キャリアアップ助成金が生まれた背景
働き方改革や同一労働同一賃金など、非正規雇用(有期契約)労働者の問題は解決しなくてはならない、優先順位の高い課題となっています。非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップや賃金アップなどを促進するものとして、キャリアアップ助成金制度が2013年に誕生しました。
アルバイトやパートであっても、条件を満たすと、社会保険の強制加入対象者となります。社会保険の強制加入対象者となる条件は以下の通りです。
- 1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同じ業務を行っている正社員など一般社員の4分の3以上
- 週所定労働時間が4分の3未満で、以下の条件を全て満たす場合
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 勤務期間が1年以上、または1年以上となる見込みがある
- 月額の賃金が8.8万円以上
- 学生でない
- 従業員501人以上の企業に勤務している
従業員500人以下であっても、勤務時間(平日5日×8時間=40時間と仮定すると、40時間×4/3=30時間以上)に該当すれば社会保険の加入義務が生まれます。
社会保険に加入すると、月額13万円の給与であれば約12,000円、20万の給与であれば約18,000円が天引きされます。給与の10%弱が天引きされる想定になるので、敢えて社会保険の加入対象者とならずに生活費などに回す、などの非正規労働者も多くいます。
少子化に伴った労働力人口不足により、社会保険の加入要件のみで労働時間を敢えて減らすことは、政府としても望ましくありません。かといって社会保険に強制加入させたところで、労働者の手取り金額が減少するのみで、不満が生まれることは想像に難くありません。
短時間労働者労働時間延長コースは、社会保険の加入義務のない短時間労働者に対して、手取り金額を減少させないように労働時間を延長し、社会保険の加入義務が生じた場合に受給できる助成金です。
今回はキャリアアップ助成金の中のコース、パートやアルバイトなどの短時間労働者の週所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した場合に助成される「短時間労働者労働時間延長コース」についてお伝えします。
短時間労働者労働時間延長コースとは
短時間労働者労働時間延長コースは、パート社員やアルバイト職で勤めている短時間労働者の週所定労働時間を延長し、社会保険適用の範囲内になった場合に助成されるコースです。
現状としては、社会保険に加入したいけれど手取り額が減るのは困るので、あえて短い時間で働くという短時間労働者は多い状況です。手取り収入が減少しないように社会保険適用になった際は給与を上げると助成される「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」も併設されています。
受給金額について
受給金額については下記2通りございます。< >は生産性の向上が認められる場合の額、( )内は大企業の額です。
- 雇用する有期契約労働者等について、週所定労働時間を5時間以上延長
1人当たり19万円<24万円>(14万2,500円<18万円>) - 労働者の手取り収入が減少しないように週所定労働時間を延長し、新たに社会保険に適用させることに加えて、賃金規定等改定コースまたは選択的適用拡大導入時処遇改善コースを実施した場合
- 1時間以上2時間未満:1人当たり38,000円<48,000円>
(28,500円<36,000円>) - 2時間以上3時間未満:1人当たり76,000円<96,000円>
(57,000円<72,000円>) - 3時間以上4時間未満:1人当たり11万4,000円<14万4,000円>
(85,500円<10万8,000円>) - 4時間以上5時間未満:1人当たり15万2,000円<19万2,000円>
(11万4,000円<14万4,000円>)
- 1時間以上2時間未満:1人当たり38,000円<48,000円>
対象となる人数は、1年度1事業所当たり支給申請上限人数15人までとなります。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースとの違い
キャリアアップ助成金には、社会保険適用に関する「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」があります。
「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」とは、労使合意に基づく社会保険の適用拡大の措置により、有期契約労働者等を新たに被保険者とし、基本給を増額した場合に助成されるコースです。基本給の向上であれば「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」、週所定労働時間の延長であれば「短時間労働者労働時間延長コース」となります。
受給要件について
受給要件は、キャリアアップ助成金で共通するものと短時間労働者労働時間延長コースのみに適用されるものとあります。それぞれ分けて説明致します。
キャリアアップ助成金で共通する事業所要件
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いている事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
(キャリアアップ計画書は、コース実施日までに管轄労働局長に提出すること) - 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備している事業主であること
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
「キャリアアップ計画」とは、非正規雇用労働者のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるために、今後のおおまかな取り組み(目標・期間・目標を達成するために事業主が行う取り組み)などイメージでいいのであらかじめ記入するものです。このキャリアアップ計画は、あくまでも当初の計画を記入するため、変更届を提出すれば随時変更することも可能です。
「キャリアアップ管理者」とはこのキャリアアップ計画をすすめる人のことで、1事業所あたり1名配置します。キャリアアップに関して知識、経験のある人が望ましいですが、資格などは必要ありません。
短時間労働者労働時間延長コースのみに適用されるもの
- 雇用する有期契約労働者等について、週所定労働時間を5時間以上延長、または労働者の手取り収入が減少しないように週所定労働時間を1時間以上5時間未満延長し、新たに社会保険に適用させることに加えて、賃金規定等改定コースまたは選択的適用拡大導入時処遇改善コースを実施した事業主であること
- 週所定労働時間を延長し、新たに社会保険の被保険者となった労働者を、延長後6か月以上の期間継続して雇用し、延長後の処遇適用後6か月分の賃金を支給した事業主であること
- 週所定労働時間を延長した日以降の全ての期間について、当該労働者を雇用保険及び社会保険の被保険者として適用させている事業主であること。
- 週所定労働時間を延長した際に、週所定労働時間及び社会保険加入状況を明確にした雇用契約書等を作成および交付している事業主であること。
ポイントとしては、労働者の賃金が減ってしまうことがないようにするということです。
短時間労働者が損をしないように労働時間を延長し、新たに社会保険に加入をさせる必要があり、キャリアアップ助成金の「賃金規定等改定コース」や「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」を使用して賃金アップすることで助成金が出る仕組みということです。
申請期間について
申請期間は、初回の諸手当の支給後6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に申請する必要があります。
労働時間が延長された4/1の支給日が5/15、6か月間給与が支給された日が10/15。その翌日の10/16から2か月以内が申請期間なので12/15までに申請する必要があるということです。
助成金申請における注意点について
注意点としては、受給金額が平成32年3月31日まで支給金額がアップしている点と、上限人数15人まで緩和されている2点です。
「労働者の週所定労働時間を延長し、新たに社会保険に適用させることに加えて、賃金規定等改定コースまたは選択的適用拡大導入時処遇改善コースを実施する」というコースは平成32年3月31日までの暫定措置となりますので、制度を検討されている際は早めに申請することをお勧めします。
フルタイムの労働者を求めているなら検討してみよう
短時間労働者を長時間労働者に変更したとき、新しい従業員を採用して教育するよりもメリットがある場合には、短時間労働者労働時間延長コースのような、長時間労働者に転換する際の助成金が多いに活用できます。申請を検討してみるのもありではないでしょうか。