チームメンバーに奉仕するサーバント型リーダーシップ
リーダーシップは古くから学問的な関心を集めていて、20世紀初頭にアメリカを中心にその理論化・体系化が進められてきました。
初期の研究ではリーダーシップは生まれついた才覚によるものだという見解でしたが、時代を経るごとに変わっていきました。現在は「リーダーシップは生まれつきのものではない」「どのような状況下でも唯一普遍で最適となるリーダーシップは存在しない」という考え方が主流となっています。
近代のリーダーシップ研究であるコンセプト理論では「状況に応じた具体的なリーダーシップのとり方」が研究されています。コンセプト理論のひとつに「サーバント型リーダーシップ」というリーダーシップがあります。
サーバントリーダーシップ(Servant Leadership)は、文字どおりチームメンバーに「奉仕」することを重視するリーダーシップです。サーバントリーダーシップとは具体的にどのようなものなのか、どのような状況下で有効なのかについて紹介します。
サーバント型リーダーシップとは
サーバント型リーダーシップはアメリカの研究者ロバート・グリーンリーフ博士によって提唱されたコンセプト理論のひとつです。
「サーバント(Servant)=使用人」という言葉の通り、メンバーに対して積極的に「奉仕」することで、働きやすい環境を整えて個々の力を最大限に発揮させることを目的としています。
サーバント型リーダーシップの10個の特性について
組織メンバーの現状の能力や考え方を尊重するサーバント型リーダーシップでは、メンバーをしっかりと承認することが大切です。「良いサーバント・リーダー」になるためのポイントとして、以下の10個の特性が挙げられます。
- 傾聴
相手が望んでいることを聞き出すために、まずは話をしっかり聞き、どうすれば役に立てるか考える。また、自分の心の声に対しても耳を傾ける。 - 共感
相手の立場に立って相手の気持ちを理解する。人は不完全であるという前提に立ち、相手をどんなときも受け入れる。 - 癒やし
相手の心を無傷の状態にして、本来の力を取り戻させる。組織や集団においては、欠けている力を補い合えるようにする。 - 気付き
ものごとをありのままに見ることによって、気付きを得ることができる。相手に気付きを与えることもできる。 - 納得
相手のコンセンサスを得ながら納得を促すことができる。権限に頼らず、服従を強要しない。 - 概念化
大きな夢やビジョナリーなコンセプトを持ち、相手に伝えることができる。 - 先見力
現在の出来事を過去の出来事と照らし合わせ、将来の出来事を予想できる。 - 執事役
自分が利益を得ることよりも、相手に利益を与えることに喜びを感じる。一歩引くことを心得ている。 - 人々の成長への関与
仲間の成長を促すことに深くコミットしている。一人ひとりが秘めている力や価値に気付いている。 - コミュニティづくり
愛情と癒やしで満ちていて、人々が大きく成長できるコミュニティをつくり出す。
特に重要なのは「傾聴」と「共感」です。サーバント型リーダーシップでは、他者への承認が基本となるので、相手の主義・主張をまず理解する必要があります。
その他にも、ビジョンをしっかりと言語化して相手に伝える「概念化」や、過去のできごとを分析し将来の展望を見出せる「先見力」など、他のタイプのリーダーにも必要なスキルも含まれています。
一般社員が最上位にくる「逆ピラミッド型組織構造」
サーバント型リーダーシップでは、組織構造に大きな特徴が現れます。通常の会社組織では、社長・役員・管理職・一般社員の順のピラミッド構造があるトップダウン型の組織構造になっています。
サーバント型リーダーシップでは「一般社員」が一番上にきます。これは特に「顧客第一」の接客業では有効で、顧客と接する職種の働きやすさを重視することで、顧客満足度の向上が期待できます。
サーバント型リーダーシップのメリット・デメリットとは
サーバント型リーダーシップは、メンバーに対する理解や承認を重視するため「優しい」という印象があります。しかし、接し方を単に「優しい」と呼ぶことには注意が必要です。
最終的な目的は「メンバーの成長」です。困難なことや難しいことでもしっかりとメンバーと伴走し、時に厳しい態度をとることも必要です。「面倒なことを避けるため」に空気を読んだ行動に徹するのは「優しい」というよりも「無関心」と言えます。
サーバント型リーダーシップでは、部下と同じ視線に立ち、フラットな関係性を築けるというメリットがありますが、それゆえに厳しさを忘れて「優しい」が「無関心」に変わってしまう危険性があることに注意が必要です。
サーバント型リーダーシップの例
サーバント型リーダーシップは接客業で有効なケースがある、と上述しましたが、その例としてまず挙げられるのが「スターバックス」です。
スターバックス躍進の立役者ハワード・ビーハーの著書では「人がすべて」という価値基準のもと「すべての人に尽くす人間こそが最も有能なリーダーである」という思想が述べられています。
アメリカのサウスウエスト航空では、顧客と常に接している従業員を第一と考えています。徹底した従業員ファーストを推進することで顧客満足を高めることに成功しています。
従業員を大切にすることが顧客満足につながる
サーバント型リーダーシップはチームメンバーが保つ力を最大限発揮し、方向性をリーダーが示して、実務・実行段階ではメンバーが主役となるリーダーシップです。
顧客と一番近い立場である社員がピラミッドの上位となり、顧客や現場の声をビジョンに反映させることが可能になるのが一番のポイントです。従業員満足度や顧客満足度に還元され、結果業績アップにつながるといった事例が、実際に豊富にあります。