「性質」でなく「行動」に着目したリーダーシップ理論
リーダーシップについての研究は古くからされており、1900年代にはアメリカを中心に発展していきました。もっとも古典的な「特性理論」では「リーダーシップは生まれつき備わっている特性である」という仮説のもと議論されてきましたが、特性理論では普遍的性質を見つけるに至らなかったため、1940年代に新たな理論が必要とされました。
「特性理論」から派生した「行動原理」は「優秀なリーダーの行動から行動原則を把握し育成に活用しようとする」とするリーダーシップ研究です。「良いリーダーとはどんな人物か」を具体的に議論できるようになり、一部は現在でも活用されています。
今回紹介する「PM理論」は、行動原則を「目標達成行動」と「集団維持行動」の2軸から優秀なリーダーを明確にしようとしたものです。
「行動理論」が生まれた背景とは?
リーダーシップ研究は1940年代までは「生まれ持った性質」を前提とした特性原理に基づいたものが行われてきました。しかし、その限界が指摘されて以降、学者たちは「先天的性質」でなく「行動」へと目を向けるようになりました。
行動に目を向けた研究例として「ミシガン研究モデル」があります。R.リッカートを中心として結成されたミシガン大学社会調査研究所による研究で、リーダーに相当する人物が「課題志向」と「人間関係志向」のどちらを優先しているかを調査した研究です。
同時期にあった「オハイオ州立大学研究モデル」も重要な研究例として挙げられます。C.シャートルによりなされた研究で、リーダーを対象とした記述式アンケートを実施することでリーダーの行動を調査したものです。
こうした研究結果で、リーダーの行動パターンが「組織づくり(仕事の効率、生産性)」と「配慮(人間関係の維持)」の2種類に分けられることが明らかになりました。しかし、この2軸で掛け合わせても4つのタイプしかないため、その単純な分類の是非についての疑問も生じました。
PM理論とは?
PM理論が誕生したのは日本です。1966年に社会心理学者の三隅不二不が提唱した理論で「目標達成行動(Performance)」と「集団維持行動(Maintenance)」の2軸でリーダーシップの分類がなされました。
PM理論では、リーダーシップに関わる上記2つの能力を頭文字をとってP(p)・M(m)と表記し、その文字の大小が能力の良し悪しに対応しています。
行動理論と同様の4つのタイプのみですが、PM理論では行動パターンの種類(軸)が異なります。
PM理論による4つの分類
PM理論では、リーダーシップが4つのセクションに分類されます。
出典元『INVENIO LEADERSHIP INSIGHT』PM理論
PM型
目標達成行動と集団維持行動の2つが優れ、理想的なリーダーシップを発揮できる人材です。このタイプが最も良いリーダーとされています。
目標を明確に示すだけでなく、組織をまとめ上げて協力しながら目標達成を目指すことができます。
Pm型
目標達成行動に優れるが、集団維持行動が劣る人材。
目標達成への意欲が高いのですが、そのために組織の人間関係を犠牲にすることもあり、部下を追い詰めてしまうリーダーである場合もあります。
pM型
集団維持行動に優れ、目標達成行動に劣る人材。
部下と友人のような人間関係を築き、和気藹々とした職場づくりを行いますが、組織の雰囲気を重視しすぎるあまり、業務の進捗管理を強く行えず、成果があまりでない傾向があります。
pm型
目標達成行動と集団維持行動の2つが劣る人材。
業務への関心もないだけでなく、組織からの人望も薄くいため、リーダーには向いていないタイプと言えます。
企業での活用事例
PM理論は人材の行動に着目してはいるものの、その人物を取り巻く環境は考慮できていないため、PM型のリーダーでも実際には成果がきちんとでているわけではないことが確認されています。しかし、人材評価の上で簡潔にその特徴を捉えるモデルとして優れているため、今でも活用事例があります。
たとえば本田技研工業の本田宗一郎は業務遂行能力に集中し、参謀である藤沢武夫氏が経営、人のマネジメントを行うことで補い合って発展しました。課題軸と人間軸の2つのうち片方が得意で片方が苦手ということはよくあります。
お互いの強みを生かして弱みを補うために、2人以上で協力してリーダーシップを発揮する「コ・リーダーシップ」という発想もビジネスでは有効です。こうした組織運営により、本田技研工業は日本だけでなく、世界規模の企業へと成長したのです。
「行動」から「環境」へ
PM理論は優秀なリーダーには「目標達成行動(業務遂行能力)」と「集団維持行動(人間関係への配慮)」が行動原則になっていることに着目したリーダーシップ理論です。程度によってリーダーのタイプを分類し、自身の強み・弱みを理解して補い合う活用がされてきました。
しかし、後に行動理論そのものが「生産性向上のヒントはリーダーの行動のみにある」点に疑問が生まれました。この疑問から、「メンバーやビジネス環境などのリーダーの取り巻く環境」によって「リーダーの行動を変化させるべき」である「条件適合型理論」へ発展したのです。