何故コミュニケーション能力が求められるのか?
20代前半の若手人材や、業界・業種未経験の求人では「コミュニケーション能力」が重視される傾向にあります。
経団連の調査をみると、特に新卒採用の現場では2000年以降ずっとコミュニケーション能力は他の項目を大きく離して圧倒的に重視されていることがわかります。
出典元『一般社団法人 日本経済団体連合会』2018 年度 新卒採用に関するアンケート調査結果
しかしなぜ「コミュニケーション能力」がこれほどに採用の現場で求められているのでしょうか?
新卒採用では、そもそもキャリアや経験・スキルといった要素はそこまで重視されていない傾向にあります。入社後の中長期的な教育でそういったものを身につけてもらうことを前提とした企業が多く、それゆえに「伸びしろ」を重視した選考基準を設ける傾向が見られます。
コミュニケーション能力は数あるスキルのなかでも「業務とは直結しないけれど、どの業種にも必要」という特徴を持っているため、特に重視されているのです。問題は「何をコミュニケーションと呼ぶか」というところにあります。
採用面接では「私の長所はコミュニケーション能力の高さです」とアピールする方が多くいます。詳しく聞いてみると、どうやらプライベートでの人間関係の豊かさだったということは少なくありません。大切なのは、プライベートとビジネスでは想定している「コミュニケーション」が違うということです。
「コミュニケーションスキル」という概念は抽象度が高く、ビジネスで役立つ形で習得するには具体的に理解することが大切です。そのためにもコミュニケーションスキルを細分化し、具体的なスキルに落とし込んで考えることが重要になります。
今回は、コミュニケーションスキルのなかでも基礎にあたる「傾聴」について説明します。
コミュニケーションスキルとはなにか?
コミュニケーションスキルとは、対人関係を健全に保つための能力です。プライベートでもビジネスでも「対人関係で不必要な対立を回避する」という必要性がさまざまなシチュエーションで必要になり、人と人のやりとりの摩擦を軽減することがまず前提としてあります。
ただやりとりをするだけでなく、意思疎通を行うことにコミュニケーションの真価があります。コミュニケーションスキルとは、「他人との十分な意思疎通を行う技術」と考えることもできるのです。
コミュニケーションスキルは具体的にはいくつかのものに細分化することができます。代表的なものとして挙げられるのは以下の3つです。
- 傾聴
- アサーション
- コーチング
最も基礎的なスキルになるのが「傾聴」です。
プライベートとビジネスでの「コミュニケーション」の違い
若い人ほど、採用面接では「コミュニケーションスキル」をしっかりと見られる傾向があります。冒頭でも述べられましたが、若手人材の採用では経験や専門性以上に、伸びしろや性格などの要素が重視されるためです。
ビジネスのコミュニケーションは「他者と仲良くする」ことを目的としたプライベートのコミュニケーションとは異なるものです。コミュニケーションスキルとは「他人との十分な意思疎通を行う技術」と説明しましたが、ビジネスにおいてはどのようなものが求められるのでしょうか?
近年ではIT技術の進歩により、他人と意思疎通を図らなければならない状況が「他人と対面している」という状況のみではなくなりました。電話はもちろん、メールやSNS、チャットなど、コミュニケーションを取らなけらばならない状況はたくさんあります。
会社の内部でも外部でも、コミュニケーションが必要となるビジネスシーンは多くあります。「ストレスなく業務を円滑に行う」ことや、「こちらの意見を受け入れてもらう」ためには、高いコミュニケーション能力が必要です。
ビジネスのコミュニケーションスキルとは、他者を理解し、業務に生じる摩擦を低減させるスキルでもあります。
ビジネススキルとしての「傾聴」とは?
傾聴とは、字のごとく「耳を傾けて聴く」ということです。
「聴く」は「聞く」よりもさらに注意深く捉えようとする意味が込められているのです。「聴」という漢字は「十四の心」に「耳」をすませて成り立つ漢字ですので、このことを思い出すとどういう行為かを理解しやすいのではないでしょうか?
「聴く」ことによりもたらされるのは「相手の意見の理解」だけではありません。相手の意見だけでなく、相手の性格や思考をも理解でき、それがあなたへの信頼にも繋がります。
ビジネスシーンでは、クレーム対応など相手の言い分をしっかりと受け止めることが大切な場面で重要になるスキルです。ただ理解するだけでなく、相手に対しての真摯さを伝える意味でも「傾聴」は大切なスキルです。
傾聴スタイルの代表「ロジャーズの3原則」
「傾聴」という概念を提唱したのは、アメリカの心理学者カール・ロジャーズです。ロジャーズはカウンセリング理論の大家としても知られていて、彼のカウンセリングは「積極的傾聴」というスタイルで知られています。
ロジャーズが主張した「話を聴く側に必要な3つの要素」は「ロジャーズの3原則」と呼ばれています。
ロジャーズの3原則
- 自己一致(congruence)
- 共感的理解(empathic understanding)
- 無条件の肯定的配慮(unconditional positive regard)
どれくらい傾聴できているかを知る手がかり
「相手の話を聴く」のは大切ですが、「実際にどれくらい聴けているか?」ということを把握するのも、コミュニケーションスキルでは重要です。
「聴けている程度」については、以下のように3つの段階で分類されています。傾聴スキルの評価基準として有効な指標になります。
レベル1:内的傾聴
相手の話を聴きながらも、意識は自分の方向へ向かっている状態。
レベル2:集中的傾聴
相手の話にしっかりと意識を向けられている状態。
レベル3:全方位傾聴
相手の話にしっかりと意識を向けられているだけでなく、周囲や場の雰囲気までも的確に読み取れている状態。
傾聴スキルを採用面接でどうアピールするか?
傾聴スキルはコミュニケーションスキルの1つですので、採用面接でも有効なアピールポイントになります。しかし、抽象性の高いスキルですので、アピールには工夫が必要です。
テクニックの1つとして、「エピソードのなかにさりげなく混ぜ込む」ことが挙げられます。
傾聴は、チームでプロジェクトを行う際に不可欠な能力ですので、チーム内で自分がどのようなポジションとして参加し、どのような貢献を果たしたかを端的に説明しましょう。こうしたエピソードは「課題の発見→解決」という流れで話すと効果的ですが、傾聴は特に課題発見で発揮されるケースが多いスキルです。
チーム内でどのような意見が出たのか、それらをまとめるにはどんな難しさがあったのか、ということを的確に整理することで、エピソードを話す人自身の傾聴力を示すことができます。
コミュニケーションスキルを棚卸しして自己分析を
採用選考などでコミュニケーションスキルをアピールすることは有効です。プライベートとは違う「ビジネスで求められるコミュニケーションスキル」を理解することが必要です。
抽象性の高い「コミュニケーションスキル」を細分化し、具体的にどのようなスキルに長けているのか・欠けているのかの自己分析を深めることが大切です。
長所・短所を具体的なスキルに落とし込むことで、エピソードやアピールしたいポイントも明確になり、より自分自身のことを理解できるだけでなく、相手にも理解してもらいやすくなります。