「コンピテンシー」と「コア・コンピテンシー」の関係とは
アメリカの人事管理・人材評価の戦略的概念として知られるようになった「コンピテンシー」は、(ざっくりと述べると)『高い業績をマークする人材の行動特性』を意味しており、また、『実際の成果を生む望ましい行動特性』にもつながる要因のことです。
コンピテンシーを実務で使用するためにモデル化したものが「コンピテンシーモデル」と呼ばれています。業績を向上させるプロセスに注目して作成されるため、業種や職種によってその内容はさまざまで、導入目的や分野に応じて、細かく分けられモデル化されるものです。
『WHO(World Health Organization)/世界保健機関)で作成している枠組みとして有名なのが『WHOグローバル・コンピテンシー・モデル』という枠組みです。
WHOグローバル・コンピテンシー・モデルでは、結果を出す優秀な人材の育成方針を明確化し、「コア・コンピテンシー」「専門コンピテンシー」「マネジメント・コンピテンシー」の3種類に分類しています。
「コア・コンピテンシー」は、「所属するすべての人材に必要なコンピテンシー」を、「マネジメント・コンピテンシー」が人事管理をする立場向け、「リーダーシップ・コンピテンシー」は、組織のトップが必要とする項目、という分類分けになっています。
それぞれの役割がありますが、組織の全社員を対象とするという意味で、どの企業でも「中核」を担うコンピテンシーが、つまり「コア・コンピテンシー」となり、重要な意味合いを持つものとされています。
コア・コンピテンシーの意味や定義とは
コア・コンピテンシーの定義について
「コア・コンピテンシー(コア・コンピタンス)」のもともとの意味するところは、『組織の核となる技術や特色』を示した用語で、企業や組織を経営していくにあたり必ず押さえておくべき知識として、ビジネス界では頻繁に用いられる考え方です。
もともとは、ロンドン・ビジネススクールの客員教授で、経営論や戦略論の専門家である、ゲイリー・ハメル氏とC・K・プラハラード氏が、“新たな時代を切り開いていく斬新なマネジメントスタイル”として、「コア・コンピタンス」というビジネス用語を独自に開発しました。『顧客に対して、他社では提供できないような利益もたらすことのできる、その企業に秘められた独自のスキルや技術の集合体』として定義したことに始まります。
少し話がそれますが、「コンピタンス」は「コンピテンシー(Competency)」に置き換えることができ、『適性』『能力』『技量』『力量』『特質』『特色』など意味しています。 そて「コア」とは一般的に、物体や事象における『核』のことを指します。
「コア・コンピタンス」ですが、定義の内容から、「次の3つの条件を全て満たした自社能力」のことであると考えられています。
- 顧客に何らかの利益をもたらすもの
- 競合相手に真似されにくいもの
- 複数の商品・市場に推進できるもの
ハメル氏とプラハラード氏が1990年、『ハーバード・ビジネス・レビュー』に寄稿した「The Core Competence of the Corporation」では、企業が持つさまざまな「Competency」を司る概念として、「Core Competence」と表現しています。つまり「コア・コンピタンス(コア・コンピテンシー)」の本来の英語としての意味は、「核となる一定の水準を満たした能力」ということでもあると言えます。
組織全体に共通する骨子となる「コア・コンピテンシー」ですが、大きくは、2つのカテゴリーに分類できるとされています。
- 人格に関する分野
自己の成熟性を評価する項目。
感情理解(自己認識)、冷静さ(自己統制)、誠実さ(自己統制)、几帳面さ(自己統制)、慎重さ(自己統制)、ストレス耐性(自己確信)、徹底性(達成意欲)、自己理解(正確な自己評価)、思いやり(自己統制)、ビジネスマナー(礼儀)、規律性(自己統制)など - 行動科学分野
行動力を評価する項目。
行動志向(モチベーション)、自立志向(モチベーション)、冒険志向(モチベーション)、柔軟志向(変化への対応)、素直さ(信頼性)、協調性、革新志向(イノベーター志向)、自己啓発、兆戦意欲(チャレンジ性)、逆説への対処、適時決断力、目標達成志向など
コア・コンピテンシー(コア・コンピタンス)活用の注意点とは
組織の中核(コア)の概念をつかさどる意味で、重要な存在の「コア・コンピテンシー(コア・コンピテンス)」ですが、必ずしもすべてに適用できるものではない(適用のさせ方による)ということには留意しておく必要があります。その注意点に関して触れておきます。
1.コア・コンピタンスは、成功モデルの一部に過ぎない
「コア・コンピテンシー(コア・コンピテンス)」に挙げられる、特定の能力だけが、組織や社会の中で本当に競争優位を確立できるのか、という点は疑問視されています。
たとえば、SONYのコア・コンピテンシー(コア・コンピテンス)が『小型化技術力』であったとして、それだけであのような高い実績をあげられたのか、ということです。
SONYのような製造系の分野の場合、コア・コンピテンシー(コア・コンピテンス)には、「技術開発力」がまずは挙げられることが一般的ですが、実際に市場に流通させたり購買意欲を高めるためには、製造を実現化するための基盤やデザイン、マーケティング、物流など、さまざまな能力が求められます。
経営というものは多面的で流動的なものである、ということは、まずは押さえておくべきポイントです。
2.組織の考え方(常識)を、急に変化させることは困難であることを知る
コア・コンピテンシー(コア・コンピテンス)経営の前提は、「継続的な組織の学習」にあるとされています。コア・コンピテンシー(コア・コンピテンス)を構築していくためには、現場を信じ、それぞれの組織に権限を移譲し、日々、創意工夫や改善を促進させていく道筋をつける、ということが求められます。
そういった状況で、組織外の社会的な環境の変化等で、仮に経営が危機に瀕したとしましょう。その場合、もはや日々の地道な努力では経営を立て直すことはできず、抜本的なビジョンの転換が必要になります。しかしこの時までに各現場では、それまでのコア・コンピテンシー(コア・コンピテンス)をベースにした学習活動が“組織の常識”となっています。
地道な学習が経営を大きくしてきたはずの従来の現場の方法は、急激な転換を求められる状況になった場合に、『容易に変えることができない要素』として、転換自体を阻害してしまうケースもあります。
コア・コンピテンシーについての理解を深める
コア・コンピテンシー(コア・コンピテンス)は、会社全体を成長させる上で非常に重要である要素です。企業は柱であるコア・コンピテンシー(コア・コンピテンス)の周りに、いくつものコンピタンス(=コンピテンシー)が柱として存在することで、組織経営は成り立っています。
今までのコンピタンス(コンピテンシー)を今一度確認しつつ、自社の「コア」がどこにあるのか、それをいかに活かしていくのか、じっくりと考えることが、組織にとって肝要です。