ピープルアナリティクスとは?意味や歴史、採用活動での活用事例

注目されている「ピープルアナリティクス」とは

「ピープルアナリティクス」という言葉をどこかで聞いた事はあるでしょうか?

今後も続くと予想される労働人口の減少によって、組織の大切な資源の一つである社員一人あたりの生産性を上げる施策は、多くの日本企業にとって急務となっています。そんな背景もあり、日本では近年「ピープルアナリティクス」の活用が求められています。

ピープルアナリティクスの概念は比較的新しく、現状では「ピープルアナリティクスって一体どんな事をするの?」と疑問に思う人事担当者も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、人事担当者・経営者に向けて、ピープルアナリティクスの全貌を、歴史から具体的な活用事例まで紹介します。ピープルアナリティクスはそもそもなんなのか、目的はなんなのか、どのようなデータや知識が必要なのか、どのような手順でできるのか、活用するとどのようなメリットがあるのか、そして日本ではどのように活用されているのかを解説します。これらのポイントを押さえることで、今後急速に発展して行くであろうピープルアナリティクスの最新情報に追いつき、実践で落とし込んで行く事ができます。

記事全体の流れは、以下のような構成になっています。

  1. ピープルアナリティクスの歴史
  2. ピープルアナリティクスの定義と目的
  3. ピープルアナリティクスに必要な知識
  4. 必要な手順
  5. 活用するとできるようになる事
  6. 日立のPeople Analytics Labでの活用事例

1.ピープルアナリティクスの歴史

「ピープルアナリティクス」という用語は、2007年に米Googleの人事部が使い始めたと言われています(参考URL:What is the History of People Analytics?)。しかし、ピープルアナリティクスという考え方がより一般的に広く認知されるようになったのは、2011年に放映された映画「マネーボール」の影響が大きいとされています。

moneyball
出典元『GhostPoint』Moneyball – A lesson in translating analytics into action

「Moneyball」は、2000年台前半にメジャーリーグで最低レベルの年俸総額だったオークランドアスレチックスが、統計学を駆使してスカウトを行い、リーグ最高成績を出した実話に基づいています。少ない資金で、いかに効率よく人材を獲得して行くかという課題に対して、統計学を使ってスカウトすることで解決したのです。「Moneyball」のストーリーは、人的資源を勘に頼らずデータで分析することの意義を、世間一般に強く訴えかけたと言えます。

「Moneyball」のストーリーが本や映画で発表されると、オークランドアスレチックスの取り組みをそのままビジネスに生かそうという流れが、Googleの拠点であるシリコンバレーを中心に一気に広まりました。もともと人事部であった部署が「ピープルアナリティクス」という名前に変更し、人材データを活用してマネジメントに活かしていこう、という流れが浸透していきました。

2.ピープルアナリティクスの定義と目的

ピープルアナリティクスの発祥地である、米Googleの人事部によると、ピープルアナリティクスは次のように定義されます。

「ピープルアナリティクスは、経営面で確率的な利点を得るために人材マネジメントに統計学と行動科学を体系的に応用すること。」(参考URL:What is the History of People Analytics?

ピープルアナリティクスの目的は、人材に関わる全ての悩みや問題(例えば採用、配属、育成、定着、組織開発、評価など)を、データと理論を使って解決して企業の利益を上げることです。ピープルアナリティクスのできることを細かく分けると、次の二つの目的があります。

問題の発見

データを使い、勘や経験だけではわからなかった問題を発見します。

問題の程度をデータで定量化することで、解決すべき問題の優先順位がわかるようになります。体感ではなくデータで問題を発見する事は、実は見落としていた重要な損失を発見できることに繋がります。

問題の解決

発見した問題と、その原因になりうるデータの関係性を特定し、より確かな示唆を得る事ができます。

一つの問題には様々な原因が絡んでいる場合がありますが、複雑な統計を使ってデータ分析をすれば、より本質的な原因を探る事ができます。データによって客観的に得られた示唆は、意思決定における重要な判断材料になります。

3.ピープルアナリティクスに必要な知識

ピープルアナリティクスを実行するには、どのようなデータや知識が必要になるのでしょうか?

ピープルアナリティクスにおいて「ビッグデータ」は必ずしも必要ではありません。(参考URL:What is the History of People Analytics?)なぜなら、大量のデータがあっても、そもそも問うべき問題が適切に設定できずにいたり、答えたい問題に対して適切なデータでなかったり、データが適切に整理されていなかったら意味がないからです。

ピープルアナリティクスにおいては、「答えたい問いを適切に設定し、それに対して答えることのできる適切なデータを取得し、適切に分析する能力」が求められます。

適切なデータを取得・分析する際に、ピープルアナリティクスの核となる行動科学と統計学や、テクノロジーの知識が重要になってきます。以下、それぞれの代表的な分野とピープルアナリティクスにおける役割について説明します。

行動科学

心理学(主に産業・組織心理学)、社会学、労働経済学などの分野がとても役に立ちます。理由としては、これらの分野ではピープルアナリティクスという用語ができる以前から、人に関するモチベーションや理論の構築が行われているからです。

これらの分野での理論や研究手法を知っておくことで、より適切な仮説を立てやすくなったり、適切なデータを取得する基盤が整います。例えば、産業・組織心理学では、価値観などの要因と「従業員満足度」などの関係性について研究されてきています。こういう事を知っておけば「勤続年数」だけでなく、価値観などの要因も事前に測っておく事で、さらに深く適切な分析が可能となります。

社会学では、調査方法やインタビューの手法が確立されています。調査方法やインタビュー手法を知っておけば、より信頼性のあるデータを取得できる調査を作成できたり、より深い示唆を得られるようなインタビューを設計する事ができます。

労働経済学では、よりマクロな視点で、これからの市場がどう変化していくのかについての理論や分析方法が確立しています。市場の変化を予測して分析することで、今後の労働人口にはどのような変化が期待でき、また自社への求職者にどのような変化が期待できるのか、おおよその予測を立てる事ができます。

統計学

適切なデータを取得した後には、データを適切に分析する事が求められます。

具体的には、多変量解析や機械学習の知識が求められます。ExcelやRなどのデータソフトや統計プログラミング言語を使いこなす能力も必要です。行動科学と統計学の知見が合わされば「どのようなデータを、どのように取得するべきか」という判断にさらに磨きをかける事ができます。

テクノロジー

効率の良いピープルアナリティクスを実行するには、コンピューターサイエンスを駆使したテクノロジーが必要になります。

テクノロジーは、データを取得するインフラを整備したり、データ取得から分析までの流れを簡単にするために役に立ちます。採用フローの中で、適切なタイミングで適切な調査を自動で埋め込むなど、手動だと手間がかかる部分を自動化できます。テクノロジーは、ピープルアナリティクスを行う全ての流れを自動化したり、効率化する事に役立ちます。

これらの専門の知識を総動員して人材面での課題を解決していく事が、ピープルアナリティクスと言えます。しかし、これら全ての分野に精通することは難しいので、あくまで各分野の専門家がお互いに協力して業務を実行する事が現実的です。

4.必要な手順

ここで、ピープルアナリティクスを遂行するための大まかの手順を、仮の例題を使って紹介します。

ピープルアナリティクスを遂行するには、下の図のように大きく分けて5つに分解できます。

ピープルアナリティクス の手順

ここでは、ボストンキャリアフォーラムでの採用案件を、仮の例題としながら解説します。(ボストン・キャリアフォーラムとは、日英バイリンガルを対象とした世界最大級の就職イベントです。)

日系企業Aの採用担当者は、海外採用において以下のような悩みを持っています。

「早期退職を防ぐにはどうしたら良いだろうか」
「色々な就職イベントを使って内定者を出しているけれど、どれが上手くいっているのかどうかという、客観的なデータはないだろうか。」
「ボストンキャリアフォーラムは出展コストも高いし、本当に行く価値があるのだろうか?」

この例題を、図のような手順に沿って考えてみましょう。

①問題設定

解決すべき課題を認識し、問題を設定します。

問題設定での出発点は「早期退職率が高い」が問題設定に当たります。問題設定は、社内の口コミ程度のものでも構いません。一度問題を認識したら、他社と比較したり、想定していた数字と簡単に比較したり、社内ヒアリングを通すと、問題の重大さがより明確になります。

「早期退職が目立つので、どのように防いだら良いか?」
「ボストンキャリアフォーラムは出展コストも高いし、本当に行く価値があるのだろうか?」

②仮説設定

問題を設定したら、問題を解決するための仮説を設定します。

日系企業Aの採用担当者は、体感として「就職イベント別に、内定者の質が違うのかもしれない」と仮説を立てました。行動科学の理論や先行研究を知っている事が非常に有利になります。なぜなら、ある問題に対しての原因になりうるものが既に多く研究されており、また確立された理論を使えば、効率の良い方法で仮説を立てて調べる事ができます。(なお、仮説がなくとも探索的な理由でデータを解析する場合も有効です。)

例えば、留学生と国内の学生の性質の違いについての知見が使えます。英語圏で育った人は、日本で育った日本人に比べて「自分の属するグループが自分に合わないと判断したときに、自分の意思でそのグループを去る心理的障壁が低い」事を示す研究があります。つまり海外志向の人物は、それほど帰属意識が高くない事が予想できます。

したがって、立てられる仮説は
「海外就職セミナー(ボストンキャリアフォーラム)で採用をした人材の方が、退職するのが速い」という仮説です。

③データ取得

仮説を設定したら、仮説を検証するためのデータを取得します。

データ取得でのポイントは、どのようにデータ化できるかについて考える事です。「早期退職」を示す様々な指標が考えられますが、直感的にわかりやすい「勤続年数」を例として挙げます。つまり、仮説を検証するために知りたいことは「ボストン・キャリアフォーラムで内定を出した社員と、その他の就職イベントで内定を出した社員の間に、勤続年数に明確な違いがあるか?」ということです。

この問題については、以下のような事が分かれば、最低限の示唆を得る事ができます。

  • 各社員の入社年を入力します。
  • 各社員の勤続年数を日数で入力します。
  • 各社員に対して、内定を出した経路(就職イベントの種類)を入力します。
  • それぞれの就職イベントに対して、かかったコスト(経費や面接工数など)を算出します。

これらの事が分かれば、就職イベントごとにかけたコストと、勤続年数の割合を算出する事ができ、就職イベント毎のコストパフォーマンスを比べる事ができます。

④仮説検証

データを取得したら、統計ソフトを使ってデータを解析して仮説を検証します。

様々な分析手法がありますが、データの構造や仮説のタイプによって適した分析手法は決まります。検証したい仮説に対して、適切なデータであるかどうかを、確認しながら行います。(このような理由から、②の仮説設定の段階で、どのようなデータが適切なのかを、慎重に議論する必要があります。)

この例題での分析ポイントは「イベントごとのコストと退職率を比べる事」です。上の例のように取得したデータを使えば、以下のような事がわかります。

「ボストンキャリアフォーラムでは、一人当たりXX万円のコストにつき、YY日働いてもらっている」
「その他の就職イベントでは、一人当たりZZ万円のコストにつき、OO日働いてもらっている」

コストあたりの勤続年数を比べる事ができれば、どちらの就職イベントが定量的に上手くいっているかどうかがわかります。

⑤解釈・議論

データを分析したら、その結果について解釈し、議論します。

「仮説は支持されたか?」について議論する事が大事ですが、そのほかのポイントを押さえておく事も大切です。この段階まで来たら、例えば以下のような事を考えます。

「適切な統計手法を用いたか?」
「もう一度別の方法で検証したら違う結果にならないか?」
「解析した要因以外に、重要な他の要因を見落としていないか?」
「得られた示唆を元に、アクションを起こす事は資金的・現実的には可能か?」

これらの疑問を解消したら、もう一度同じ問題に対して同じ手順を繰り返すか、他の問題を設定して、新たな課題を解決します。

5.活用するとできるようになる事

明確な数字で就職イベントの有用性が分かれば、今後の採用方針に対して重要な示唆を持つ事ができます。

例えば、上の例題での「海外就職セミナー(ボストンキャリアフォーラム)で採用をした人材の方が、退職するのが早い」という仮説がもし支持されたとしたら、「海外就職イベントは、実はコストパフォーマンスが悪かった」という示唆が得られます。

「海外での採用、上手く行っているのかなぁ」という、ぼんやりとした疑問に対して、出展コストと内定者のパフォーマンスの割合を比べる事で、明確に「出展すべきか・しないべきか」が分かるようになります。

具体的な数字で出した結論は、会社の意思決定に対してより大きな説得力を持つでしょう。ピープルアナリティクスは、人に関する課題をデータで解決する事で、より賢い選択を促してくれます。

6.日立のPeople Analytics Labでの活用事例(「人材要件」を定量的に再定義し、内定者の質が向上)

ピープルアナリティクスを実際に活用している企業の例を見てみましょう。

株式会社日立製作所の人事総務本部であるPeople Analytics Labは、日本国内でもいち早くピープルアナリティクスの活用に成功した一例です。

People Analytics Labは、応募者と既存社員の適性検査のデータを分析して「優秀な人材」と「とがった人材」を構成するいくつかのパターンを抽出しました。さらに、このパターンに基づいた既存社員のハイパフォーマーにインタビューをすることで、より深いインサイトを得る試みをしました。

既存社員のデータを一度客観的に見つめ直し、適性検査のデータと既存の人材要件定義すり合わせることによって、より明確な人物像を体系的に作りあげることに成功したのです。結果的に、内定者の質が上がったと言います。

重要な点は、あくまでピープルアナリティクスを、ある課題を解決するために活用した、ということです。日立製作所の場合は、以下のような課題があったと言います。

「設定した人材要件定義と、実際に採用した内定者の間に乖離がある。」
「この原因はおそらく、面接官それぞれの主観が入り、人材要件定義が変わってしまうから。」
「より客観的・体系的な方法で、人材要件を再定義できないか?」

この課題を、ピープルアナリティクスの手法を使うことによって解決しました。今まで面接官ごとにバラバラだった「優秀な人材」「とがった人材」といった人材像を、適性検査を使って定量化した事で、初めて擦り合わせができるようになったのです。

ピープルアナリティクスを活用してみよう

企業・組織には、人にまつわる様々なデータが眠っています。

ピープルアナリティクスは、人にまつわるデータを経験や勘だけに頼らず、解決したい課題に対して正確な示唆を得るための方法です。ピープルアナリティクスには、行動科学、統計学、テクノロジーの分野の知識が必要です。

ピープルアナリティクスを活用する際には、まずは課題や問題を適切に設定する事が大事です。ピープルアナリティクスという概念自体が比較的新しく、ここ10年の間に急速に発展してきており、解決方法についても今後より発展していくと考えられます。しかし人にまつわる問題については、長らく変わっていない問題が多いです。

今後、新しい知識・技術が速いスピードで発展して行く事が予想されるため、基礎的な部分を抑えつつ、定期的に新しい情報を仕入れていく事ができれば幸いです。

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