「変わらなければならない」ときのリーダーシップ
リーダーシップは古くから学問的な関心を集めていて、20世紀初頭にアメリカを中心にその理論化・体系化が進められてきました。
古典理論である特性理論では「リーダーシップとは生まれ持って備わった性質である」という考え方が前提となっていましたが、時代を経るごとにリーダーの行動や環境が注目されるようになり、「状況に応じた具体的なリーダーシップのとり方」の研究が現在の主流となりました。これをコンセプト理論と言います。
コンセプト理論のひとつが、今回紹介する「変革型リーダーシップ」です。
従来のリーダーシップ理論では「フォロワーに何らかの報酬を与えることで影響を及ぼす」ものであるのに対して、変革型リーダーシップは「不確実な環境で組織を導くためにどのような行動をとるべきか」に着目したものです。
変革型リーダーシップは主に組織が経営危機などに瀕して「変わらなければならない」ときに発揮されます。
変革型リーダーシップとは?
変革型リーダーシップは1980年代に登場しました。不確実な環境下でフォロワーの自発的な行動を促すためのリーダーシップであり、「組織の変革を実現するためのビジョンを持つものがリーダーである」という考えを軸に成り立っています。
代表的なものとして、コッターによる「リーダーシップ論」やティシーによる「現状変革型リーダー論」などがあります。
リーダーシップとマネジメントの違い
コッターのリーダーシップ論には、リーダーシップとマネジメントを明確に区分するという特徴があります。彼は、特に変革を要する状況下でのリーダーシップの特徴は以下の3つだと主張しています。
- 方向を定めること
- フォロワーを目標に向けて整列させること
- フォロワーのモチベーションをあげること
リーダーシップとはあくまでもフォロワーの行動を促すものである、というのがコッターの考え方です。
マネジメントは計画立案・組織化と配置・コントロールなどの環境の設置という解釈がされ、コンセプチュアル理論と同様に「人」と「環境」を区別して、その関係性を検討しています。
変革型リーダーシップにおける「ビジョン」
変革において、リーダーには「ビジョン」が大切です。しかし「ビジョン」とは具体的にどういう性質を持つものなのでしょうか?
コッターやティシーが提唱する変革型リーダーシップにおいて共通しているのは、「フォロワーに行動を働きかけるビジョンを提示する」というかたちでのリーダーシップの発揮です。
ビジョンとは「具体的なゴール地点」を示します。組織が危機的状況に瀕したとして、その危機が抜けたといえる状態はどういうものなのか──フォロワーが向かうべき到達点を明確に提示することが、変革型リーダーシップを発揮するために、最初のステップとして必要です。
変革型リーダーシップのメリット・デメリット
変革型リーダーシップは「組織が長期的に勝ち続けるために必要なものである」とティシーの現状変革型リーダー論で述べられています。メリットとして「早い段階で小さな成功をもたらす」ことができたり、その積み重ねにより大きなブレイクスルーを実現できることが挙げられます。
しかし、リーダーシップを常に発揮できるように次世代リーダーの教育が重要だとティシーは言及しています。継続的に組織として変革を起こせるよう、リーダー人材の育成を行うことはコストや時間がかかるという問題があり、ある程度の企業体力が重要になります。
変革型リーダーシップの事例
変革型リーダーシップが発揮された有名な事例として、「1999年以降の日産自動車の変革」「2000年以降のパナソニックの変革」が知られています。
この2つはともに経営危機にあった企業の「V字回復」に当たるケースで、上述したように「リーダーシップ」と「マネジメント」を分離した考えのもと、社員の積極的な行動を引き起こすことに成功しました。
『リーダーシップとは「変革能力」であり、「管理能力」はマネジメントである』、これが変革型リーダーシップで押さえておくべき重要なポイントです。
リーダーシップとマネジメントを混同しない!
変革型リーダーシップはビジョンを構築することでフォロワーの危機感を醸成し自主的な価値観・行動の変化を促すリーダーシップです。経営危機など、従来のやり方ではうまくいかない場合などに求められ、組織風土の変革を重視しています。
なかでも特に大切なのが、組織運営における「リーダーシップ」と「マネジメント」を明確に線引きすることです。
『リーダーシップとは「変革能力」であり、「管理能力」はマネジメントである』
コッターによる主張が、変革型リーダーシップで押さえておくべき重要なポイントです。