ストレスフルな環境の中でこそ考えたい「ストレス耐性」
「ストレス耐性(stress tolerance)」とは、文字通り「ストレスに耐える強さ」を意味する用語です。
2000年代前後から、人材採用や育成活動において「ストレス耐性」を重要項目としてチェックする企業は多くなっています。過労など起因する事象がさまざまとはいえ、精神障害など仕事に由来する労災の請求件数や認定件数は年々増加傾向にあります。
労災請求件数が増加している背景には①労働力不足によって1人あたりに求められる業務量や業務の質が上がっていること②グローバル化やロボット・人工知能の発達により、業務内容そのものが変化していることなどがあると言われています。
さまざまな形で降りかかるストレスに対して、適応できるスキルや抵抗する力をもっているかをはかることができるのが「ストレス耐性」です。ストレス耐性の強さ・弱さには個人差があります。
ストレス耐性の高い人ほど、大きなストレスを受けても乗り越えられ、耐性の低い人は、ちょっとしたことでも落ち込んでしまうという傾向があります。
ストレス耐性は、自身で意識して行動したり鍛えることで高めることができます。社員のストレス耐性をチェックすることで、社員へのフォローや人材の配置部署への見極めに重要な項目だといえます。
ストレス耐性を決定づける6つの要素とは
ストレス耐性を決定する6つの要素には以下のものが挙げられます。それぞれの要素について説明します。
- 感知能力
- 回避能力
- 処理能力
- 転換能力
- 経験
- 容量
感知能力
感知能力とは、原因となるストレッサー(ストレスの原因)がある場合に、それに気づくかどうかの能力です。ストレッサーに気づかなければ、ストレスを感じることがないとされています。
たとえば、相手に横柄な態度をとられても「さっきのあれは皮肉だったの?」と考えることができれば、それはその個人にとってストレスにはなりません。その意味では、「鈍感力」は非常に重要です。
感知能力は、もともと個人が持っている性格などによっても影響されると言われています。
回避能力
回避能力とは、ストレスを作りやすい性格かどうかの能力です。相手から失礼な態度をとられても仕事だからと割り切ることができる人や、細かいことにとらわれない人は、ストレスを感じにくいものです。
たとえば、細かく業務を指示してくるマネジャーがいる場合でも、「少しくらいは人の言った通りにやってもいい」と考える人は、上司のふるまいもストレスとは感じにくいものです。
回避能力は、自律神経系や内分泌系、免疫系の安定と関連性があり、心身が健康であれば、心身ともにストレスの影響は少なくなるものです。
処理能力
処理能力とは、ストレッサー(ストレスの原因)そのものを無くす、または弱めることができるかどうかの能力です。
ストレッサーに有効な対処をできる人は、結果的にストレスに強いといえます。仕事の量が多ければいかに効率よく仕事をこなすか適宜調整する、対人面で問題があればチームのコミュニケーションの質を高める策を講じるなど、ストレスの原因となっている問題を、実際にその時々で適した方法で解決する力があることは重要です。
転換能力
転換能力とは、ストレスの根本的な意味を考え、それを良い方向に捉え直すことができるかどうかの能力です。ストレスをポジティブな事柄に置き換える力は必要です。
たとえば「失敗は自分にとって非常に貴重な学びだった」「自分にさまざまなことがあったからこそ、人に気遣うことができるようになった」など、マイナスをプラスのことに転換させる思考を持っているかどうかは、ストレス耐性の中でも大事なポイントです。
経験
経験とは、過去に受けたストレッサーの頻度や内容などの経験がどの程度あるかについてです。
何度も同じようなストレッサーに合うと、そのストレッサーに慣れてきて、徐々にストレスを感じにくくなります。注意しなければならないのは、逆にストレス耐性を弱めてしまうケースもあることです。
たとえば「失恋は何度もした。すでに慣れているから自分は平気だ」と思える人と、「また失恋してしまった…。自分は誰とも付き合えないのかな……」という思考のタイプがいるのが特徴的です。
容量
どれだけのストレスを抱えられるかどうかについてです。
ストレスを感じていたとしても、その程度が個人のストレスの許容範囲ならば、ストレスをストレスと感じることはありません。とはいえ、その時の心身状態によってもそのキャパシティーは異なります。
ストレス容量が小さい場合、わずかなストレッサーにも耐えることが難しく、心身に問題が発生します。反対に、容量が大きい人はストレス反応が出にくいものです。
ストレス耐性の“度合い”も変化する
ストレス耐性は個人で全く異なり、同じ人でもタイミングによっては受けるインパクトの大きさは異なります。ストレッサーの種類によっても影響の大小はありますが、ストレスに対する姿勢や経験が個人によって異なるためです。
ストレスを受ける人の心理や健康状態、周りのサポートを受けられるかどうかによっても変化します。調子の良い時期はストレス容量は大きかったのに、失敗をしたり体調不良になっているときなど、心身に不調を来した途端に小さくなるといったことは、誰しもに起こりえることです。
ストレス耐性の高い・低いを見極めるよりも、ストレスとの付き合い方や発散方法をいかに考慮できているか、といった視点を持つことが、組織の人材育成には有効なのです。