リーダーの行動を決めるものとは?
リーダーシップは古くから学術的関心を多くの学者から持たれてきました。そして1900年代以降は主にアメリカで広く研究され、多大なる発展を遂げてきたのです。
リーダーシップ論の初期の研究では「リーダーシップとは生まれながらに備わった性質である」という前提を持つ「特性理論」が主流でした。しかし1940年代になると、性質でなく「行動」に目を向けた行動理論が提唱されました。
1960年代になると、行動理論によって結論された「理想のリーダー」にも普遍性がないことが指摘されました。「どのような状況下でも唯一普遍で最適となるリーダーシップは存在しない」ということを論点として提唱されたのが「条件適合理論」です。
条件適合理論のうちで、特に上司と部下の関係や、仕事の難易度などを具体的に考慮した「パスゴール理論」を紹介します。
パスゴール理論とは?
パスゴール理論とは、1971年にR.ハウスによって提唱された条件適合理論のひとつです。条件適合理論では、リーダーの性質のみならず、リーダーを取り巻く条件や環境についても考慮した、「どのような態度を取るべきか」を検討するリーダーシップ理論です。
パスゴール理論は『リーダーはメンバーに対していかなる「パス」を出し、「ゴール」へと導くか』に注目したものです。目標と過程を論点としているため、「リーダーの取る行動に部下は影響を受ける」という前提が設定されています。
パスゴール理論の考え方
行動理論では「業務への関心度」と「人間への関心度」の2軸でリーダーシップのパターンを分析しましたが、「良いリーダー」とはこのふたつに優れた人材であることが結論づけられました。パスゴール理論をはじめとする条件適合理論でも、「業務への関心度」と「人間への関心度」は考慮されています。
しかし「業務」と「人間」というふたつの要素が絶対化されたものでなく、状況に応じて変化しうるものだという解釈がなされています。それゆえに、状況に応じてとるべきリーダーシップが変わりうるのです。
出典元『GLOBIS 知見録』パス・ゴール理論: 状況に合わせて、部下を動機づける行動をとるべし
上図は、パスゴール理論の概略図です。「リーダーの行動」から「結果」に向かう矢印はまさに「行動理論」であり、それを一般化する要素としてパスゴール理論では「環境的条件即応要因」と「部下の条件即応要因」が与えられています。
リーダーシップ・スタイルは、これらを踏まえて総合的に判断し、決定されるのです。
状況とリーダーシップ・スタイル
ハウスは「環境」と「部下」を考慮した上で、リーダーが取りうる態度を以下の4つに分類しました。
指示型リーダーシップ
業務指示を出しやすい状況下で有効なリーダーシップです。
メンバーに期待している働きを説明した上で、具体的な業務スケジュールの管理を行います。主に新人教育などの現場で発揮されるケースが多いです。
支援型リーダーシップ
メンバーとの信頼関係の構築が必要な場合に有効なリーダーシップです。
部下の考えを尊重し、部下の意向を支援する行動を起こし、メンバーへの感情面への配慮と組織維持につとめます。
参加型リーダーシップ
メンバーとの信頼関係がある程度構築され、彼らに業務への関心をより強く持ってもらいたいフェーズで有効なリーダーシップです。
決断を下す前にメンバーに相談し、提案を活用するといった行動を起こすことで同じ目線に立って達成意欲を引き出します。
達成志向型リーダーシップ
信頼関係があり、業務への意欲も高い部下に対して有効なリーダーシップです。
困難な目標を設定し、メンバーに全力を尽くすことを要求します。組織体制が固まって、これから大きな成果をあげようとするフェーズでは欠かせないものです。
フレキシブルに対応できることが大切
パスゴール理論は「部下がうまく目的(ゴール)を達成するために、どのような過程(パス)をたどるべきかを把握して有効な働きかけをする」という立場を取とり、モチベーション理論と結びつけられる考え方を持っています。
現在でも続くリーダーシップ研究として「リーダーシップの有効性は状況に応じて決まる」というのが研究者の共通の認識となっています。ある状況下で優秀なリーダーシップを発揮できる人材であっても、状況が変わればリーダーシップを発揮できない可能性があります。
採用や教育研修においても、どのような状況下であればリーダーシップを発揮できるのか、人材の強みと弱みを理解することが重要です。