離職率と定着率は表裏一体!
採用担当者として、優秀な人材を獲得することは重要な課題です。しかしながら、それ以上に、優秀な人材に長く働いてもらうことも重要な課題となっています。
短期間で辞めてしまうと、採用や教育・研修コストなどを回収できないリスクがあります。中小企業は、大企業に比べると資金も潤沢でなく、従業員一人あたりに依存する業務量が多いため、離職は深刻な問題となります。
その上で語られるのが「離職率」と「定着率」の二つの言葉です。一般的な解釈だと「離職率」は仕事を辞めた人の割合、「定着率」は仕事を続けている人の割合と認識している人も多いかと思います。
厚生労働省の平成27年度の雇用動向調査結果では、平成27年度の離職率は15.0%となっています。(入職率:青、離職率:赤)
出典元『厚生労働省』平成27年度の雇用動向調査結果の概要:入職と離職の推移
中小企業庁で計算されている離職率は約30%(中小企業以下のみ、2015年の数字)と、厚生労働省の数字と大きく異なります。
厚生労働省と中小企業庁の数字が違うのは、「離職率」という言葉には期間が定められていないことが理由です。厚生労働省では「1年間」、中小企業庁では「3年間」の数字となっています。
人事担当者として、使いどころによって異なる離職率とどのように向き合っていくべきなのでしょうか?本記事では「離職率」や「定着率」の言葉の意味や定義、計算方法を整理し、見解をまとめます。
「離職率」の意味や定義とは
日本でよく言われる「離職率」は、厚生労働省が出している「雇用動向調査」の用語の定義が多く用いられています。まずは、この定義について確認しましょう。
「入(離)職率」
常用労働者数に対する入(離)職者の割合をいい、次式により算出している。
この式に含まれている「常用労働者」と「入(離)職者」の定義も確認しましょう。
「常用労働者」
次のいずれかに該当する労働者をいう。
(1)期間を定めずに雇われている者
(2)1か月を超える期間を定めて雇われている者
(3)1か月以内の期間を定めて雇われている者又は日々雇われている者で、前2か月にそれぞれ18日以上雇われた者
「入職者」
常用労働者のうち、調査対象期間中に事業所が新たに採用した者をいい、他企業からの出向者・出向復帰者を含み、同一企業内の他事業所からの転入者を除く。
このままでは分かりづらいので、例から考えてみましょう。
A社は2017年1月1日時点で100名の社員が在籍しており、2017年には10人の社員が離職していたとします。その場合は、下記のように計算できます。
逆に定着率は、離職していない人の割合であるので、90%(100% ー 10%)となります。
厚生労働省は1年間で計算を行っており、1月1日を基準日として決めています。補足に、冒頭で紹介した厚生労働省の離職率は、以下の計算になっています。
Society For Human Resource anagement(SHRM)での離職率の定義とは
アメリカ人材マネジメント協会(Society For Human Resource anagement(SHRM))でも離職率を定義しています。
アメリカ人材マネジメント協会の定義によると、離職率(Turnover Rate)の「一定期間」は「1年」と決められているわけではなく、「3年」「半年」または極端に「3ヶ月」という場合があります。
期間を区切ることによって、離職率の細かい結果を分析することができます。
具体例から考えてみましょう。
ケースA
上記厚生労働省の例と同じ場合を考えます。
A社は2017年1月1日時点で100名の社員が在籍しており、2017年には10人の社員が離職していた場合(2017年に採用した人数は除く)の離職率は10%となります。
10名÷100名×100(%)=離職率10%
ケースB
「新卒社員が3年以内に離職した割合」を考えてみましょう。100名の企業で、10名の新卒社員を採用。3年以内に新卒社員5名が退職した場合の離職率は50%になります。
5名÷10名=離職率50%
ケースC
「過去5年をさかのぼり、中途社員が1年以内に離職した割合」を考えてみましょう。100名の企業で、2009年から2014年まで毎年2名ずつ合計10名を採用。そのうち5名が1年以内に離職した場合の離職率は50%になります。
5名÷10名=離職率50%
定着率(Retention Rate)も同様に、一定期間は指定はありません。
離職率や定着率は、会社が任意の期間や条件(新卒採用のみ・中途採用のみなど)を決めてしまえば、良い数字を作り出せます。
例えば、年末年始などの休業期間中に会社を辞める人はほとんどいないため、離職率(12月29日~1月3日)は0%、定着率は100%となります。
離職率の定義には期間がないため、離職率0%と言っても法的には問題はありません。都合の良い期間を設定してしまえば、離職率0%に間違いはないからです。
極端な話、全従業員が終身雇用で新卒から定年まで働いたとしても、100年の期間で離職率を計算してしまえば離職率100%となってしまいます。期間の定め方によっては、離職率・定着率という数字に意味がなくなってしまいます。
厚生労働省の調査結果に従うのであれば、一定期間は「1年間」となります。「新卒は3年で3割辞める」と言われている調査結果では、一定期間は「3年間」となります。
他社の人事担当者などと交流する場合には、離職率の数字の大小だけでなく、期間や条件なども明確にして話すべきでしょう。
自社の離職率とどう向き合うか?
人事担当者として、離職率と向き合うためにはどうしたら良いのでしょうか?
1つ目の方法として、産業別の平均値や過去の自社の離職率と比較することで、自社が今どういう状況かを把握する方法があります。
厚生労働省の平成27年の産業別の離職率平均値(1年での計算)は以下の通りです。
出典元『厚生労働省』平成27年度の雇用動向調査結果の概要:産業別の入職と離職
宿泊業、飲食サービスの離職率が一番高く、次に高いのが生活関連サービス、娯楽業となっています。自社の離職率を業界平均の離職率と比べることで、自社の離職率が良いのか悪いのか、判断材料になるのではないでしょうか?
2つ目の方法として、トレンド分析を行う方法があります。組織の安定性を測るためにも実施すべきだと、ITMグループ(人事コンサルタント会社)の総裁Laubyは指摘しています。
「私が以前勤めていた企業では、毎年第2四半期に離職率が急激に跳ね上がっていた。調査後、それが年次ボーナスの支給と合致していることに気がついた。その企業は問題に取り組んで、離職者の急増を解消した」と例を挙げています。
過去の数字や会社内部にどういった傾向があるかを観察することで、改善分野を探していくべきです。「離職率下げることは、組織にとって本物の利益となる」とLaubyは付け加えています。
自社へ応用するには、まず自社の離職率を「半年」「1年」「3年」などの区切りで算出して、推移を確認してみましょう。離職を防ぐための施策が効果があったのかなどだけでなく、上層部の異動や経営方針の変更などがあったか、あわせて確認すると、何かしらのトレンドを発見できるかもしれません。
離職率は数字から施策に落とし込むことが大切
離職率は一定期間での離職者の割合を示す指標です。定着率は離職率の逆で、離職率が分かれば引き算で計算できます。
離職率・定着率を計算するために必要な一定期間については、厳密な定義はありません。厚生労働省では「1年間」となっています。「新卒は3年で3割が辞める」という言葉では「3年間」として計算されています。
厳密な定義がないのは、自社の数字をよりよく見せる意図があるわけではなく、会社の事情に応じて、離職率の推移を追いやすくすることにより、施策に落とし込みやすいからではないでしょうか?
離職率は1つの数字だけを見ても、良いか悪いかの判断はできません。産業平均や過去の自社の数字と比較することで、ようやく施策を検討できるものです。
早期離職の原因となるミスマッチについては「「こんなはずじゃなかった…」就職後に起こるミスマッチの原因と解決策とは」の記事にて、可視化しにくい社風や人間関係とのミスマッチを解消する方法については「カルチャーフィットの意味やメリットとは?どんな場面で有効なのか」の記事にて紹介しております。