フリーライダー問題が生まれる原因や具体例、特徴とは?

なぜ「フリーライダー」は問題なのか?

フリーライダーは本来「ただ乗り」という意味を持ち、経済学でいうところの「公共財」というある財やサービスを考える時によく扱われるテーマです。公共財の例としては、消防、警察、国防、放送などがあげられます。

たとえばNHKのテレビ番組は、ある人が見たからといって、別の人が見る機会を奪われることはありません(これを『非競合的』といいます)。一方で対価を支払わない人が見ないようにすることも困難です(『非排除的』)。つまり「公共財」とは、「非競合性(ある人の消費によって別の人が消費できる量が減少することはない)」と「非排除性(対価を支払わない人が消費することを排除することはできない)」の、両方の性質を持つ財のことを言います。

ここから派生して、高い給与をもらっているのに仕事をしない上司、手柄を横取りする上司や同僚など、人の成果に「ただ乗り」する人たちもフリーライダーと呼びます。

ある部下が上司からプレゼン資料の作成を頼まれたとします。部下は、時間をかけて仕上げ提出すると、上司はその資料をそのまま使用。役員クラスにプレゼンしたところ高評価を受け、部下ではなく自分の成果にしてしまう。このように、自分は労せずして人の成果を横取りするだけでなく、それで評価を受け報酬を得るような例は、他にもさまざまなケースがあります。

今回は、企業においてなぜフリーライダーが生まれてしまうのか、その原因とよくある事例などについて、詳しく説明します。

「フリーライダー」を社会学やビジネスの現場の事例から読み解く

「コストの負担」を避けたがる人間

近代における市民社会の社会秩序は、個人の思想や行動の自由、個人の自発的な社会参加・協力行動、個人の自己決定と対話(交渉)による合意によって形成されると言われています。対して、コスト(費用)の負担を避けたがる『人間のエゴイズムの本性』を理由にこれを批判したのが、社会学者のM.L.オルソン(M.L.Olson)氏です。

M.L.オルソン氏は、「個人主義(個人単位で物事を判断する)」「自由主義(他者の権利侵害をしなければよい)」「功利主義(結果としての利益)」によって形成される近代市民社会の秩序を壊してしまうリスク要因として『フリーライダー問題』を取り上げました。

フリーライダーは『経済的・時間的・労力的なコスト(費用)を支払わずに、社会政治システムの恩恵だけを受け取ろうとする人』を指しています。

個人が自分の利益を追求することを最優先するのを良しとする社会であれば、投票や環境保護(ゴミ問題)、ボランティア活動(社会福祉活動)、正直な納税などの社会貢献につながる公的な問題で『コストを伴う協力行動』よりも『コストを負担しない非協力行動』を取りやすい傾向が一般的です。

必要な情報提供や教育活動、宣伝広報、学習などの啓蒙によって、協力行動を選択する個人は若干増やすことはできますが、個人主義(自由主義)と功利主義だけを前提にすれば、『社会の共同性・協力の必要性』を認識していても、フリーライダーは増加する傾向にあるのです。

自分自身が、経済的・時間的・労力的なコストを支払わなくても、社会全体の活動や政治から生まれる恩恵だけを受け取りやすく、自分がコストを支払わないことにデメリットがなければ、大半の人は、進んでコストを支払いたがらないものです。

「フリーライダー」が社会の中で、また組織の中で一定数発生するのは必然のようにも思えますが、日本の企業を例に挙げると、そもそも日本特有の事情でフリーライダーを生み出している現状もあります。

たとえば、さまざまなメディアで問題となっている「残業代未支給」などは、企業の側も、成果に対する正当な評価をしていないことの顕著な例でしょう。こういった組織では「努力しても報われないなら努力する必要を感じない」という「学習性無力感」などが蔓延しやすくなり、ひいてはフリーライダーの誕生につながります。

「囚人のジレンマ」から読み解くフリーライダー

「囚人のジレンマ」とは、ゲームの理論における重要な概念の一つです。

囚人のジレンマとは、2者が協力したほうがお互いに良い結果になることがわかっていても、1者が得をして他者が損をする状況の場合には、協力しなくなることです。個人が自らの利益を追求している限り、必ずしも全体の合理的な選択に結びつくわけではないことを意味しています。

NHK料金が払われない理由を囚人のジレンマから考える

NHKの電波は公共財です。誰が受信しても減りませんし、料金を支払わないからといって特定の家だけ受信できないようにすることもできません。ここで、NHK料金が払われない理由を囚人のジレンマを使って考えてみましょう。

ここでは、国民がAとBの2人だけと仮定します。両者が料金を支払うと、どちらもNHKの番組を見ることができます。1人が料金を支払い、もう1人が支払わない場合、NHKが組織として運営していくためには、2倍の料金が必要となります。番組はどちらも見ることができますが、それなら払わない方がよいとAもしくはBが判断するケースも出てくるでしょう。

囚人のジレンマ例
出典元『3日で学ぶ交渉術!ゲーム理論入門』NHK料金が払われない理由~フリーライダー

さらに、2人とも料金を支払わない場合、NHKは収入が無くなることで番組の質が低下。最悪、倒産の危機に直面することもあるでしょう。この場合、2人とも良質な番組が見れなくなるという事態に陥ります。

こうなると、相手が支払うのであれば、自分は支払わない=ただ乗りする方が得であるし、相手が支払わない場合も「相手の料金まで払うくらいなら番組を見ないでよい」という思考になり、いずれの場合でも、支払わないことがもっともマイナスにはならないことになります。

ビジネスシーンにおける「フリーライダー」の事例

多くの組織でみられるただ乗り社員=フリーライダーの典型的な例をいくつかご紹介します。

1.アガリ型 代表例:一丁上がりベテラン系社員

  • 年功序列などの組織特性によって、役職的にはある程度のレベルまで出世している。
  • 自分から仕事を探さない(作らない)。
  • どうしてもやらざるをえない仕事のみ、最小限だけ取り組む。
  • 批評はするが、自らは動かず、責任が発生する事象は回避する。
  • 新しい業務のやり方を覚えない。
  • 既存業務も、ただ他の人に任せるだけで仕事をした気になっている。
  • スピードが遅い。

出典元『週刊ダイヤモンド 8月28日号「解雇解禁 タダ乗り正社員をクビにせよ』32ページ「あなたの隣のタダ乗り社員」

会社勤めをすごろくに例えて「(部長など)一定の階級まで昇格したからアガリである」と考えている社員のことです。アガリ型になるのはベテラン社員であり、現在の階級に満足しているために職務を部下に任せて自分は好きなことをするなどの特徴があります。

部下が報告などのコミュニケーションを図ろうとしても、部下の粗探しや否定を行うだけで、部下のやる気を削ぐ上司とも言えます。当然のことながら、部下とのコミュニケーションがうまくいかず、部下は悩みを一人で抱え、抱えきれなくなることで離職などにも繋がります。新しいことへのチャレンジも、失敗を恐れている(現在の階級を手放したくない)ために、行うことはほとんどありません。

第2.成果・アイデア泥棒型 代表例:人の手柄横取り系社員

  • 個人主義的なのに、自分で考えずに、安易に人に頼る。
  • 自分のために使える人は徹底的に使う。
  • 人が上げた成果を、さも自分の成果のように持っていく。
  • 手伝ったり、時間を使ったりしてもらっても、感謝しない。
  • 自分のほうが優位な相手には、威張った態度を取る。
  • 自分よりも上の者に対しては忠犬のようになる。
  • 自分の時間にはケチだが、人の時間を奪うことは平気である。

出典元『週刊ダイヤモンド 8月28日号「解雇解禁 タダ乗り正社員をクビにせよ』32ページ「あなたの隣のタダ乗り社員」

成果・アイデア泥棒型は、契約社員や派遣社員といった立場の弱い人を抱えている正社員など、若手や中堅社員に多いタイプです。自分ではアイデアや成果を出さないのに、さも自分のアイデアや成果であるかのようにアピールすることがうまく、自分の手柄にしてしまうタイプです。

他人の協力を踏み台にするのと同時に、他人の業績を自分のものにしようとするため「アレオレ詐欺社員」とも呼ばれます。自分がやってもいない手柄を「アレ俺がやったんだよ」と言って横取りするタイプです。

他人の協力や業務に依存するのに対して、本人は「個人主義」であると考えているため、一方的なコミュニケーションとなりがちです。

第3.クラッシャー型 代表例:自分の実力勘違い系社員

  • 自分は「できている」と思っている。
  • 自分の仕事ぶりに関して悪い面を認めようとせず、自分に都合よく物事を解釈する。
  • 自分にとって都合の悪いことは記憶がすり替わっている。
  • 人とこだわる箇所が違い、そこに固執する。
  • 自分に厳しいフィードバックをする人に対して攻撃的になる。
  • 自分に対してはナイーブだが、人の感情には鈍感である。
  • 真剣にかかわった人を振り回して消耗させる。

出典元『週刊ダイヤモンド 8月28日号「解雇解禁 タダ乗り正社員をクビにせよ』32ページ「あなたの隣のタダ乗り社員」

クラッシャー型は、自己過信が大きく、人への態度が横柄・攻撃的なタイプです。自分は出来ると思いこんでいるが、スキルや成果などがなかったり、実力があっても仕事の仕方が合っていない、入社歴の浅い社員や市場の変化に対応できていない(古い仕事のやり方にこだわる)ベテラン社員に多いタイプです。

注意をすると「自分は優秀で頑張っているのに成果が出ないのは、周囲や環境が悪い」などと逆ギレを起こすこともあるため、無用なトラブルを避けるために注意すらされなくなるパターンです。当然のことながら、コミュニケーションが非常に難しいです。

第4.暗黒フォース型 代表例:相手のやる気削ぎ達人系社員

  • 少しでも自分の負担が増えたり、面倒くさくなるような仕事の案に対しては、批判と揚げ足取りをしてつぶし、自分に降りかからないようにする。
  • 協力が必要な場面でも「それはうちの問題ではない」「僕の仕事ではない」と言って拒否する。
  • 部下が仕事の改善案を持ってきても放置。結論を催促されたら理由も述べずに「不採用」と通知。理由を尋ねられると「あれじゃダメだろ」と理由にならない理由で跳ね返す。
  • ほめない、長所を見ない、短所をねちっこく攻める。

出典元『週刊ダイヤモンド 8月28日号「解雇解禁 タダ乗り正社員をクビにせよ』32ページ「あなたの隣のタダ乗り社員」

暗黒フォース型は、現状維持を最優先するために、業務負担が多い業務や失敗のリスクがある業務の「できない理由」を探すタイプです。自分の業務だけでなく、部下の提案などにも責任を負いたくないため「できない理由」を探して部下を否定します。頑張ろうとしている従業員は無力感を覚えることとなり、映画「スターウォーズ」の「ダークサイド」に引き込むような行動になぞらえて、暗黒フォース型と言われています。

グローバル化などで激動する市場へ対応しようとする組織にとっては、見えない敵となります。部下や同僚などを平気で巻き込むだけでなく、自分のためであれば仲間を裏切ることにも抵抗がないため、多くの従業員に悪影響を与えます。結果、組織としての行動が遅くなり、競合他社などに遅れを取るなども起こりえます。

奥深い「フリーライダー問題」には長期的かつ戦略的に対応するべし

「フリーライダー」のテーマは、経済学や社会学などでも昔から大きな問題として扱われています。フリーライダーが生まれてしまう原因やメカニズムはさまざまですが、人間の根本的な本能の部分が引き金になることも少なくなく、そのため一度発生すると、解消することは簡単ではありません。

組織内のフリーライダーに関して説明すると、適正な評価ができていない場合やコミュニケーション不足など、フリーライダーを発生させてしまう土壌をおのずから作っているケースも少なくありません。

自分や自分が属する組織でフリーライダーと共通する特徴がないか、今回の事例なども参考にして、じっくり分析してみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

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