ハーズバーグの二要因理論における動機付け要因とは?
ハーズバーグの二要因理論とは、仕事における「満足」と「不満足」につながる要因が、それぞれ全く別の原因であるとする理論です。
ハーズバーグの二要因理論では、人事労務管理に必要な要素を「動機付け要因(Motivator Factors)」と「衛生要因(Hygiene Factors)」の2種類に分けて考えるべきだとされています。
動機付け要因とは「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進・向上」といった、仕事の満足度に関わる要素です。動機付け要因は、促進要因とも呼ばれる「ないからといってすぐに不満が出るものではない」ものの「あればあるほど仕事に前向きになる」要素です。
衛生要因とは「給与」「福利厚生」「経営方針・管理体制」「同僚との人間関係」「監督(上司との関係など)」といった、仕事の不満に関わる要素です。衛生要因は、不満足要因とも呼ばれる「整備されていないと社員が不満を感じる」ものの「整備していても満足につながるわけでない」要素です。
給与や福利厚生といった「衛生要因」は「不満を解消する」だけで「満足する」ための要素ではなく、逆に達成や承認といった「動機付け要因」は「満足する」だけで「不満を解消する」ための要素ではない点に注意が必要です。
社員のモチベーションマネジメントを行う上では、動機付け要因と衛生要因のどちらか一方だけ満たせばよいというわけではなく、衛生要因における問題を解決した上で動機付け要因を満たす必要があるのです。
今回の記事では、ハーズバーグの二要因理論における動機付け要因について、詳しくご紹介します。
動機付け要因とは?動機付け要因を満たすメリットや構成する要素について
動機付け要因とは、簡単に言えばいわゆる「やりがい」と呼ばれる要素で、生産性に直接関わる要因です。
「やりがいのある仕事です!」という募集がブラック企業の決まり文句のような扱いをされているように、悪く言えば「やりがい搾取」に関わる要因ですが、動機付け要因が満たされていない職場では優秀な人材はやりがいを求めて離職してしまうケースが多くあります。
動機付け要因を満たすメリットとは?
動機付け要因を満たすメリットは、大きく分けて以下の3つに分類できます。
- 個々の生産性が上がる
- 働き手がやりがいを感じられる
- 離職率が下がる
ハーズバーグの二要因理論が提唱された19世紀当時は、産業化が急速に進み、個人の生産効率を最大限に発揮することが重要と考えられるようになっていました。動機付け要因は、仕事への態度を決める要因は何なのか、仕事への満足度やモチベーションを決める要因は何なのかを研究して発見された要素です。
ベイン・アンド・カンパニーとプレジデント社の共同調査によると「やる気に溢れる」社員の生産性は、単に「満足している」社員と比べて約2.3倍高いという結果が出ています。
出典元『PRESIDENT Online』”3人に1人”の不満社員を奮起させるには
動機付け要因が満たされた社員は、モチベーションの向上と同時に生産性も向上するため、企業にとって大きなメリットがあります。また、仕事にやりがいを感じている社員は生産性が高まるだけでなく、会社へのエンゲージメントも向上して離職率が低下するというメリットもあります。
動機付け要因を構成する5つの要素とは?
動機付け要因を構成する要素は、大きく分けて以下の5つに分類できます。
- 達成すること
- 承認されること
- 仕事そのものへの興味
- 責任と権限
- 昇進や成長
1.達成すること
動機付け要因のひとつである「達成すること」とは、仕事における達成感を意味します。
仕事における達成感は、具体的な数字目標を追う仕事ほど得やすいといわれています。「顧客を満足させる」といったような抽象的な目標では、何がどうなれば目標を達成したと言えるのかが曖昧なため、明確な達成感が得られません。
仕事における達成感を得るためには具体的な数字目標が効果的ですが、簡単すぎる目標では「できて当然」と感じてしまい、厳しすぎる目標では「無理矢理やらされた」と感じてしまいます。
動機付け要因としての達成感を社員に与えるためには、十分達成可能なロー目標と頑張らなければ達成できないハイ目標を設定して、努力に応じた達成感が得られるようにするとよいでしょう。
2.承認されること
動機付け要因のひとつである「承認されること」とは、同僚からの尊敬や組織からの称賛を意味します。
同僚からの尊敬や組織からの称賛は、仕事のモチベーションを保つ上で非常に重要な要素です。努力して大きな成果を出したのに誰からも褒められず、給料も変わらないような職場では、誰であってもモチベーションの維持は困難です。
動機付け要因として社員の承認欲求を満たすために会社側ができる施策としては、昇給や昇進、賞与などが挙げられます。
3.仕事そのものへの興味
動機付け要因のひとつである「仕事そのものへの興味」とは、社員が持つ仕事への強い興味を意味します。
仕事への興味は、仕事へのモチベーションの中でも、特に自主性の高さに直結する要素です。自身の興味が仕事に結びついていれば、人から強制されるまでもなく業務に前向きに取り組み、自主的に勉強したり日々の業務への満足度が保たれるようになります。
動機付け要因として社員の仕事への興味を強めるためには、業務内容が他の部署や会社全体にどのように影響するのかを実感できるように、企業としての理念や運営方針を共有するような場を設けるとよいでしょう。
4.責任と権限
動機付け要因のひとつである「責任と権限」とは、社員が上司から任される仕事の重要度や裁量権の大きさを意味します。
仕事の重要度や裁量権の大きさは、個人のスキルや自己肯定感のバランスによってはストレス要因にもなり得ますが、仕事のやりがいを感じる上で重要な要素です。
動機付け要因として社員に責任と権限を付与する場合は、大きすぎもせず小さすぎもしないように、対象の社員に見合った責任・権限を与えるようにしましょう。
5.昇進や成長
動機付け要因のひとつである「昇進や成長」とは、社員が感じる仕事を通じた成長を意味します。
仕事を通じた成長の実感は、仕事のやりがいを感じる上で重要な要素です。自身のキャリアを考える優秀な人材にとって、日々の業務が自身の成長につながっている実感は、仕事を続けていく上で何よりのモチベーションになります。
動機付け要因として仕事を通じた成長を実感させるためには、昇進や表彰制度、社内認定制度といった、周囲からのフィードバックを与える施策が効果的です。
動機付け要因を満たして社員のモチベーションを高めよう!
動機付け要因とは、達成感や承認欲求などといった、仕事への「やりがい」に直接関わる要因です。
動機付け要因は、労働生産性と深く関わっており、社員のモチベーションを高める上で非常に重要な要素です。ただし、動機付け要因を満たしていたとしても、前提となる衛生要因が満たされていなければ、社員は満足を感じる以前に不満を感じ、モチベーションの低下や離職につながる危険があります。
売り手市場によって人材確保が難化していく現代の日本では、社員のモチベーションを高める動機付け要因を満たす前に、不満の原因となる衛生要因を満たしておく必要があります。動機付け要因と衛生要因は、どちらか一方だけでは意味がありません。
社員のモチベーションを高めるためには、衛生要因を満たして定着率を向上させた上で、労働生産性を高めていく動機付け要因を満たす必要があるのです。