経営理念を浸透させるためには?
経営理念と売上規模や経常利益額には、相関関係があると考えられています。宮田矢八郎著の「理念が独自性を生む」には、売上規模別・経常利益額別に見た「経営理念の有無」の調査結果が報告されています。売上規模や経常利益額が高い企業ほど、経営理念があることが分かります。
出典元『幻冬舎 GOLD ONLINE』企業の「経営理念」は業績にどのような影響を与えるか?
経営理念は掲げるだけでなく、浸透させることが重要です。
HR総合調査研究所の調査によると、98%の企業が「社員への理念の浸透は必要であると思う」「ややそう思う」と回答しています。残り2%も「よくわからない」であり、「あまりそうは思わない」などの「理念の浸透は必要でない」と回答した企業は0%で、「理念の浸透」に対して肯定的な意見が多いことが分かります。
出典元『HRPro』「企業理念浸透に関するアンケート調査」結果報告
一方で「自社の理念が社員に浸透している」と考えている企業はあまり多くありません。「やや浸透していると思う」を含めても42%、「あまりそうは思わない」「そう思わない」などの否定的な意見は53%と過半数を占めています。
出典元『HRPro』「企業理念浸透に関するアンケート調査」結果報告
浸透していない企業が過半数を占めているのに対し「理念浸透のために、明確に施策を講じている」企業は31%、「やや施策を講じている」企業は35%と、施策を講じている企業は66%となっています。理念の浸透が必要だと感じていながらも、実際には約1/3の企業は施策を講じていない現状が明らかになります。
出典元『HRPro』「企業理念浸透に関するアンケート調査」結果報告
経営理念を浸透させるためには、経営理念を明文化して掲げるだけでなく、従業員一人ひとりが内容を理解し、行動に落とし込むことが大切です。行動を起こすために、ビジネスモデルや業務内容、評価制度などに落とし込むことで、自然と経営理念を体現する組織づくりを行っている組織も多く存在します。
今回は、経営理念を体現するために施策を行っている企業の事例について説明します。
他社の経営理念から学ぶ
経営理念と行動・施策についての事例をご紹介します。事例を参考にしながら、心に響く良い企業理念を設定し、従業員に浸透させるために打ち出す施策などの参考にしてください。
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社の事例
スターバックスコーヒージャパン株式会社は世界規模で展開するコーヒーのチェーン店の日本法人です。平成30年6月30日時点での店舗数は1,363店舗(うちライセンス店舗102店舗)、従業員数は3,947人となっています。
参考URL『スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社』会社概要
経営理念
お客様にとっての”The Only One”として愛されるために、
私たちは一杯のコーヒーを通じて、
地域のお客様一人ひとりと丁寧に向き合います。
行動や施策例
スターバックスはただのコーヒー屋さんではなく、「癒やし」を提供する空間である、という認識はスターバックスで働くすべての従業員に浸透しています。
従業員は本業であるコーヒーの淹れ方などを学ぶより前にスターバックスの歴史や経営理念を学んでいます。教育や研修は80時間以上にも及び、研修や教育を通じて経営理念を丁寧に学ぶことで、お客様への心配りや丁寧な対応を行う行動へと繋がっています。
施策を実行している結果、アルバイトの離職率がとても低く、従業員にとって働きやすい環境を作ることができていると考えられます。
四季株式会社
四季株式会社は「劇団四季」などを運営する演劇興行会社です。専用・常設劇場を持ち、年間3,000回以上の公演を行っています。2017年12月末日時点での従業員数は261名となっています。
参考URL『劇団四季』企業情報 | 会社概要
経営理念
①演劇の市民社会への復権
②舞台成果による経済的自立
③文化の一極集中の是正
行動や施策例
「人」を使った、芸術で高品質かつ高レベルのサービスを継続的に提供するノウハウをもった企業です。商品が物やサービスではなく「人」であるからこそ、すべての従業員に経営理念が浸透していることが大事だと考えています。
トップ自らが大切にしている理念や価値観を繰り返し語りながら、経営理念を絶やさず浸透させています。
メモリアルルームを設置し、創業メンバーの命日には所属俳優は全員追悼し、地方にいる俳優にはFAXが送られています。
その他にも、実際に触れ合ったベテラン俳優が若手にエピソードや苦労話を共有しています。ストーリーを全員が共有することにより勝手な行動をする従業員がいなくなり、組織の一体感が高まる効果があります。
美津濃株式会社
美津濃株式会社は、総合スポーツ用品メーカーです。「Mizuno」のブランドは、国内外から高い評価を得ています。2018年3月31日時点での従業員数(連結)は5,124名、日本だけでなくアメリカやカナダ、台湾や中国にも連結子会社があります。
参考URL『ミズノ』企業概要
経営理念
より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する。
引用元『ミズノ』企業概要
行動や施策例
毎週月曜日の朝9時30分から10時の30分間、全社一斉に「全社教育」を行っています。具体的には、前半の10分間は社内報ビデオ「MVC(MizunoVideoCommunication)」を放送し、後半20分は職場ごとに企画・実施される各部で教育を行う、という2部構成となっています。
ミズノDNAを学ぶ理念教育をベースとした人材育成も実施しています。更に創業者精神を伝える「MIZUNO BRAND BOOK」の制作を行って経営理念の浸透や継承をしています。
株式会社ユナイテッドアローズ
株式会社ユナイテッドアローズは紳士服や婦人服、雑貨などの企画販売を手がける会社です。2018年4月1日時点での国内での店舗数は229店舗(海外の直営店舗は4店舗)、2018年3月31日時点での従業員数は3,970人となっています。
参考URL『UNITED ARROWS LTD.』会社概要 | 企業情報
経営理念
私たちは、世界に通用する
新しい日本の生活文化の規範となる価値観を創造し続けます。
行動や施策例
全従業員を対象にした研修機関として企業内大学「束矢大学」を設置しており、経営理念の情勢や教育などの目的で利用されています。
従業員一人ひとりが、会社の目標と自分自身の目標を連動させながら、精度の高い行動計画と徹底した進捗管理により、目標の達成を目指す「目標管理制度」を創業時より導入しています。
笑顔や声、立ち居振る舞い、お洒落を通して他のスタッフをリードしているか、人間的な魅力により、複数のお客様から支持されているか等の定性面と、売上実績といった定量面の両方をバランスよく満たす人物を認定するセールスマスター制度や、、ロールプレイング形式の接客コンテスト「束矢グランプリ」の開催なども行っています。
その他、お褒めの言葉やクレームの全社共有、理念ブックの制作を配布といった取り組みもしています。
全日本空輸株式会社
全日本空輸株式会社は、ANAや全日空と呼ばれる、運送事業を手がける会社です。2018年4月時点では、国際線・国内線ともに国内最大規模を誇っています。2018年3月31日時点での従業員数は13,928名となっています。
参考URL『ANAグループ企業情報』会社概要
経営理念
安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で夢にあふれる未来に貢献します
行動や施策例
策定経緯や込められた思いを記した「ANA Book」をグループ全社員に配布したり、褒める企業文化の醸成に向けた表彰制度を設定したりしています。どのようなANAグループの未来を作りたいかを語り合う「ANA’s Day」研修も定期的に開催しています。
歴史展示施設「ANA Discovery Center」を設立しおり、創業以来の挑戦の歴史を学んだり自らに継承されているDNAを再認識することを目的としています。
経営理念の浸透が業績の向上にもつながる
経営理念を掲げることは大切ですが、施策などに落とし込むことで従業員に浸透させていくこともとても重要になります。
従業員に経営理念が浸透していれば、経営理念を体現する製品コンセプトが生まれ、優れた製品開発につながり、そして世の中に受け入れられることで、最終的には業績の向上にもつながっていきます。