大きな「ストレス」を抱える現代人
仕事の過剰なストレスは深刻な問題です。厚生労働省の調査によると、仕事で強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者割合は平成29年時点で58.3%となっています。平成24年から、過半数以上の労働者が強いストレスを感じています。
出典元『厚生労働省』平成29年労働安全衛生調査(実態調査)労働者調査
精神障害における労災請求件数、決定件数も増加しています。職業生活において、肉体的だけでなく精神的な健康を保つことが、政府としても企業としても求められています。
政府も、企業にメンタルヘルス対策を行う制度導入に動いています。2015年12月からは常時50人以上を抱える事業所の事業主に対して、ストレスチェックを行うことを義務化しました。ストレスチェックによって何かしらの問題が明らかになった労働者に対しては、然るべき処置が求められています。
常時50人未満の事業所のみの事業主に対しても、ストレスチェックの費用を負担する助成金や職場環境を改善するための費用を負担する職場環境改善計画助成金などを設けることによって、労働者のメンタルヘルス不調を防止する制度導入を促進しています。
労働者のメンタルヘルス対策が後手に回ることは、過労死や精神障害発症などのケースによる労災訴訟はもちろん、休職に至った場合、少なくないコスト(概算で1人あたり400万円)がかかることからも、過度なストレスを従業員に与える企業環境は、企業に大きな打撃を与えます。
参考URL『J-Net21 中小企業ビジネス支援サイト』メンタルヘルスガイドブック
今回はメンタルヘルス対策としても使える、ストレス対処法であるストレスコーピングについて説明します。
ストレスコーピングとは?
「ストレスコーピング(stress coping)」とは、プライベートや仕事など日常生活でストレスを感じた時に、ストレスと上手に向き合うための技術や能力を表すメンタルヘルス用語です。
ストレスコーピングは、米国の心理学者であるリチャード・S・ラザルス氏によって提唱されたストレス対処のスキルです。個人がストレスに直面したときの意識のあり方や受け止め方が、ストレスになるかどうかやストレスの度合いに影響するという考え方です。
私たちがストレスにさらされた時、上手に処理・対応できない時にはストレスが増幅され、心身に異常を発生させることがあります。自分自身で対処できないような大きなストレスの場合は、特に心拍数や血圧の異常を引き起こすと同時に、不安や恐怖などの心理的負荷を感じます。
これらのストレスを緩和するべく、人はさまざまな対応を試みます。ストレスに対処する行動を「ストレスコーピング」といいます。
ストレスコーピングには大きく分けて2種類あり、①ストレスを引き起こす刺激(ストレッサー)自体を除去する対処法②ストレッサーに対する反応を軽減する対処法があります。どちらも本人が主体的に行う前提で成り立つ方法です。
ストレッサーとストレス反応の関係(ストレスが発生するメカニズム)
ストレスコーピングを理解する前に、まずはストレスを受けるメカニズムについて説明します。ストレスが発生するメカニズムは、ストレスの原因となるストレッサー(ストレス要因)が個人が認知することで、心理や行動、身体に反応が現れます。
引き起こされるストレス反応は、心理面、身体面、行動面の3つに分類することができます。
心理面でのストレス反応には、活気の低下やイライラ、不安、抑うつなど。身体面でのストレス反応には、体の痛み頭痛、肩こり、腰痛、動悸や息切れ、食欲低下、不眠などさまざまな症状があります。また、行動面でのストレス反応には、飲酒量や喫煙量の増加、仕事でのミスや事故などが挙げられます。
ストレス反応が長く続くと、過剰なストレス状態に陥っているサインの一つでもあります。これらの症状に気づいたら、普段の生活を振り返り、ストレスと上手に付き合うための方法(コーピング)を工夫してみることをおすすめします。
出典元『ハートクリニックデイケア』ストレスにうまく対処するには・・・?
ストレスコーピングの方法について
ストレスコーピングは、大きく分けると「問題焦点型」「情動焦点型」「ストレス解消型」の3種類に分けることができます。今回は概要のみをお伝えします。
問題焦点型
問題焦点型は、ストレッサー自体に働きかけ、問題を解決しようという考え方です。
ストレスの原因となるストレッサー(ストレス要因)そのものを除外してしまう方法です。完全に除外できればよいのですが、現実的には排除が困難である問題もあります。仕事の進め方など、特に組織風土や企業文化などの影響がある場合には、個人での解決が難しいだけでなく、短期的な解決も難しいです。
情動焦点型
情動焦点型とは、ストレッサー自体ではなく、ストレッサーが与えられることで生じた感情をコントロールする考え方です。個人に生じた苦しい感情などを抑え、それらが生じた原因への注意を緩和することが目的です。
ストレッサー(ストレス要因)を排除できないのであれば、生じた感情を発散したり、考え方や物の見方を変えてしまう方法です。周囲に相談できる相手がいない場合もあれば、考え方を変えるのも容易ではありません。しかし、ストレス要因を排除できない場合には非常に有効です。
ストレス解消型
ストレス解消型とは、ストレッサーを感じた後に、大もとのストレスを体の外へ発散する対処法です。この方法は、日常的に私たちがストレス解消のために無意識に行っていることも多いといわれる方法です。
仕事が終わったら趣味に勤しむ、休日は友人と遊ぶ、長期休暇は旅行に行くなど、個人の趣味趣向によって内容は異なります。ストレッサー(ストレス要因)を忘れる、考えないことで、心身のリフレッシュを図る方法です。
ストレスコーピングを理解し、健全な職場環境醸成に役立てる
組織の社員がメンタルヘルス不調を起こさないためには、適切なストレスマネジメントが必要です。そのためにもストレスへの対処方法であるストレスコーピングを社員にも知ってもらい、個人・組織の両輪で実践するための仕組みを自社制度に組み込むことは重要です。
もちろん、ストレスコーピングの施策を実施することが目的ではありません。あくまでも「社員のメンタルヘルス対策」が第一義です。自社で何らかの施策を実施している場合でも、それが適正に運用されているのかを分析・フィードバックし、改善のサイクルを運用させていくことが必要です。