経営理念を作成し浸透させていくこと
経営理念の有無は、売上規模や経常利益額にも関係があると考えられます。宮田矢八郎著の「理念が独自性を生む」の調査によると、売上規模や経常利益額が高くなればなるほど、経営理念が存在する企業の割合も増加していきます。経営理念を掲げれば売上規模や経常利益額が高まるわけではないものの、売上規模や経常利益額が高い企業には経営理念が存在する個が分かります。
出典元『幻冬舎 GOLD ONLINE』企業の「経営理念」は業績にどのような影響を与えるか?
松下幸之助さんの言葉に「会社経営の成否の 50%は経営理念の浸透度で決まり、30%は社員のやる気を引き出す仕組み作りで決まる。戦略戦術は残りのわずか20%である。」というものがあります。日本航空名誉会長である稲盛和夫さんは「経営理念を守れないならば、会社を畳んだ方がまし。」という言葉を残しています。
経営理念を作成して掲げるだけでなく、広くアピールしながら従業員に浸透させることが大切です。従業員に浸透させるためには、経営理念を作成する段階で、具体的でわかりやすく、かつ経営者が本気で考えた経営理念にすることが大切です。
今回は、経営理念の作り方と注意点についてご説明したいと思います。
経営理念を構成する4つの要素とは
経営理念を構成する「Mission(使命)」「Vision(志)」「Value(価値観)」「Way(行動指針)」4つの要素それぞれについて説明します。
Mission(使命)
「使命」というのは「与えられた重要な務め、責任を持って果たさないといけない任務」という意味です。
人が熱意をもって働き続けるには、自分なりの働く意味が必要になります。「命をかけて全力で当たる」「一生かけてやり遂げる」という「覚悟」を感じさせる言葉が、このミッションといえます。
経営理念におけるMissionは「どんな目的のために」「どんな行動をするのか」ということを掲げます。
気持ちがブレず、そこから外れる行動はしないように強い信念を持てるようにするのがMissionです。
Vision(志)
「志」とは将来像です。ある時点までに「こうなっていたい」という未来への願望とも言えます。
意思を持って進まなければ目標には到達しません。「10年後にはこうなっていたい」「将来はこんな会社でありたい」という具体的な夢を語るのがVisionです。目指す姿、目指す方向性という言葉に言い換えることもできます。
Missionが実現したものがVisionです。
Value(価値観)
Valueは価値観、つまり判断基準のことです。
「Mission」という使命をもとに「Vision」という将来像を描き、そこに向かって行動するための判断基準・価値観が「バリュー」です。
Way(行動指針)
自社の使命や存在意義を体現していくにあたって、信念・価値観に基づき、どのような行動をとっていくかを具体的に表したものです。
信念・価値観のように内面的なものではなく、外面に現れる行動を表しているので社内外の人にとって目に見えやすく、実感しやすいものでしょう。
経営理念の作り方とは
安心して落ち着ける場、リラックスできる雰囲気、集中できる環境においてゆったりしてみましょう。そして、自分自身を振り返り、自らの理念を問いかけてみるといいでしょう。
自分自身を振り返りながら考える
経営理念は実体験から生まれることもあります。下記のようなことを振り返ってみましょう。
- 過去にどんな経験をしたか
- 喜びや感動を感じたのはどんなときか
- 自分の怒りや悲しみにもフォーカスしてみる
- どうしてこの事業をやっているのか
将来像(未来)を考える
自分の余命があと1年だったら、今までお世話になった人にどんな恩返しをしたいか、などということを考えてみると「自分が将来どんなことをしたいか」ということがわかります。
また下記の事項に関してもゆっくり考えてみるとよいでしょう。
- 社会にどう貢献したいか
- 従業員にどうなってもらいたいか
- どんなことでNO1になりたいか?
- 必ず実現したいことは何か
他社の経営理念からきっかけをつかむ
好きな経営理念や同業他社の経営理念を調べてみるのもよいでしょう。
オリジナルの経営理念を作りたいとは思いますが、すでにある経営理念を集めて参考にすることで「自分はこの会社を通じてどんな使命があるのか」「誰のために働くのか」ということが明確になってきます。
集めた経営理念を「Mission」「Value」「Way」「Vision」それぞれの視点から見てみましょう。
できるまで何度も作り直す
人の話を聞いたり雑誌を読んだりしていいと思った言葉はファイルしてみてください。集めれば集めるほど自分の価値観に気づくことができます。
何度も作り直しているうちに「自分だけの特別な使命や役割」に気づくことができるでしょう。
経営理念作成のポイントとは
経営理念を完成させるために大切なポイントがいくつかありますのでご紹介します。
土台は経営者が作成しても、細部は従業員から衆知を集める
経営理念は経営者の理念ですが、経営者だけのものではありません。一人相撲にならないためにも、細部に関しては従業員と一緒に作り上げるようにしましょう。
経営理念を一緒に作りあげる、というプロセスがとても重要です。
誰にでもわかりやすいものにする
経営理念を見ただけで「どういう理念か」というのがわかるようなものにしましょう。経営理念を見ても「何が言いたいのかわからない」「難しくて意味がわからない」などというものでは、従業員に浸透しづらく、意味をなしません。
かっこよさを追求するのではなくて、誰にでもわかりやすく共感されやすい言葉を選ぶようにします。
見直しと振り返りが大切
経営理念は一度作れば終わりということではありませんし、最初から最高の理念が作れるわけでもありません。
会社の成長度合いや従業員の状況、時代の変化などによってそのときの経営者の想いも変化してきます。頻繁に変えるのはよくありませんが、「今大事にしたい想い」を言葉にして経営理念にしていくことも大切です。
内在化する
経営者の想いや価値観を明文化するのが経営理念ですが、経営者だけではなく従業員に浸透させていかなくてはいけません。
一番大切なのは内在化です。いくら経営理念を従業員で唱和したり研修を行ったりしていても、従業員が「自分のこと」のように捉えていなければ、他人事で終わってしまいます。
定期的にアンケート調査を行ったり人事評価制度に組み込んだりすることで、従業員自らが興味をもち「自分のこと」として取り組んでくれやすくなります。
人の心を動かす経営理念にする
どれだけ素晴らしい経営理念でも、経営者が本気で「こんな会社にしたい」「こんな使命を持って働きたい」「こんな社会貢献をした」と思っていなければ、従業員にも社会にも伝わりません。
人の心を動かす経営理念にするためには、万人受けを狙ったり思ってもいないきれいごとを並べたりするのではなく、経営者が心から感じていること、心から想っていることを理念として明文化する必要があるでしょう。
利益を出すなどの経営理念にしない
会社を経営している以上、利益を出していくことは大切です。しかし「利益を出したい」「儲けたい」ということを経営理念にすることは良くありません。
会社の経営は「従業員を幸せにすること」「お客様を大切にすること」「社会貢献をすること」といったことを掲げるようにしましょう。
従業員の幸せを考えるからこそ、従業員のモチベーションが上がり結果として利益を出すことができ、お客様を大切にするからこそ売上があがるのです。従業員やお客様を幸せにしていくためには会社を存続させなければいけない、会社を存続させるためには利益を出し続けなければいけない、という風に考えるのです。
自社の経営理念づくりの参考に
経営理念の作り方には決まった手順が存在しているわけではありませんが、作る上で組み込まないといけない注意点がいくつかあります。
経営者が「この会社を通して社会にどのような価値を提供・貢献していくのか」ということを、自分の言葉でわかりやすく伝えることが重要であり、思ってもいないことを掲げても意味がありません。経営者が本気で「こんな会社にしたい」という強い思いを持っていなければ、それが従業員に伝わってしまい、結果として経営理念が浸透せずに失敗してしまいます。
その他、経営理念の作り方や注意点を参考にしていただくことで素敵な経営理念づくりに役立てていただければと思います。