「コンピテンシーモデル」の活用で組織変革は起きる
ビジネスの現場で数年以上前から耳にする機会の増えた「コンピテンシー」。コンピテンシーを人事の採用や評価に活用するためには、コンピテンシーモデルが必要であり、汎用的なモデルではなく、自社独自のコンピテンシーモデルを設計する必要があると説明致しました。
作ったことのないコンピテンシーモデルをいきなり作るのは非常に労力のかかる作業です。そんな人事担当者の方に向けて、コンピテンシーモデルの成功事例を紹介いたします。成功した企業は、どのような点に着目してモデル設計を行い、効果をあげたのか、成功要因を参考にして頂けたら幸いです。
日本企業のコンピテンシー導入事例について
日本企業は、1990年代から「人事評価」を目的として「コンピテンシー」を取り入れた施策を実施していることが、下記資料から読み取れます。
出典元『日本におけるコンピテンシー -モデリングと運用-』井村 直恵
導入している企業でのコンピテンシーに対する捉え方はさまざまですが、それぞれの目的にあわせた設計を各企業が展開しています。
これ以外にも「コンピテンシー」を組織作りに活用し成功した事例について、ご紹介します。
【事例1】富士ゼロックス
管理職以上の社員を対象に人事制度を改革した事例
富士ゼロックスでは、1999 年に管理職以上の社員を対象に人事制度を改革しました。職能等級制度を廃止、業務の役割などを基準とする仕組みに変更することを目的としています。
改革にあたっては、経営戦略や事業戦略に基づいてそれぞれの役割(使命・責任・権限など)を設定し、この役割に付くための条件の基準を、コンピテンシーを用いて明確にし、全社員に公開して透明性を測りました。役割につくための条件を明確にすることで「適材適所」に人材を配置するとともに、社員にとっては希望するキャリアを実現する上で必須の能力や知識がわかり、能力開発の目標を立てることができるようになりました。
この活動によって、中・長期的な社内の人材育成計画においても、社員自らのキャリアプラン構築になったというメリットもありました。
【事例2】自動車販売会社A社
業績向上のためのコンピテンシーモデル
なかなか売上が伸びないことが問題だったA社の事例です。
この時の市場では、「訪問販売主体」から「店頭販売主体」にその手法が移行しつつありましたが、A社では店頭販売の売上が伸びていないことが悩みでした、このため、店頭販売を担うショールームのスタッフに、コンピテンシーの作成を実施しました。
コンピテンシーの作成とQC活動(カスタマーへのアンケートなど)により、店舗のトイレやテーブルが清掃されるなどオフィスに変化が生まれ、徐々に具体的な行動として変わっていきました。さらに、ショールームへのキッズスペースの設置や、ビデオや絵本のライブラリーなどを設けたところ、「子どもがショールームに行きたいと言って」という顧客が増加するなどさらなる変化が生まれました。
社員の具体的な行動が変わることで営業成績も徐々に向上していきました。さらに、そうした好循環が他部署のサービス部門、営業、店長にまで及び、それぞれの職種でコンピテンシーを作成するという波及効果をもたらしています。
なお最初のコンピテンシー作成から、店長のコンピテンシー作成完了までが約1年程度です。その後、継続的にコンピテンシーを更新しながら、業績向上につなげています。
【事例3】玩具メーカーB社
人事評価に寄与した事例
玩具メーカーのB社は、過去の人事制度の影響で、社員のモチベーションと業績の向上が図ることが難しいという課題を抱えていました。
そこで「行動(コンピテンシー)」と「業績(結果・成績)」の2つの評価制度を導入しました。組織的な活動レベルが高い人材は『昇給』『昇格』で、業績を残す人材は『賞与』で評価する、という基準を考え方のベースとしました。
B社では、3種類のコンピテンシーを構築しています。1つ目は経営者が作成した『共通のコンピテンシー』。2つ目は、営業職や企画などの現場の社員が、職種別に作成した『専門のコンピテンシー』。3つ目は、役職ごとの『リーダーシップのコンピテンシー』を作成しました。
3種類のコンピテンシーをそれぞれ小冊子化し、評価につながる行動を明確化したこと、また「自分たちが作ったコンピテンシーだからしっかり行動したい」という意識の変化がモチベーション向上につながり、結果として業績が向上しました。小冊子は、部下に対するマネジメント用(行動改善)のツールとしても活用できるという、二次的な効果ももたらしました。
行動評価には、『顕在能力を評価する』『評価のポイントを絞る』『仕事のできる人の行動に着目する』という原則があります。たとえば『責任感』という定義が広範であいまいな内容を、コンピテンシーで活用することで、具体的かつ詳細な行動に着目することができるようになっています。また、行動と業績の2軸評価を導入し、コンピテンシーだけに頼らない評価制度であった点も、成功要因の一つだと分析しています。
【事例4】金融サービス系企業C社
コンピテンシーを基軸にした人材開発・任用制度を導入した事例
1992 年に大規模な人事改革を実施したC社。「バランス・スコアカード」や「社内満足度調査・360 度評価」、「コンピテンシー」、「業績連動型賃金」など、さまざまな人事制度の導入を試行しています。
C社の「コンピテンシー」のプランは、その改善度とゴールの達成度とで50%の重みづけがなされ、業績評価に用いられました。C社では、絶対評価と相対評価を組み合わせて評価を実施しています。
そもそもC 社がコンピテンシーを導入した目的は、企業理念の浸透にあり、市場賃金連動型の業績評価システムを導入する事ではありませんでした。自社のコンピテンシーモデルを「リーダーシップ・コンピテンシー」と呼び、 以下の8つの領域に分類しています。
- 勝つ戦略の開発
- 結果追求
- 顧客やクライアン トへの焦点化
- イノベーションと変化の追及
- 関係の構築と展開
- 効率的なコミュニケーション
- 多様な才能の構築
- 個人の資質としての優秀さを示す
勝つ戦略の開発というコンピテンシーは「広い視野を持って、戦略を計画や目標に明確に結びつける」「競合他社の事業活動や市場動向に関する深い知識を示す」「重要なビジネス・ドライバーを理解する」などのコンピテンシー・ディクショナリーで構成されています。評価の際には、これらすべての項目について、その能力が示されたか、どの程度示されたかという側面で評価します。
これらのコンピテンシーモデルをもとに、社員と上司との査定の際に証拠として示せるように、自分の行動の成果について常に第三者からのフィードバックを得る習慣が社員全員に共有されるようになりました。と同時に、年に2 回の 360 度評価も実施。こういった結果もデータベース化され、本人にフィードバックされました。
なお、点数の低かった能力・スキルについては、上司と相談しながら改善を試みることが求められます。
「コンピテンシーモデル」を企業活動に有効に活用していくために
コンピテンシーを組織作りに導入するには大変な労力と手間がかかります。それでも、コンピテンシーが社員の育成や評価など人材面にもたらすメリットは計り知れません。
人材の育成・成長は「高いレベルの人をまねる・学ぶ」ことから始まります。自社独自のコンピテンシーモデルの構築・運営から、結果が出るまではある程度の時間は見ておく必要がありますが、他社のモデル事例も参考にしながら、自社に適したコンピテンシーモデルを、企業活動に取り入れてみてはいかがでしょうか?