「優れたリーダー」の行動パターンに注目した理論
リーダーシップについての問題意識は古くから生まれていて、プラトンの『国家論』やマキャベリの『君主論』は、「リーダー」について具体的に言及した特に有名な書物として知られています。そして1900年以降には学問として「リーダーシップ」の研究がアメリカを中心に盛んとなり、様々な仮説が検証され、それが現代のリーダーシップ理論に繋がっています。
リーダーシップ研究の初期に登場した「特性理論」では、「リーダーシップは先天的なもので、生まれ持った才能である」という仮説に基づいていましたが、普遍的な特性の発見には至りませんでした。また、リーダーと非リーダーの差異についてはよく説明できたのに対し、「良いリーダーとは」といった「リーダーシップそのものの詳細な研究」までには及びませんでした。
その次に主流となった理論が「行動理論」です。
行動理論は「優れたリーダーシップを発揮する人」と「そうでない人」の行動パターンに着目し、どのような行動パターンが優れたリーダーを作り上げるのかについて研究された理論です。行動理論は今でも一部使用されることがある重要なもので、今回は行動理論を通して「リーダーシップ」の理解を深めていきましょう。
なぜ行動理論が生まれたのか?
行動理論が登場したのは1940年代です。それまではリーダーシップを先天的な性質だと仮定した特性理論がリーダーシップ理論の主流だったのですが、これでは「良いリーダーになるにはどうしたら良いか?」といったプラクティカルな問題へのアプローチができませんでした。
「良いリーダー」になるために、「良いリーダーが取る行動」に着目し、その行動から良いリーダーを導こうとする研究が、行動理論です。
行動理論における前提
リーダーシップ理論をより実用的かつ汎用性の高いものへとアップデートするためには、特性理論の前提を見直す必要があったのです。そうした文脈で生まれた行動理論は、行動パターンに注目することで、「どういう人間がリーダーなのか」ではなく「リーダーはどういう行動を起こすのか」にテーマを置き直しました。
行動理論では「行動結果としてのリーダーシップ」を前提にすることで、能力としてのリーダーシップを開発可能なものとみなしたのです。
今でこそ当たり前になっていますが、リーダーといってもさまざまなキャラクターがあります。行動理論では主にリーダーシップを2つの軸で分類することで、能力や特徴の区分けが行われています。
マネジリアルグリッド論
行動理論の研究例として、ブレイクとムートンにより提唱された「マネジリアルグリッド論」というものがあります。
マネジリアルグリッド論では、リーダーシップを「管理者の生産業務に関する関心度」と「人間に関する関心度」の2軸で捉え、それぞれを9段階で評価した合計81パターンの分類を行う理論です。そしてこの81パターンは大きく分けて以下の5種類に該当します。
- 無関心型(生産業務と人間、両方の関心が低い)
- 権威服従型(生産業務にのみ関心がある)
- カントリークラブ型(人間にだけ関心がある)
- 組織人間型(生産業務と人間の両方にほどほどの関心がある)
- チーム管理型(生産業務と人間の両方に高い関心がある)
出典元『INVENIO LEADERSHIP INSIGHT』マネジリアル・グリッド論
マネジリアルグリッド論では、当然ですが「チーム管理型」がリーダーとして一番望ましいと結論づけています。
PM理論
PM理論(Perfomance and Maintenane Theory)は、三隅二不二により提唱された理論で、リーダーシップを「目標達成能力(Perfomance)」と「集団の維持能力(Maintenance)」の2軸で評価を行います。この分類ではパフォーマンスとメンテナンスそれぞれの、それぞれの頭文字を使って、高ければ大文字、低ければ小文字といった具合で記号化し、4パターンの分類がなされます。
- pm型(目標を達成する力も、集団を維持・強化するも弱い)
- pM型(集団を維持・強化する力はあるが、目標を達成する力が弱い)
- Pm型(目標を達成することはできるが、集団を維持・強化する力が弱い)
- PM型(目標を達成する力があると同時に、集団を維持・強化する力もある)
出典元『INVENIO LEADERSHIP INSIGHT』PM理論
PM理論でもリーダーとして望ましいのはPM型であると結論づけられています。
同時に重要なのは、pM型やPm型が組織内でどのような役割に適しているのか、そしてこうしたタイプの人材がリーダーになるにはどうしたら良いか、などの議論を可能にしたことです。
単なる分類に終わらず、分析がフィードバックへと結びついているという点で優れています。
行動理論の問題点
実用性・汎用性が高く、シンプルに能力の分析を行える行動理論は今でもたびたび活用されています。しかし、行動理論も万能ではなく、1960年代には次の条件適合理論へと移行することになりました。
行動理論の欠点は、人物の能力にだけフォーカスした理論であるということです。実際のビジネスシーンをみると、タスクや環境といった外的影響が数多くあり、それに合わせて取るべき態度・行動が変わってくると考えられます。そうした適応能力について、行動理論では説明できないのです。
マネジリアル・グリッド論で良いとされている「チーム管理型のリーダー」やPM理論における「PM型リーダー」への実証研究によって、常に優秀なリーダーシップを発揮できるわけではないことが明らかになったことも裏付けとなっています。ある状況下においては優秀であっても、他の状況下においては優秀であると限らないため、どのような状況下においてどのような行動が適しているのかを研究する必要が生まれました。
「個人」だけでなく「環境」も重要な要素
行動理論では「優れたリーダーに共通する行動がある」仮説のもと、行動原則を明らかにすることで、優れたリーダーを育成する目的で研究された理論です。
しかし、あくまで優れたリーダーの行動にのみ注目されており「優秀な部下、そうでない部下」の存在や「チーム規模の違い」などの要因も影響を与えるのでは?と考えられるようになりました。
リーダーシップ研究は、「行動理論」からどのような要因があるときにどのようなリーダーが優秀となるのかについてを追求する「条件適合理論」へと移行していきました。