拘束しない説明を心掛けてください。
内定者イベント(EX:親睦会、交流会など)を数多く設定する
人事との面談だけでなく、先輩社員との交流や内定者懇親会などを度々開催し、就活を阻害する行為。同期や先輩を絡めることで、断りづらい雰囲気をつくるのが特徴です。
研修やインターンシップなどの業務と連動させるフォロー施策も、行き過ぎると「オワハラ」と捉えられます。学業やプライベートにも差し支えるため、学生側の反発は大きくなりやすいでしょう。
適したフォローとは
内定者フォローは、適宜必要な施策を展開する、というのが一般的な新卒採用戦略ですが、内定者の都合や人となりなどを見極めた上で、独りよがりにならないことが大切です。
懇親会などは、先輩社員や同期とのコミュニケーションを図る場でもあり、内定者のモチベーションを向上させる施策でもあるので、押し付けにならないよう、相手に配慮したプログラムにする視点が重要です。
会社に呼び出し、何度も説得する
内定辞退の連絡をした内定者に対して行う「オワハラ」であるケース。会社に呼び出し、複数人で「今頃内定辞退をするとはどういうこと?」というようなプレッシャーをかける、または、泣き落としのような行為を行い、相手に辞退を撤回させるよう促す行為です。
関連して、もっとも圧迫感のある「オワハラ」と言われているのが、「その場で他社の選考を辞退させる」こと。他社の状況やスケジュールを確認し、すべてを辞退させてから内定を出す、という非常に悪質なハラスメントまで存在します。
適したフォローとは
上記2点に関しては、そもそも内定者フォローになっておらず、一方的な企業側の押し付けでしかありません。
辞退を伝えられた場合は、その意思は尊重し受け止めた上で、可能であればその理由やフォローアップできる方法をヒアリングする程度とし、良いカタチでコミュニケーションを終えるようにするべきです。
【こぼれ話】内定辞退は、企業にとっても学生にとってもマイナスとなる
1人の学生が複数の内定枠を確保し続けることは、その企業に入社を希望している他の学生が内定をもらうチャンスを失うことになります。就活開始時期の後ろ倒しによって、就活期間が短期化している近年、短い採用活動期間の中で多くの学生と企業双方が、よい出会いの機会となるよう、入社先を決定した学生は、企業に早い段階で伝えてもらうことが重要です。
内定を受ける、また辞退する、いずれの場合でも、学生側が意思を伝えやすい土壌を作っておく必要があります。そのためにも、学生との密なコミュニケーションを継続することが重要なのです。
内定辞退率を気にするより、まずは内定者と真摯に向き合うことが重要
悪質なものはさておき、内定者フォローを一生懸命行う行為が、時に「オワハラ」になってしまうこともあります。いずれにしても、相手に対して、誠心誠意対応していれば風評被害は最低限に抑えられるはずです。入社意欲を高め、もっともよいカタチで入社を迎えてもらうことはもちろん、最終的に入社を辞退されたとしても、良好な関係性を築けているかがポイントになります。
「内定辞退を防ぐ」ことは重要な内定者フォローの目的ですが、もっとも大切なのは、最適な形で仲間を迎え入れようとする姿勢と相手への配慮です。これらの積み重ねによって、結果として、内定辞退防止に結びつく、という視点を常に忘れないようにしましょう。