スキルマップを人事業務に活用する方法とは?
スキルマップとは、在籍中の社員それぞれのスキルを可視化した、人材の能力表です。
スキルマップは「目に見えないスキルの有無が可視化される」ことが特徴です。どのような業務が得意・不得意なのかが読み取れるだけでなく、教育研修の計画を立てる上での習得すべきスキルの明確化、スキルの有無による人材評価の公平性を担保するなど、採用だけでなく人材育成や人事評価にも活用できます。
スキルマップに定形はありませんが、以下のようなフォーマットで使われます。
スキルマップは、従業員とスキルからなる表であり、社員ひとりひとりのスキルの習熟度や有無を記入します。スキルセットが同一になりやすい、営業部などの同一部署や同一チームごとに作られることが多いです。
会社全体で必要なスキルがあれば、会社全体でスキルマップを作ることも有効です。また管理職に求められるマネジメントスキルやリーダーシップなど、役職などの階層ごとにスキルマップを作る方法もあります。
スキルマップは、人事業務の中でも特に重要な「どんな人材を獲得すべきか」「どのような教育制度を導入すべきか」を考える際の参考になるため、様々な企業で導入されています。
今回の記事では、スキルマップを導入した企業の事例と、導入した結果得られた効果を5つご紹介します。
スキルマップの企業事例と得られた効果とは?
スキルマップを導入した企業の事例と、導入した結果得られた効果を5つご紹介します。
- 日東燃料工業株式会社ベニースーパーの事例
- 株式会社富士通マーケティングの事例
- 株式会社福祉の街の事例
- 株式会社東京ソワールの事例
- 松本ナット工業株式会社の事例
1.日東燃料工業株式会社ベニースーパーの事例
ベニースーパーは、日東燃料工業株式会社の一部門として展開されているスーパーマーケットです。ベニースーパーは2店舗、従業員150人、うちアルバイト・パートが120人という人事体制で経営されています。
スーパーマーケットをはじめとする小売業の人材管理では、従業員のシフト管理が課題になります。スタッフの大半がアルバイト・パートであるため、勤務時間やスキルのバラつきが大きく、営業体制やサービスにムラが出やすくなります。ベニースーパーが抱えていた課題の中でも、チェッカー部門(レジ担当)のバラつきが特に問題となっていました。
ベニースーパーでは、厚生労働省が公開している「職業能力評価シート」の「チェッカーレベル1」を導入しました。(参照:『厚生労働省』職業能力評価シート(スーパーマーケット業)のダウンロード)
厚生労働省の職業能力評価シートでは、チェッカーとしてのスキルが「共通能力ユニット」と「選択能力ユニット」の2種類にわけられており、チェッカーとして一般的な業務を行う上で重要なスキルがリストアップされています。
ベニースーパーでは、リストアップされているスキルを自社の業務実態や用語に合わせて修正し、従業員の現状スキルを確認した上で、教育計画を策定しました。
現場の従業員にシートの記入を促したところ、同時に配布したアンケートではシートの活用に有効さを感じた意見が多く得られました。自身の業務について見つめ直す機会を得たという意見や、担当外の業務への意欲を示す意見があり、人材管理だけでなく従業員の自己啓発を促すきっかけとしての効果が得られました。
2.株式会社富士通マーケティングの事例
株式会社富士通マーケティングは、富士通グループの通信情報・システムインテグレーター業を営む会社です。
株式会社富士通マーケティングのコンストラクション事業本部では、必要な技術の幅が広く、専門性も高い業務であるがゆえに、スキル評価の基準が資格の有無に偏っていました。
株式会社富士通マーケティングでは、スキル評価を資格の有無以外の基準で行うために既存のスキルマップを利用し、一般化されたスキル評価基準を導入しました。社員個々のスキルだけでなく、コンストラクション事業本部全体のスキル状況の確認を行ったのです。
出典元『厚生労働省』富士通マーケティング 事業本部の技能レベルの把握
スキルチェックの結果、全体的に従業員のスキルに偏りがあることが判明しました。年齢を重ねた従業員であれば、本来はどの業務も自力で遂行できるはずが、いずれかの項目のスコアが低く出ているという特徴が見られました。
株式会社富士通マーケティングでは、スキルの評価を組織単位で行ったことで会社全体としての教育強化ポイントが浮き彫りになり、具体的な改善策の考案材料となりました。
3.株式会社福祉の街の事例
株式会社福祉の街は、埼玉県で18事業所において在宅介護支援等を行っている会社です。
株式会社福祉の街では、顧客からサービスについて高評価を得ていたものの、具体的に何が良いのか明らかになっていませんでした。
自社の強みと弱みを明確にするために、訪問入浴・訪問介護・通所介護サービスを提供している2か所の事業所で職業能力評価シートを試行導入し、事業所間の比較を行いました。比較の結果、ベテランの職員が多い事業所の方が顧客から高く評価されていることが判明しました。
出典元『厚生労働省』株式会社福祉の街 自社の強み・弱みの把握
株式会社福祉の街では、会社全体や事業所長などでマネジメントが必要な課題が可視化され、サービスの質向上のために組織としてすべきことが明確になりました。
4.株式会社東京ソワールの事例
株式会社東京ソワールは、婦人フォーマルウェアやアクセサリーの製造・販売業を営む会社です。
株式会社東京ソワールでは、在籍している社員の紹介を軸にした人材採用を行っていました。人数を絞ってじっくりと採用候補者と向き合うことで、会社に合う・合わないを判断していたため、面接の質の向上や評価基準の明確化という課題を抱えていました。
評価基準を明確化するために、スキルマップを応用した面接用チェックシートを独自に作成し、採用面接に活用しました。シートを活用した結果、人物像・コミュニケーション能力・スキルなどの必要項目を、面接で漏れなく確認できるようになりました。
株式会社東京ソワールの事例で注目すべきは、評価のための明確な基準を設けたことで、自社に必要な人材をより客観的に判断できるようになった点です。自社のスキルマップと採用候補者のスキルマップを比較すれば、候補者が自社にどのような影響を与えうる人材かを、面接の段階で推定することもできるでしょう。
5.松本ナット工業株式会社の事例
松本ナット工業株式会社は、昭和28年に創業したネジ製造会社です。
松本ナット工業株式会社では、工場製造部に在籍する技術者のスキルの維持・向上が極めて重要な課題となっていました。組織としての業務整備を行うために作業標準類の見直しや整備は推進してきましたが、技術者個々のスキルアップのための仕組みづくりには着手できておらず、教育面における具体的な課題発見のためにスキルマップを導入しました。
松本ナット工業株式会社は、スキルマップを導入した結果、従業員一人ひとりの技術的課題点が明らかになっただけではなく、組織全体としての課題の発見にもつながりました。発見された課題は日々の業務だけでは解決できないものとして、通信教育の受講支援やOJTの指導内容の見直しを行うなど、具体的な改善策の考案に役立ちました。
スキルマップ導入は他社の事例も参考になる!
スキルマップは多くの企業で導入されており、様々な事例が公開されています。
スキルマップの導入事例を見ると、単に従業員のスキルが把握できるだけでなく、人材の配置・育成・採用など、人事部の主な業務のほとんどでスキルマップが活用できることが分かります。
他社の事例を参考にして自社に合うようにアレンジすれば、スキルマップをスムーズに導入でき、自社の人事業務を効果的・効率的に行えるようになるでしょう。