ビジネススキルを理解する上で実用的なカッツ理論
カッツ理論とは、ハーバード大学の経営学者ロバート・カッツにより提唱された理論で、ビジネススキルと人材の関係性について言及されています。
カッツはビジネススキルを「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つに、そして人材を「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」の3つに分類しました。
会社の舵取りをする上層部にあたるトップマネジメントでは問題の核心を捉え概念化するコンセプチュアルスキルが、現場で活躍する非管理職であるロワーマネジメントにはテクニカルスキルが重要であるという結論を出しました。
出典元『日本の人事部』マネジメント・管理職に求められるスキル
「ヒューマンスキル」はどの階層の人材であっても求められるスキルである、と述べられています。会社に定着することを期待する正社員雇用であれば、ヒューマンスキルの見極めは、今後キャリアアップできる人材か、どの階層であっても長く活躍してくれる人材かを見極めるためにも非常に重要となります。
「ヒューマンスキル」を細分化すると7つの能力に分けられます。各能力がどのようなものであるのか、実際のビジネスシーンでどのように役立つのかを具体例を挙げながら説明します。
ヒューマンスキル一覧!細分化すると7つのスキルに分けられる
ヒューマンスキルを細分化すると、具体的には7つのスキルで構成されています。
- コミュニケーション力
- ヒアリング力
- 交渉力
- プレゼンテーション力
- 動機付け(働きかけ力)
- 向上心
- リーダーシップ
1.コミュニケーション力
コミュニケーション力とは「人間関係をストレスなく構築・維持する能力」であり、ヒューマンスキルの根幹をなすスキルです。
出社して同僚や上司にあいさつをしたり、何気ない会話を振ったりすることで場を和やかにできるというのも「コミュニケーション力」が発揮されているワンシーンといえます。
注意したいのは、なにも「他人と積極的に関わる」ことだけがコミュニケーションではないということです。なかには無駄なおしゃべりをしたくないという人もいるため「一人ひとりの性格を把握したうえで適切な接し方ができる」ということが、本当のコミュニケーション力と言えます。
2.ヒアリング力
ヒアリング力とは「相手の言葉に耳を傾け、相手のことをしっかりと理解する能力」のことです。
自ら積極的に発言し、他人に関わるだけでは良い関係性は生まれません。自分だけでなく相手のことをしっかりと理解すること、そして「理解しようとしている」という意志を表明するためにも相手の言葉に耳を傾けることは大切です。
会議ではそれぞれ個性の異なるチームメンバーが多様な意見を出し、ときには複雑な議論に及ぶこともあります。良い考えを持っているのに「考えていることを言語化するのが苦手」というメンバーに対して、「わかりやすく言え!」というのでなく、丁寧に耳を傾けて一緒に頭のなかにあるものを紐解いていくことができるというのも、重要なヒアリング力です。
3.交渉力
交渉力とは「人と人、組織と組織のあいだに立ち、両者の意見交換をスムーズに行える能力」のことです。
交渉力は、商談や社内で部署間の意思疎通を図るときに重要です。議論する両者にとって「win-win」の関係性をつくるために必要な能力となります。相手の伝えたいことを読み取り、それに対してどのように伝えるのかが良いのか、落としどころはどこかを考えなければなりません。
4.プレゼンテーション力
プレゼンテーション力とは「商談や社内組織間の意思疎通を図る上で、自分の意思を伝える能力」のことです。
交渉力とも関係しますが、自分の意見を相手に伝えるうえで、目的やメリット・デメリットを的確かつ端的に述べるために必要な能力になります。営業職はもちろんのこと、他の従業員との意思疎通にも有用なため、ヒューマンスキルのなかでも実務性が高い能力とも言えます。
5.動機付け(働きかけ力)
動機付け(働きかけ力)とは「同僚や部下の意欲を引き出す能力」のことです。
動機付け(働きかけ力)は、主に若手教育などのマネジメントを行う際に発揮される能力です。たとえば新人の業務振り返り(フィードバック)などで、頭ごなしに「ちゃんとやれ!」と感情的に言いつけるのでなく、目標が達成できなかったときに「なにが原因でできなかったのか」「どうすれば達成できたのか」をしっかりと相手の言葉で引き出すなどがあります。
若手や新人の明確な目標設定をサポートするといったことができる人ほど、動機付け(働きかけ力)が高いといえます。
6.向上心
向上心とは「前向きにスキルを磨き続ける能力」のことです。
向上心は、ヒューマンスキルのなかでも個人内で完結するのが特徴です。自分の市場価値を客観的に把握し、定量的・定性的な目標をきちんと立てることができるという自己管理能力という側面もあります。
向上心が高い人材にマネジメントを任せることで、「背中で見せる」といったような周囲に良い刺激を与えられます。
7.リーダーシップ
リーダーシップとは「組織を引っ張る能力」のことです。
リーダーシップは、今までの6つの能力を統合した能力とも言えます。さらに、決断力や責任感の強さも求められます。
プロジェクトの成功のため、メンバーの業務や精神的な面にも細かく気配りができることも重要です。
7つの能力の関係性を知ろう!
細かく7つに分類されているヒューマンスキルですが、それぞれがどのように関係しているのかを考えると整理しやすくなります。
人間関係作りの基礎となる能力は「コミュニケーション力」「ヒアリング力」です。新入社員が会社に馴染めるか、上司から仕事を教えてもらう姿勢、上司が部下に仕事を教える姿勢などにも活用できます。
実務性の高い能力は「交渉力」「プレゼンテーション力」です。商談などでの決定力になるのがもちろんのこと、上司への報告、部下への指示などにも活用されます。
周囲のやる気を引き出し、チームとして成功する鍵となる能力は「動機付け(働きかけ力)」「向上心」「リーダーシップ」です。他の従業員の士気を高めて目標の達成を目指すなど、会社組織の活性化に活用される能力です。
長期的な人事戦略を見据えて、ヒューマンスキルを活かす
ヒューマンスキルは数値などで絶対的な評価ができず扱いにくい側面もありますが、人事業務に活用することでキャリアや経験にとらわれない幅広い人材起用を行えるようになります。だからこそ、人事担当者としては大切にしたい概念です。
ヒューマンスキルの評価について、一般に自己評価と他者評価(360度評価)の両方の観点から行われることが多く、選択式の簡単なテストによって評価するという研修を導入している会社も多くあります。
大切なのは、ヒューマンスキルはきちんと育成できるということです。しかし、経験がどうしても必要なのですぐに伸びる能力ではないことにご注意ください。ヒューマンスキルは経験やトレーニングによって養われるものだからこそ、人事戦略を長期的に立てるということが重要になるのです。