大きな「ストレス」を抱える現代人
仕事のストレスは、働く人(労働者や社員)の健康と、彼らの所属する組織自体の健全な経営という、双方における大きな懸案事項であると、世界的にも広く認識されています。
成果主義によるプレッシャーや業務内容の変化や組織の多様化など、昨今の労働環境の変化は、従業員のメンタルヘルスに大きな影響を与えています。
ストレスを持つ人は、基本的に心身の一部もしくはすべてが不健康で、モチベーションが低く、仕事の生産性も低い傾向にあります。そして、彼らの所属する組織も、競争市場において大きな成功をおさめにくいものです。
厚生労働省が実施している平成29年労働安全衛生調査では、職場において強いストレスとなっている事柄があると答えた労働者は58.3%と、過半数の労働者が強いストレスを抱えています。過去5年の推移を見ても、過半数以上の労働者が強いストレスを抱えていることが分かります。
出典元『厚生労働省』平成29年労働安全衛生調査(実態調査)労働者調査
厚生労働省の調査では、強いストレスを感じている労働者の割合だけでなく、何が強いストレスとなっているのかの内容についても調査しています。平成29年の調査によると、最も強いストレス要因となっているのは「仕事の質・量」で、62.6%となっています。
出典元『厚生労働省』平成29年労働安全衛生調査(実態調査)労働者調査
背景には、市場のグローバル化や人工知能などの新しいテクノロジーの発達、労働力不足による1人あたりの業務負担の増加などが考えられます。政府も長時間労働の是正を行おうと関連法案の整備を続けていますが、
時間外労働の限度については、2019年4月1日から(中小企業は2020年4月1日から)が予定されています。当然のことながら、単純な時間外労働の時間を抑制するだけでなく、1人あたりの業務量や質を適正に保つ努力を行わなければ、根本の原因は解消できません。
今回は厚生労働省が定期的に行っている「労働安全衛生調査」から、ストレスを感じている労働者の割合や強いストレス内容となっているストレス要因の変化、今求められる改善策だけでなく将来的に求められる改善策について説明します。
厚生労働省調査「労働安全衛生調査」をひも解く
厚生労働省の労働安全衛生調査は、周期的にテーマを変えて調査が行われています。2017年は労働災害防止計画の重点施策を中心に、事業所が行っている労働災害防止活動および安全衛生教育の実施状況等の実態、そこで働く労働者の仕事や職業生活における不安やストレスなどの実態について調査を実施しました。
平成29年の調査では、1人以上雇用する企業から約18,000人を対象に調査が行われています。「現在の自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答した労働者は 全体の58.3%(2016年調査では59.5%)となっています。ストレスと感じている事象では「仕事の質・量」が 53.8%(同 57.5%)が最も多くなっています。
出典元『厚生労働省』平成29年労働安全衛生調査(実態調査)労働者調査
出典元『厚生労働省』平成29年労働安全衛生調査(実態調査)労働者調査
強いストレス要因の経年比較(2012年と2017年比較)
ビジネスシーンにおける主なストレス要因に経年変化はあったのでしょうか?2012(平成24)年と2017(平成29)年で比較してみます。
2012年の調査では、就業によってストレスを感じる労働者の割合は 60.9%。強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄は、「職場の人間関係の問題」(41.3%)がもっとも多く、次いで「仕事の質の問題」(33.1%)、「仕事の量の問題」(30.3%)となっています。
出典元『厚生労働省』平成24年 労働者健康状況調査 結果の概要
同じ質問で2017年の結果を見てみると、ストレスを感じている人の割合は58.3%で若干低くなっています。主なストレス要因は、1位が「仕事の質・量」(62.6%)で、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」が 34.8%、3位が「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」 30.6%という結果でした。
調査結果を比較すると、「対人関係」などの時代が移り変わっても同じ要素で悩む人が多いことが分かる一方で、その時々の社会の状況やワークスタイルによって、受けるストレスの内容に変化があることが見て取れます。
現代のストレス背景に関する考察
2012年では職場での人間関係の問題が最も強いストレス要因で、2017年では仕事の質・量が最も大きな要因となっています。
2017年度に「仕事の量・質」がもっとも多いストレス要因に上がった背景には、近年の売り手市場による労働人材不足とAIなどテクノロジーの進化と活用による仕事内容の変化などがあると考えられます。現場の業務量が増加したことや、競合他社はもちろん海外企業との競争の激化、複雑化する業務に比例して求められる業務の質の向上などがあると言われています。
全体の労働力が不足する中、一人ひとりの仕事の質と生産性の向上・効率化が求められた結果、個人が担う責任が増加し、それによって個人が感じるストレスが増大しているのです。
いつの時代も、職場での人間関係は誰にとっても大きなストレス要因となりえることは、経年変化でも如実に表れていますが、近年のストレス要因は、より複雑化しています。
こういった状況を改善するためには、物理的な量と質を高める一方の業務内容を見直し、一人ひとりの裁量に合わせた仕事を組み立てる工夫をすることや、特に優秀な人材には惜しみなく投資を行うこと、また、本来必要な業務の生産性とは何かを見直すことが求められています。
一人ひとりで異なるストレスをケアする視点を持つ
2012年は職場の人間関係が最大のストレスになっていましたが、現在は業務内容の変化や労働力不足により、業務量過多になり、仕事量や質、伴う責任の増大が最大のストレスになっています。
現在は、長時間労働の是正の流れもあり、多くの企業で業務量・質を改善するのがトレンドです。しかし長時間労働を是正できたとしても、職場の人間関係にストレスを抱える人の改善は行なえません。そのため、長時間労働の是正をしながらも、将来的に職場の人間関係に対するストレスを解消する方法を模索していく必要があります。
ストレスの課題を解決することは簡単ではありません。組織として以下に個人と丁寧に向き合い、対応していくことが大切かを、今一度見直してみることが求められています。