くるみんとは?子育て支援企業認定制度の背景
安倍政権がここ数年打ち出している社会、特に働き方政策の要の一つに「女性の社会進出とその活躍を促進する」というものがあります。この中には、多くの企業がすでに長年取り組んでいる「仕事と家庭を両立し、誰もが活躍できる環境作りを」という観点が中心に据えられています。
施策の一つに、厚生労働省が認定する、従業員への子育て支援事業―愛称「くるみん」があります。「くるみん認定」は2007年に施行されました。仕事と育児の両立支援に取り組んでいる企業に対し、「次世代育成支援対策推進法(次世代法)」に基づいて、厚生労働大臣が実施している認定制度で、現在では多くの企業で取得や取得に向けた活動が一般的になっています。
「くるみん認定」制度が誕生した背景には、出産率の低下や、出産・育児に関わる女性(だけでなくそういった家庭の男性・家族も含む)の社会での活躍を後押しするという大前段がありますが、以前から各種取り組まれている制度がありつつも、現実には、妊娠・出産前後に、さまざま事由で仕事を継続することが困難な女性がいまだ多く存在することがその大きな要因である、と言われています。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング会社が、正社員・非正社員全体の女性社員を対象に行った調査によると、正社員は妊娠や出産を機に退職することがほぼなく、「同じ会社で就業を継続した」という人が77.3%。反面、パートや契約社員などの非正社員は、同一企業で就業継続が可能だったのは、正社員のおよそ半数の39.5%に留まっている、という結果でした。
出典元『三菱UFJリサーチ&コンサルティング』平成28年度仕事と家庭の両立に関する実態把握のための調査研究事業 労働力調査 調査の概要
もう少し詳しく見てみると、「妊娠・出産を機に退職した」人の理由では、最多は「自発的に辞めた」、次に多いのは「続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで辞めた」で、正社員では22.5%、非正社員では13.5%でした。
出典元『三菱UFJリサーチ&コンサルティング』平成28年度仕事と家庭の両立に関する実態把握のための調査研究事業 労働力調査 調査の概要
「両立が困難で辞めた人」が具体的な退職理由としては、正社員では「勤務時間が合いそうもなかった」がもっとも多く47.5%で、非正社員は「育児休業を取れそうもなかった」で41.7%という結果でした。
育児家庭の就業問題の背景には「夫の育児参加の低さ」も大きな要因としてさまざまな分析でも挙げられています。内閣府の調査では、他の欧米諸国と比較して、日本の男性の育児・家事参加の物理的な要素(時間など)は非常に低く、多くの家庭で、家事育児の負担は、女性に多くかかっていることが見て取れます。
くるみん認定とは?制度の概要と認定を受けるメリット
「くるみん」認定は、仕事と育児の両立支援に取り組んでいる企業に対し、『次世代育成支援対策推進法(次世代法)』に基づき、厚生労働大臣が認定している制度で、2007年からスタートしました。
『次世代育成支援対策推進法』に基づき、「一般事業主行動計画」を策定した企業のうち、計画に定めた内容の目標を達成すると同時に、必要な一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、「くるみん認定」を受けることができます。この認定を受けた企業の証明書となるものが「くるみんマーク」で、厚労省の統計によると、平成30年3月末時点で2,864社が認定を受けています。
2015年4月1日から「くるみん認定」を既に受けた企業のうち、必要なレベルの両立支援の制度導入・利用が進み、高い水準で活動を実施している企業を評価しつつ、継続的な取り組みを促進するための新たな制度「プラチナくるみん認定」がスタートしています。(平成30年3月末時点:認定企業数194社)
「くるみん」も「プラチナくるみん」も、次世代へと続く育成支援対策に熱心に取り組む企業を優遇し、仕事と育児の両立支援を推進するのが狙いのものです。制度の趣旨や仕組みはほぼ同じですが、認定基準の難易度と認定取得に伴うメリットの多さが違いといえます。
くるみん認定を受けるメリットとは
企業のブランドイメージの向上
分かりやすいメリットとしては「くるみん認定マーク」があることで、“子育てをきちんとサポートする企業”であることを公にPRできることが挙げられます。厚生労働省のホームページに企業名が掲載されることも、企業への信頼感・安心感への醸成につながる点も期待できます。
都道府県労働局は、「くるみん認定」の周知や啓発活動の一環として労働局のサイトに認定企業名を掲載したり、表彰の様子を広報誌などのPRツールに活用するケースもあります。
働きやすい環境の醸成による、社員の定着率向上
子育て支援の取り組みを行うことは、結果として、社員が長く働き続けられるようになるということです。企業が次世代育成支援対策に取り組み、妊娠・育児中の社員が働きやすい雇用環境を整えることにより、優秀な人材の流出の防止につながる可能性もあります。
人材の流失防止が、結果として採用や人材教育といった人材に関連する費用の圧縮にも寄与できる、とも言えます。
税制優遇措置が受けられる
「くるみん認定」や「プラチナくるみん認定」の認定企業になると、建物などの取得や増改築の際に減価償却の優遇制度(くるみん税制)が適用されるほか、各種税制優遇措置を受けることができます。
くるみん認定の場合
青色申告書を提出し、一定の期間内に初めてくるみん認定を受けた企業では、認定を受けた事業年度(1年間)に新築や増改築した建物などは以下のような率で割増償却することができます。次世代法による義務づけのない100人以下の企業は、割増償却率が高くなっています。
プラチナくるみん認定の場合
プラチナくるみんについては、企業の規模による義務づけはありません。そのため、企業規模に関係なく、すべての認定企業が以下の割増償却率が適用になります。
くるみん認定は自社だけでなく社会全体のためになる!
子育てと仕事の両立の困難さから、いまだ少なくないの女性が意に沿わない退職をしている現状をみてきましたが、今後の少子高齢化などもかんがみると、彼女たちのような人材の損失の度合いはけっして看過できるものではありません。
『次世代育成支援対策推進法』という法律は、「少子化等の現状や子どもの育成支援について、みんなで考え必要な取り組みを実施しよう」という趣旨のものです。育児の有り無しに関わらず、社会全体で考えていくべきテーマが「くるみん」をはじめとする、次世代支援事業と言えます。
次回以降の記事では、認定基準や申請方法、法改正の内容などを掘り下げてご紹介していきます。