ダイバーシティマネジメントは多様性の本場アメリカで生まれた
ダイバーシティとは、直訳で「多様性」と訳される英語で、様々な違いを受け入れるという意味で用いられます。ビジネスにおけるダイバーシティという言葉は、国籍や性別などの違いを問わず、多様な人材を受け入れる企業の体制や取り組みを意味します。
ダイバーシティマネジメントとは、ダイバーシティを実現するだけでなく、マネジメント目線でどのように取り組むか・活用するかを考えて組織経営を行うことを言います。多様性を受け入れるための施策一つひとつを指すのではなく、組織全体として変革を行うことがダイバーシティマネジメントにおける視点です。
ダイバーシティマネジメントの概念は、1960年代にアメリカで誕生し、1990年頃から急速に広まりました。
当時のアメリカでは女性差別や人種差別が横行しており、女性や有色人種に対して白人男性と同等の雇用機会や昇進機会が提供されることはなく、常に労働市場の底辺部に追いやられていました。差別を解決するために、コンプライアンスの強化や多様性を尊重する精神を職場に植えつけようとしましたが、最初はなかなか広がっていきませんでした。
今回の記事では、ダイバーシティマネジメントについて、アメリカにおける歴史や企業事例をご紹介します。
ダイバーシティマネジメントのアメリカにおける歴史とは?
ダイバーシティマネジメントの概念は、1960年代にアメリカで誕生し、1990年頃から急速に広まりました。アメリカにおけるダイバーシティマネジメントの歴史を、年代ごとにご紹介します。
1960年代のアメリカにおけるダイバーシティマネジメント
1960年代のアメリカは白人男性が優位な社会で、女性や人種的マイノリティ(黒人やヒスパニック、アジア系人種など)は雇用機会や昇進機会を制限され、差別の対象となっていました。
1964年になると、社会的な差別の是正のために、年齢・性別・人種などによる一切の差別を禁止する「新公民権法」が施行されました。この新公民権法が、ダイバーシティマネジメントの始まりと言われています。
新公民権法によって、法律上は人種や性別といった要因で企業が差別的扱いを行うことは禁止となりましたが、実際は差別や理不尽な対応は継続されていました。
1970年代のアメリカにおけるダイバーシティマネジメント
1970年代のアメリカでは、黒人社員や女性社員たちが差別を受けたことを理由に訴訟を起こし、企業側が全面敗訴する出来事が起きました。
訴訟により企業が多額の賠償金を負担する事態が起こったことで、各企業は慌ててダイバーシティマネジメントに取り組むようになりました。ダイバーシティマネジメントの推進は始まりましたが、当時のダイバーシティマネジメントは多様性を受け入れるという本来の目的ではなく、賠償によってかかる負担を減らすためという目的でした。
1980年代のアメリカにおけるダイバーシティマネジメント
1980年代のアメリカでは、CSR(企業の社会的責任)の積極的施策として、企業がダイバーシティマネジメントに取り組み始めました。
「女性の活用に積極的な企業」や「人種や性別関係なく誰もが活躍出来る企業」というイメージを打ち出すことによって、企業イメージを高めて企業価値を上げるという施策のもとで、ダイバーシティマネジメントは広がっていきました。ただ、この時点でもあくまで企業のブランディングのためであり、ダイバーシティマネジメントの本来の目的とは違っていました。
ダイバーシティマネジメントの意識は、1987年に「Workforce 2000」という労働白書が発表されたことで一新されます。Workforce 2000は、労働力が今後急速に高齢化・女性化していくことや、労働力人口の中心を占めていた白人男性の新規参入者の割合が47%から15%まで急減するだろうという予測を記したものでした。
労働人口の主流だった白人男性の割合が急激に減少することによって、従来は戦力外とされていた女性や障害者、非白人の人種、高齢者などを積極活用していく必要に迫られたのです。企業が人事や組織戦略を大きく見直さなければならないことを受け止めたことで、ダイバーシティマネジメントが利用され、急速に広がり始めました。
現代のアメリカにおけるダイバーシティマネジメント
2000年代に入ると、ビジネスのグローバル化が進展し、異なる文化や習慣などを持つ企業同士が共生する機会が飛躍的に増えてきました。
企業が成長・発展していくためには、以前にも増して積極的に人材の多様性を活かしていくことが重要だという認識が広まり、ダイバーシティマネジメントが代表的な経営戦略の1つとして取り組まれています。
ダイバーシティマネジメントのアメリカ企業における事例とは?
ダイバーシティマネジメントが、アメリカの企業において具体的にどのように推進されているのか、3社の事例をご紹介します。
- P&G(プロクターアンドギャンブル)の事例
- Googleの事例
- アクセンチュアの事例
1.P&G(プロクターアンドギャンブル)の事例
P&Gは、世界の約160カ国に消費者を持つ、世界最大の消費財メーカーです。
P&Gの前CEOであるA.G.ラフリー氏は「P&Gにとって、ダイバーシティはビジネス戦略である」と社内外で公言し、ダイバーシティの推進を自ら率先しました。企業の経営層が経営戦略として公言したことで、ダイバーシティマネジメントが社内はもちろん世界中に広まりました。
P&Gが行っているダイバーシティマネジメントの具体的な施策としては、人材の募集・採用において、いかなる地位や人種であっても応募できるよう、80か国で利用できるオンラインシステムを整備しています。
P&Gが行っているダイバーシティマネジメントの施策は他にもあり、社員が自主的・社内横断的に形成したアフィニティグループ(共通関心団体)を支援することを、会社として奨励しています。アフィニティグループとは、女性・ヒスパニック系・黒人・LGBT・障がい者などの支援グループです。
2.Googleの事例
Googleは、インターネットを利用している方には言わずと知れた、IT情報処理の最大手企業です。
Googleでは、ダイバーシティマネジメントを企業理念に入れるほど大事なことと捉えており、全ての文化の多様性を受容することは非常に重要であると位置付けています。
Googleがダイバーシティマネジメントの取り組みとして行っているのは、組織からの「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」の排除です。「アンコンシャスバイアスのトレーニング」と「バイアス・バスティング」の2つのトレーニングを社員に受けさせています。
アンコンシャスバイアスのトレーニングでは、無意識の偏見は誰しもが持っているという気付きを与え、バイアス・バスティングによる対話やロールプレイによって、偏見が働いた際の「現状」「とるべきアクション」「得られる効果」を参加者全員で共有しています。
アンコンシャスバイアスがあることで、人種差別や性別の偏見(例えばラテン系の人は怠惰だ、女性は事務作業が向いている等)が発生し、多様な人々の働きを妨げてしまっているのです。
Googleでは、アンコンシャスバイアス排除のトレーニングからダイバーシティマネジメントの取り組みにつなげ、社員全員で多様な人々が働きやすい観光を作っていく組織風土を広げています。
3.アクセンチュアの事例
アクセンチュアは、世界56カ国200都市以上に拠点を持つ、外資系総合コンサルティング企業です。
アクセンチュアでは様々なダイバーシティマネジメントの施策に取り組んでおり、2018年には多様性を受け入れる環境が整った企業100社を認定する「ダイバーシティ&インクルージョン・インデックス」において世界1位を獲得しました。
ダイバーシティ&インクルージョン・インデックスとは、企業において多様性を受け入れる仕組みがどれくらい整備されているかを測定したデータです。アクセンチュアでは下記の点が評価されました。
- 多様性に富んだ経営陣アクセンチュアの経営陣は、出身国および性別において多様です。4大陸・6カ国の出身者で構成され、女性はリード・ディレクターを含め4名です。
- 職場における男女平等アクセンチュアは、2025年までに全世界で女性社員の比率を50%にするという目標を設定しています。現在、グローバル全体で女性社員は41%で、新規採用者の45%が女性です。
- 人材育成アクセンチュアは昨年、専門能力の開発に9億3,500万ドルを投じました。これには、社員がクラウド、人工知能、ロボティクスといった重要分野で活躍できるよう支援する、リスキルへの多額の投資も含まれています。
- 透明性に向けた取り組みアクセンチュアは多くの国々で、社員に関するデータを公開しています。たとえば、プロフェッショナルサービス企業としては米国で初めて、性別、人種、障がい者、退役軍人の割合など、社員に関する包括的な統計データを自主的に公表しています。
アクセンチュアでは、年齢・障がいの有無・人種・性別・性別認識/表現・宗教・性的指向にかかわらず、全社員が確実に成功の機会を得られるよう取り組まれています。
ダイバーシティマネジメントはアメリカの事例もヒントになる!
ダイバーシティマネジメントとは「従業員の多様な個性を企業内に取り込んで活用し、経営に活かしていく」という意味の言葉です。
ダイバーシティマネジメントの概念は、1960年代にアメリカで誕生し、1990年頃から急速に広まりました。様々な人種が混在するアメリカでは、外国人の少ない日本よりも早急かつ切実に、多様性への理解と受け入れが求められました。
日本のダイバーシティマネジメントは、女性や人種への差別でなく、雇用形態別の多様な働き方やワークライフバランスを重要視する日本式のダイバーシティマネジメントに注目されています。アメリカの事例がそのまま使えるかは、自社の課題や目的によって検討する必要がありますが、ヒントや参考として知っておいて損はないでしょう。