効果的な「コンピテンシーモデル」を作る際に必要な観点とは?
「コンピテンシー」を有効に活用するためには、まずコンピテンシーモデルとして、目指すべき目標(モデル)を作成する必要があります。コンピテンシーには定型があるわけではありません。他の記事でもご紹介した通り、業種や職種によって求められる成果やパフォーマンスが異なるからです。
定まった評価基準や項目があるわけではなく、あくまでも「ハイパフォーマンスのための概念(考え方)の全体」が、コンピテンシーなのです。
大切なことは、自分たちの組織におけるコンピテンシーとは何かを明らかにし、それに基づいた評価をすることです。モデルの作成の手順やポイントについては、自社独自のものを展開する場合もありますし、コンサルタント会社など外部機関に依頼するなどさまざまです。しかし、効果的なコンピテンシーモデルを設計するためには、一通りの作り方や項目を知っておいた方がよりスムーズに設計できるでしょう。
今回はコンピテンシーにどのような項目(観点)があるのかについて、掘り下げて説明します。
コンピテンシーモデルの3つのパターンについて
コンピテンシーの評価項目を考える前に、コンピテンシーの評価モデルを設計する場合に存在する3つのパターンを押さえておくことをおススメします。
理想モデル型
理想モデル型は、規模がそれほど大きくない企業などで展開する際に用いることが多いモデルです。
理想モデル型では、企業側が求める人材像に基づいて、評価モデルを設計していきます。理想とするモデルを想定した上で、細かい評価項目に落とし込んでいきます。
企業理念や事業内容に沿って理想とする期待行動を考えていくため、比較的構築が容易といわれています。組織の中に、モデルとするべきハイパフォーマーがいないなどの場合に有効なパターンです。
注意点としては、理想を追求し過ぎることで、現実と乖離した評価モデルや項目を設計してしまうことが挙げられます。いかに、自社の状況にあった実務的なモデルを設計できるかがポイントとなります。
実在型モデル
実在型モデルは、実際に存在するハイパフォーマーをモデルにして設計するものです。コンピテンシーモデルを組織で活用していく場合、多くは実在型モデルを使うといわれています。
実在型モデルでは、組織に実際に存在する人物をモデルにして設計できるので、「理想型モデル」と比べて、現実に即したモデルを設計することが可能になります。
注意すべき点としては「ハイパフォーマーの行動特性を可能な限り正確に把握できるか」という点です。ハイパフォーマーの行動特性が、他の社員にとって再現性に欠ける場合には、評価モデルに採用するか否かを検討する必要があります。
ハイブリッド型モデル
ハイブリッド型モデルは「理想型モデル」と「実在型モデル」の良い点を合わせたモデルのことです。
2つのモデルの良い点は活かし、足りない部分は補完する形で活用する点で、もっともすぐれたモデルケースと言われています。「ハイブリッド型モデル」は、「実在型モデル」のみを採用して組み立てたコンピテンシーモデルと比較して、ハイパフォーマーにとっても学ぶべきところが多い点で優れたモデルでもあります。
コンピテンシーモデル評価項目の考え方(一例)
評価モデルの項目を作成する際には、評価の領域を決定します。次に、各々の領域における項目を作成していくステップになります。
コンピテンシーモデルの評価項目は、組織の目指すべきカタチや特性によって分類することができますが、「これが正解」という定型のパターン・分類は存在しません。
この分類で有名なのが、米国の「コンピテンシーディクショナリー(ライル・M. スペンサー、 シグネ・M. スペンサーが開発した分類法)」です。
- 達成とアクション
- 支援と人的サービス
- インパクトと影響
- マネジメント・コンピテンシー
- 認知コンピテンシー
- 個人の効果性
人事評価などのサービスを展開されている、あしたのチーム様がビジネスシーンにおける行動目標を「8郡75項目」に集約したものが以下の分類です。
- 自己成熟性…冷静さやストレス耐性、ビジネスマナーなどの指標
- 変化行動・意思決定…自立志向や自己革新、チャレンジ性などの指標
- 対人(顧客)・営業活動…親密性やプレゼン力、人脈などの指標
- 組織・チームワーク…同僚との関係、ムードメーカー性などの指標
- 業務遂行…専門知識、文章力、コスト意識、計画性などの指標
- 戦略・思考…視点の広さ・深さ、論理思考やアイデア力などの指標
- 情報…情報の収集・整理・伝達などの指標
- リーダー…理念・方針の共有、部下への配慮、公平さなどの指標
公益財団法人の日本生産性本部が挙げている評価項目は、次の10郡に分けられています。
- 成果達成志向
- コミュニケーション
- チームワーク
- マネジメント
- 部下育成
- 顧客満足
- 自己研鑽
- 行動・時間管理
- 論理的な問題解決
- 関係構築
有名な分類方法や、人事評価・生産性向上を目指す組織などにおいても、汎用的に使える項目がないことが分かります。ただ、共通する項目も多いため、どんな項目があるのか一覧にする際には、非常に役に立ちます。
コンピテンシーモデルの行動例を具体的に考える
コンピテンシーモデルの評価項目が抽出・選定できたら、それぞれを具体的な職務や業務内容に落とし込みます。この記事では『人事評価システム』コンピテンシーマスター評価項目一覧から、行動例を具体的に考えてみます。
組織によって、行動頻度や行動レベルについて詳細な内容とする必要があるため、どこに軸を置くかで項目数も増減します。
1.自己の成熟性
全社共有(業種・職種を問わない、共通の目標)
全社共通の指標として、冷静さやストレス耐性のパーソナリティー、ビジネスマナーなどの指標として活用します。
- 冷静さ: 感情に動かされることなく、落ち着いて物事に動じない
- 誠実さ: 仕事や他人に対して、まじめで真心がこもっている
- 慎重さ: メリット・デメリットを考え、注意深く行動する
- ストレス耐性: 落ち込むことがあっても素早く立ち直る
- 自己理解: 自己を正確に認識し、対処する
2.変化行動・意思決定
全社共通(業種・職種を問わない、共通の目標)
全社共通の指標として、自立志向や自己革新、チャレンジ性などを図る項目です。
- 行動志向: ためになることであれば、体を動かすことをいとわない
- 自立志向: 自らの立てた規範や意義・目的に従って行動する
- リスクテイク: 失敗の可能性があっても、思い切って可能性のあることに冒険を試みる
- 柔軟思考: 状況の変化に応じて、臨機応変に対処している
- 素直さ:相手の意見や指摘をまずは受け入れる
- 自己革新(啓発): 自己の足りない部分や知識・技能を、自ら積極的に取り入れている
3.対人(顧客)・営業活動
数値目標の達成が重視される職務(営業職、販売業務など数値目標がある場合)
販売や営業などのように数値目標が明確である職種には、売上や利益、獲得数など、具体的な数値で結果を図るような行動が求められます。
- 徹底性:一度決めたことは諦めずに、達成するまで挑戦している
- リスクテイク:成功の可能性があれば、失敗のリスクがあっても挑戦している
- 目標達成への執着:最後の瞬間まで目標を諦めずに、打ち手を尽くしている
- 対顧客:顧客への良好な対応を通して、売上に貢献できる行動をとっている
- ストレス耐性:落ち込むような出来事があっても立ち直ることが出来る
- 係数処理力:計算が速く、数値が表している意味を理解している
4.組織・チームワーク
コミュニケーションとチームワークが重要な職務
チームで職務を遂行したり、人とのコミュニケーションが重要な職種には、対人関係を円滑にするような行動が必要です。
- 思いやり:相手の立場に立って物事を考え、理解して対処している
- 親密性:他者から見て印象よく、感じの良さを持っている
- チーム精神:自ら苦労を買って出て、組織が効率よく職務を遂行するように行動している
- 上司・先輩との関係:上役とのコミュニケーションを適切に行い、補佐している
- 傾聴力:相手の立場に立って丁寧に話を聴く。決めつけない
- 素直さ:相手の意見や指導に対して、反発せず、まず受け入れている
5.情報
社内での情報共有、ノウハウ化が重要な職務
総合職などの基幹的業務に従事する役割の場合、最新の市場の動向や成功体験を自分だけのものにするのではなく、社内で共有するような行動が必要です。
- 情報の収集:様々な情報源から、定期的に情報を仕入れている
- 情報の整理:集めた情報をすぐに使えるように、整理・加工している
- 情報の伝達:相手の欲している情報を、機を逃さずに伝える
- 情報の活用と共有化:知り得た情報を、社内共通のノウハウとしている
- 情報の発信:情報を自分なりに追加・修正し、周囲に発信している
6.業務遂行
業務を円滑に遂行することが求められる職務(管理部門など遂行業務がある程度明確な場合)
ある程度決まった業務を遂行する役割の場合、業務を円滑に進めるための行動特性が必要です。
- 誠実さ:仕事や他人に対して真面目である、いいかげんな仕事をしない
- 几帳面さ:すみずみまで物事をきちんとしておく
- 文章力:真意が相手にしっかり伝わる文章を書いている
- 安定運用:業務の流れを把握して、正しい運用を行っている
- トラブル処理:トラブルやクレームに対して適切な対応が出来ている
- 計画性:計画にしたがって段取り良く物事を進めている。行き当たりばったりにならない
7.戦略・思考
クリエイティブなスキルが求められる職種(企画職などの場合)
クリエイティブなスキルが求められる職種においては、固定概念にとらわれない新しい発想や、問題分析能力、論理的な思考などの行動特性が求められます。
- 視点の広さと深さ: 先見性、革新性を持って課題をとらえる
- アイデア思考: 新たな発想で事実や情報の活用を考える
- 論理思考: 物事を客観的にとらえ、筋道を立てて自分の考えを展開する
- 状況分析: 物事の原因と結果を正確にとらえる
- 解決策の立案 :担当業務における構造的・潜在的な問題、将来的な課題に対するプランニング
8.リーダー
「リーダーシップ」が求められる職務(組織をけん引する立場などの場合)
リーダーシップが求められる職務においては、メンバーを統率して組織目標に向かわせるような行動特性が求められます。
- 人物評価:部下の強みや弱みを把握して、それに合わせた対応をする
- マンパワーの結集:知恵や力を集めてまとめ上げる
- 政治力:自らの働きかけによって組織や集団を動かす手段を持ち、それを行使している
- 指導・育成:部下や後輩に気づきを与え、計画的に成長を促している
- 冷静さ:トラブルがあっても感情に流されず、落ち着いた対応をしている。あたふたしない
- タイムリーな決断:適切な時期に必要な判断や決断をしている。時勢を逃さない
参考URL『ビジネス+IT』コンピテンシーとは何か?人事教育・評価に活用する方法、評価項目と導入事例を解説
「コンピテンシーモデル」評価項目策定は、自社ならではの目標設定から
コンピテンシーの項目と行動例についてお伝えしました。テンプレートのような、汎用的な項目や行動例がないため、自社独自のコンピテンシーモデルを作ることの重要性が少しでも伝われば幸いです。
まずは、どの分野のハイパフォーマーをモデルとして設計したいのか、そのモデルに備え付けられるべき項目は何かと言った観点をもつところから始めましょう。
優先順位に関係なく、漏れなくリストアップを行い、設計しながら優先順位を決めて、取捨選択することが、より良いモデル設計につながっていくのです。