適性検査の嘘をどう判断すべきか?人事担当者に知っておいてほしいこと

適性検査で回答をごまかすことは可能か?

採用選考の場面で、就活生の性格や価値観、態度などを適性検査や面接などで測ることは必要不可欠になっています。近年は、多くの企業が独自の性格診断を作成・利用しています。弊社もカルチャーフィットを実現するために適性検査を用いて、応募者の人柄を測るミツカリを開発・運営しています。

しかし誰しもが「適性検査で回答をごまかすことは可能なのではないか?」と思ったことがあるのではないでしょうか。

どうしても入社したい企業がある場合、「優秀な人間」に見せようとするために、理想の回答をすることがあるでしょう。もし入社したい企業の「求める人物像」が事前に分かっていれば、その人物像を演じた方が有利に働くはずです。

いろいろな性格診断が世の中に出回っており、適性検査や面接の対策本もたくさん存在します。人事に携わった人であれば、この「適性検査が本当に信頼できるものかどうかの不安感」に一度は悩まされた経験があると思います。

今回は、適性検査における嘘について、学術的な研究や理論を交えて考察していきます。大まかに次の3テーマに分けて考えていきます。

  1. 性格診断で嘘をつくことは難しいか?
  2. どれくらいの人が嘘をついているのか?
  3. 嘘をついたとしても、結果にどれほどの違いが表れるか?

1.適性検査で嘘をつくことは難しいか?

答えはおそらく「すごく簡単」でしょう。

なぜなら適性検査は基本的に全て自己申告なため、好きな回答をしようと思えばいくらでも可能だからです。しかし、その前に何をもって「性格」と定義するかについて考えて見ましょう。性格はほとんどの適性検査で測られる重要な要素です。

心理学者の中では、性格とは「他人の前で自分をどう見せるか」もしくは「自分の根本にある気質なようなもの」を定義とする流派に分かれます、それぞれが適性診断の嘘についてどのように捉えているか、それぞれ見て見ましょう。

1.性格とは「他人の前で自分をどう見せるか」

この流派の心理学者たちは、人間は社会の中で行動するのだから「自分自身がどう思うか」よりも「周りの人間がいる状況で実際どう行動するか・どう見られたいか」を表すのが性格である、と定義します。

この定義の場合、適性検査での嘘はごく自然であり、特に気にする必要はないと捉えます。

例えば、営業職を希望する候補者であれば「他人からよく見られたい」とする態度はむしろ重要であり、性格診断などで理想の人物を演じることは好ましいと裏付けるデータを提示している心理学者もいるくらいです。適性検査で嘘をつかない方が、むしろ不自然なのです。

しかし、このように性格を定義する学者は少数派です。

2.性格とは「自分の根底にある気質のようなもの」

一方で違った定義をもつ心理学者もいます。彼らによれば、性格とは「気質のようなもので、ものをどう感じたり、考えたり、行動するかを規定する内在している要素である」と定義されます。

この定義の場合、周りがどう思うかではなく、自分が自分のことをどう思うかがより正確な判断材料となってきます。

実はほとんどの心理学研究に使われるパーソナリティ理論は、このような前提が基本となっています。つまり心理学のパーソナリティ理論に基づくほとんどの適性検査は、この前提に基づいて設計されているので、嘘をつく可能性を完全に排除しています。

どちらの定義を採択するにせよ、嘘のつきやすさについては、どういうケースがあるのでしょうか?

明らかに何を聞いているのか分かる質問は嘘がつきやすい

アメリカの心理学者ホーガンなどによれば「明らかに何を聞いているかわかる質問」の方が、分かりにくい質問に比べて嘘をつく確率は高まるそうです。

例えば「あなたはシャイですか?」という質問と「穴に入りたいほど恥ずかしい時がたまにありますか?」という質問を比べてみると、同じ性格の1面を問うている質問でも、前者の方聞き方の方が嘘をつきやすいと言えます。

適性検査を作る時は、なるべく「性格のどの部分を測っているか」がバレない、かつ誰にでも理解出来る質問にして精度を上げていく方が、より嘘の少ない検査にできると言います。

それでもなお、少しでも見栄や嘘の可能性を除去したいのであれば、それを測る専用の尺度を用意しデータをとり、統計的にコントロールしたり、明らかな「赤旗」を発見するようにしたら良いです。例えば、「私は生涯嘘をついたことが一度もない」という質問に対して「はい」と答える人は、明らかに怪しいように、明らかな質問を混ぜるのも一つの手法です。

適性検査を実施する際に「私たちは嘘をついている人を見つけ出せますよ」と、ハッタリの「嘘発見器」を導入することにより、嘘をつく人が劇的に減ることを示した研究結果も報告されています。

他には、似たような質問をいくつか散りばめて置いて、その設問の回答の一貫性を測る方法なども使われることがあります。

このように性格をどう定義するかによって、嘘をつくことへの対処の仕方も変わってきますが、嘘をつくがものすごく簡単である一方で、いろいろな対処方法もあるようです。

弊社のミツカリでの文脈で考えてみると、マッチングをするための受検という前提があります。この場合、普遍的な「正解」となる回答がないため、わざわざ嘘をつくことのメリットは生まれにくいでしょう。

このように「なぜ今、私はこの適性検査を受けているのか?」「担当者は、何の為にこの適性検査を実施しているのか?」といった目的意識が明確になればなるほど、嘘をつく確率も減るはずです。

2.どれくらいの人が嘘をついているのか?

まず「一体どれくらいの人が嘘をついているのか?」への問いですが、現時点で明確な答えはありません。なぜなら、多くの適性検査が嘘をつく可能性を前提としていないので、確かめようがないからです。

では、それよりも「嘘をついていると仮定した場合、結果にどれくらいの違いが出るか?」の方に焦点を当てることで、よりはっきりとした答えを導くことができるのではないでしょうか。

3.嘘をついたとしても、結果にどれほどの違いが表れるか?

就活生とボランティアで参加してもらった学生に、同じビッグファイブの適性検査を答えてもらい、それらの回答を比較した少し古い研究があります。

その研究によると、ボランティアの学生からの回答パターンは5因子(ビッグファイブ)にまとめられたのに対し、就活生からの回答パターンは少し異なっていて、どうやら6因子にまとめられた。もうひとつの因子は「誠実性」を誇張したようなものでした。

どういうことかというと、何の文脈もない状態で適性検査を回答してもらった学生に比べ、採用というインセンティブのある就活生の方には少しだけ「自分を少し誠実に見せたい」心理がより大きく作用していたことを意味しています。

どれくらいの人がこのように回答する傾向があるのかは今の時点でははっきりしませんが、自分の進路がかかった場面においてこういう傾向が出てくるのは、ごく自然なことでしょう。

就活生のような回答パターンを統計的に統制するために使われるのが「社会的望ましさ(social desirability)」という心理的概念です。この心理についての理解を深めれば、「嘘をついたとしても、結果にどれくらいの違いが出るか?」について少し答えが見出せそうです。

社会的望ましさ(social desirability)という概念

この社会的望ましさとビッグファイブとの相関関係を分析した論文があり、それによると神経症傾向と一番強い正の相関関係がありました。つまり、緊張しやすかったり、不安を感じやすい人ほど、社会的に望ましくありたいという心理が働きます。

そしてさらに興味深いのが、社会的望ましさは実際の仕事とのパフォーマンスと全く相関関係がなかったことです。

つまり、嘘をつこうとする心理である社会的望ましさは、その人の回答を完全に歪めてしまうほどの致命的な役割は果たしていないということになります。

嘘をつくことも性格診断の1要素として判断する

これら一連の研究が示していることは、就職活動などの場面で自分を良く見せようとする傾向自体は、個人の性格の一部を表している可能性が高く、それ自体が実際の適性検査の回答を歪めてしまうことはない、ということです。

さらに、社会的望ましさが実際のパフォーマンスを予測することはないので、明らかに自分を良く見せようとしている人から、高い能力を推測するには注意は必要です。

だからと言って、この社会的望ましさの概念を無視することは、もったいないかもしれません。なぜなら、嘘をついたことを許した場合でも、適性検査の回答にはあまり影響はないからです。

この社会的望ましさを性格の一部として捉え、積極的に(特に営業志望の応募者を見極めたい場合など)活用していく方が賢明なのかもしれません。

たかが適性検査、されど適性検査なので、うそをつくことはあまりにも簡単です。その容易さで適性検査に対して不信感を抱く人もいるかもしれないです。しかし、受検者に適切な文脈を与え、さらに実施者が嘘の可能性、役割、影響について明確に理解しておくことで、より一層深い人物像を測ることができます。

参考文献:

Hogan, R., Hogan, J., & Roberts, B. W. (1996). Personality measurement and employment decisions: Questions and answers.American psychologist,51(5),469.

De Fruyt, F., Aluja, A., García, L. F., Rolland, J. P., & Jung, S. C. (2006). Positive presentation management and intelligence and the personality differentiation by intelligence hypothesis in job applicants. International Journal of Selection and Assessment, 14(2), 101-112.

Schmit, M. J., & Ryan, A. M. (1993). The Big Five in personnel selection: Factor structure in applicant and nonapplicant populations. Journal of Applied Psychology78(6), 966.

Ones, D. S., Viswesvaran, C., & Reiss, A. D. (1996). Role of social desirability in personality testing for personnel selection: The red herring.Journal of Applied Psychology81(6), 660.

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