ケイパビリティの一つ「ITケイパビリティ」とは?
「ケイパビリティ」とは、能力や才能という意味で、経営学においては企業が持つ、あるいは得意とする組織的な能力を指す言葉です。従業員規模や資本金などの資産ではなく、どのような価値を生み出せるのかの能力であり、グローバル化し変動する市場で勝ち抜くための他社との差別化の観点から、注目されています。
ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化する現代では、価格や自社特有の技術といった競争戦略のだけで、他社より優位に立つことは難しくなりつつあります。
事業環境において、厳しい競争に勝ち抜く大きな原動力となるのが「ケイパビリティ」を重視した組織づくりです。人材の効果的な配置や、部署の連携などを強化した組織づくりを行うことで、品質保証などの企業の成長の原動力になることが、ケイパビリティを活用する大きなメリットです。
「ケイパビリティ」ですが、ITを活用できる能力としての「ITケイパビリティ」が注目されています。ITの利活用は企業組織における課題の一つであり、労働生産性を向上させることにも、ITケイパビリティの考え方を理解することは重要です。
労働生産性の観点だと、日本の労働生産性はOECD加盟諸国35カ国中20位となっています。主要先進国7カ国中でも、最下位が長らく続いています。
出典元『公共財団法人 日本生産性本部』労働生産性の国際比較 2017 年版
日本国内における労働生産性の推移を見ると、2016年時点で過去最高水準にあるものの、1995年以降横ばいで推移しています。理由として、バブル崩壊による経済の停滞なども考えられますが、Windows95などのパソコンが普及し、業務内容そのものに変化があったことも考えられるでしょう。
出典元『公共財団法人 日本生産性本部』日本の労働生産性の推移
世界市場において、日本の存在感が大きい製造業の労働生産性も順位は低下傾向にあります。日本の労働生産性が横ばい、若干上昇しているのに対して、諸外国は日本を上回る労働生産性の向上が行われています。
出典元『公共財団法人 日本生産性本部』労働生産性の国際比較 2017 年版
企業の時価総額にも大きな変化が現れています。時価総額の世界ランキングでは、AppleやAmazon、Microsoftといったアメリカの企業が上位を連ねています。ご存知の通り、ITを駆使した企業であり、ITの利活用能力は欠かせないものと考えて差し支えないでしょう。
参考URL『think 180 around』世界時価総額ランキング
今回は「ITケイパビリティ」の概要についてご紹介します。
ITケイパビリティについて考える
「ITケイパビリティ」とは、ITを使いこなす組織的能力のことです。IT戦略・計画に則り、必要なIT資源を見定め調達し、限られた資源を効果的に活用する能力、あるいは人間系を含めてITシステムを確実に運用管理するオペレーション能力を指します。
ITケイパビリティは「IT資源の探索・獲得・成長」「リンクの有効性強化」の2つに分類・分解できると言われています。
出典元『早稲田大学リポジトリ』セブン&アイグループにおける ITメタケイパビリティの発展と展開
- IT資源の探索・獲得・成長
どのようなIT資源があるのか、インフラを整えたり情報資産を増やすケイパビリティ - リンクの有効性強化
IT資源を業務内容に活用するために、システムなどに落とし込むケイパビリティ
少し前の資料になりますが、2011年7月に経済産業省から発表された「産業構造審議会 情報経済分科会 中間取りまとめ(案)」では、日本の競争力の維持・強化に向けて「スマート社会における『融合新産業』の創出」という基本方針が打ち出されました。
『融合新産業』の創出の実現に向け、5つの横断的課題が提示されています。2つ目の課題として、「IT融合を生み出す人材の不足」が課題であると挙げられており、「IT融合を生み出す次世代高度IT人材像の具現化と育成」がアクションプランとして示されています。
ITケイパビリティの5分類について
具体的なITケイパビリティとして「IT活用ビジョン構築能力」「IT活用コミュニケーション能力」「プロセスデザイン能力」「IT投資最適化能力」「チェンジリーダー開発能力」の5つに分類されます。
経済産業省の資料において「新事業・サービスの創出プロセスと各プロセスに含まれるタスク」もご紹介します。事業を計画し推進する際に、ITケイパビリティがどの部分・仕事で有効となるかについてまとめたものです。
IT活用ビジョン構築能力
特に経営トップに求められる能力で、経営トップが主導して「IT活用ビジョン」を社内に明確化することです。
ITを業務内容やビジネスモデルにどう組み込んでいくのか、積極的な導入を行うのか、ITを組み込むことでどうしたいのかのビジョンについて明確にする能力です。
ITの利活用を行うためには、経営層の理解だけでなく、積極的な推進が必要であることを示している能力とも言えます。
IT活用コミュニケーション能力
IT部門と経営層のコミュニケーションを円滑にする能力です。
IT部門が得たデータやノウハウなどを、どのようにして経営戦略に組み込んでいくのかを理解するために必要な能力です。経営層は、IT部門が得たデータやノウハウについての理解が必要であり、IT部門は、経営層に向けてどのような有意義なデータやノウハウが得られたのかを説明する能力とも言えます。
プロセスデザイン能力
IT部門が主導的な立場で業務プロセスを「目に見える形」にする能力です。
業務プロセスにおいて、ITがどのように活用されているのか、その結果業務プロセスがどう変わるのかをわかりやすくする能力です。どのようなデータが入力されて、どのようなデータが出力されるのか、どのような処理がされるのかといった仕様部分を明確にする能力とも言えます。
IT投資最適化能力
情報化の効果を金額換算(NPV)して、他の投資案件と同等に評価・検証する能力。
業務プロセスを効率化した際に、どれだけの開発費用が発生したがどれだけの業務が改善されたのか、費用対効果を算出します。逆にどのような投資をすれば、どのような効果が得られたのかを評価・検証し、最適なIT利活用を検証できる能力とも言えます。
チェンジリーダー開発能力
業務とITの両方に精通した人材を育成するための取り組みです。
ITの利活用がされていない既存業務とITの利活用を行う業務の連携をスムーズに行うために欠かせない人材を育成します。既存業務で漏れはないか、問題なく運用が行えるか、現場従業員に適切な指示ができるかといった視点で考える必要があります。
ITケイパビリティの重要性を理解しよう!
企業活動においてITの活用は必須であり、既存の業務効率化を行うものも非常に多く存在しますが、自社の課題に合ったものを選ぶ、うまく活用するなどのITケイパビリティも非常に重要になっています。
ITケイパビリティを高めるために、データサイエンティストやグロースハッカーなどの新しい職種が日本でも普及し始めています。単純にデータを取るだけでなく、どのようなデータを取得するのか、それらをどのように活用するのかを企業戦略として落とし込むことの重要性が浸透し始めています。
自社のIT活用度合いが今後の事業成長とも大きく関わってくることを、今一度しっかりと認識しておくことが重要なのです。