健康診断を実施すると助成金がもらえる!?
働き方改革や同一労働同一賃金についてなど、非正規雇用(有期契約)労働者の問題は解決する優先順位の高い課題となっています。賃金や待遇だけでなく、健康面での格差も、国が解決しようとする課題の一つです。
労働安全衛生法では、従業員の健康管理の基本として、定期的な健康診断の実施が義務付けられています。定期健康診断の費用は、会社が全額負担し、受診時間中も労働時間として、賃金を支払うことが望ましい(賃金の支払いは義務ではありません)とされています。
健康診断の対象となる従業員は「常時使用する労働者」とされています。「1年以上使用する予定で、週の労働時間が正社員の4分の3以上である」者とされています。正社員はもちろんのこと、パートタイマーやアルバイトであっても該当する場合があります。週の労働時間が4分の3未満であれば、受診義務はありませんが、2分の1以上の場合は努力義務とされています。
実際には、健康診断の対象となる「正社員の週所定労働時間の3/4以上働くパートタイマー」であっても受診率は91.8%、努力義務とされている「1/2以上、3/4未満働くパートタイマー」の受診率は72.1%と改善の余地が残されています。
出典元『厚生労働省』パートタイム労働者の健康診断を実施しましょう
健康診断を受けられないために、自らの健康被害に気づくのが遅くなる可能性が高まります。非正規労働者の多くが、低賃金のために長時間労働を強いられている、世帯所得が低くて野菜や肉よりも炭水化物中心の食生活となり、栄養の偏った食事にならざるを得ないなどから、健康面でのリスクを多く抱えています。
キャリアアップ助成金とは、非正規労働者の待遇を改善したり、企業内でのキャリアアップを目指すことを目的とした助成金です。キャリアアップ助成金には7つのコースがあり、健康に関するコース「健康診断制度コース」があります。今回は健康診断制度コースについて説明します。
キャリアアップ助成金の健康診断制度コースとは
健康診断コースは、企業から健康診断の受診義務のない非正規雇用労働者の健康を守ることが目的です。
2008年8月に製造業への派遣労働が解禁された後に、派遣労働者の労働災害が急増したことを受け、リスクが高いのにも関わらず、自己や健康障害を予防するための安全衛生教育の機会がないことを厚生労働省も危惧しています。
派遣労働者などは、産業医が派遣元企業に行くことが少なく(行ったとしても派遣先企業にいるため受診できない)、派遣先企業に行っても別会社という認識で業務の対象外となってしまうといった現状もあります。
有期雇用労働者の健康診断実施率とは?
パートタイム労働者が在籍する事業所の従業員に対する定期健康診断の実施状況では、14.1%の事業所がパートタイム労働者を対象にしていませんでした。
出典元『厚生労働省』パートタイム労働者等の健康管理事業 調査報告書
またパート従業員が、勤務先に実施して欲しい取組で最も多かったのは「定期健
康診断」であり、36.2%でした。「健康診断」や「入社時健康診断」、「メンタルヘルスケアの実施」などの他の取組と比べても、「定期健康診断」を求めているパートタイム労働者が非常に多いことが分かります。
出典元『厚生労働省』パートタイム労働者等の健康管理事業 調査報告書
受給金額について
有期契約労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、延べ4人以上実施した場合に助成されます。
1回のみとなりますが、1事業所当たり38万円<48万円>(28万5,000円<36万円>)となります。
※< >は生産性の向上が認められる場合の額、( )内は大企業の額
受給要件について
受給要件は、キャリアアップ助成金制度で共通する部分と、健康診断制度コースのみとわかれます。キャリアアップ助成金に共通する部分は下記です。
キャリアアップ助成金全体に共通する受給要件
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
- 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備している事業主であること
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
「キャリアアップ計画」とは、非正規雇用労働者のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるために、今後のおおまかな取り組み(目標・期間・目標を達成するために事業主が行う取り組み)などイメージでいいのであらかじめ記入するものです。このキャリアアップ計画は、あくまでも当初の計画を記入するため、変更届を提出すれば随時変更することも可能です。
「キャリアアップ管理者」とはキャリアアップ計画をすすめる人のことで、1事業所あたり1名配置します。キャリアアップに関して知識、経験のある人が望ましいですが、資格などは必要ありません。
健康診断制度コースのみの受給要件
- 有期雇用労働者に対して実施する健康診断を就業規則等に規定する
- 有期雇用労働者4人以上に健康診断等を実施した事業所
- 規定した健康診断等を定期的に実施する
- 実施した定期健康診断や雇用時の健康診断等の費用を全額負担する
- 実施した人間ドック制度の費用を半額以上負担する
- 健康診断制度等を適用する従業員要件について対象者を限定する等実施するための要件(合理的な理由があるものに限る)がある場合は、就労規則等に規定する
- 生産性要件を申請する場合、要件を満たしている事業所であること
生産性向上については、生産性が3年前に比べて、6%以上改善していると割増の対象になります。
生産性゠(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃貸料+租税公課)÷雇用保険被保険者数
「生産性要件シート」を用いて計算された生産性の伸び率が「生産性要件」を満たしている場合、助成の割増が行われますので一度計算してみると良いでしょう。
参考URL『厚生労働省』生産性要件算定シート
申請期間について
申請期間は、健康診断が実施される日を含んだ給与支給日の翌日から2か月間に行います。
健康診断制度コースの助成金申請における注意点
健康診断制度コースの注意点としては、まず4人以上に実施する必要があることです。申請するタイミングも4人目の健康診断が終わったタイミングで行います。
また1事業所あたり申請は1回のみです。健康診断制度を作り、就労規則に規定したときに申請すると良いでしょう。
また健康診断の種類ですが、下記健康診断のいずれかを適用したときに認められます。
- 雇入時健康診断
労働安全衛生規則の第43条に規定され、常時使用する従業員に対し実施する健康診断のことです。 - 定期健康診断
労働安全衛生規則第44条に規定され、常時使用する従業員に対し実施する健康診断のことです。 - 人間ドック
以下1に加え、2~8のどれかの項目を実施する健康診断のことです。- 基本健康診断
- 胃がん検診
- 子宮がん検診
- 肺がん検診
- 乳がん検診
- 大腸がん検診
- 歯周疾患健診
- 骨粗鬆症健診
会社としても従業員の健康はメリットが多い!
無期契約の労働者はもちろんのこと、有期契約であっても所定労働時間が3/4を超えるのであれば健康診断の実施義務があるのですが、実態は91%であり、3/4未満のパートタイム従業員ではさらに割合が減っている現状があります。
賃金格差や福利厚生などの待遇格差だけでなく、健康格差を埋めることは、従業員に対してもメリットがあり、会社としても健康的に働いてもらうことでパフォーマンスや労働生産性向上に結び付けることができるでしょう。従業員の健康状態を管理するためにも導入を検討してみてはいかがでしょうか。