小規模事業場産業医活動助成金とは?産業医を活用しよう!

専門家から健康管理の指導・助言を受けてみよう!

労働者の健康管理に注目が集まっています。労働契約法第5条では、事業主は労働者の安全の配慮が必要であると定められており、義務化されています。労働者の安全には心身の健康も含まれており、肉体面の健康はもちろんのこと、精神面での健康にも配慮する義務があるとされています。

近年は、長時間労働などを原因とした過労死や精神障害などの健康被害が社会的な問題としても取り上げられています。少子化に伴い労働人口が減少していくのに対し、精神障害での労災申請件数・認定件数は増加傾向にあります。労働人口全体で見ると、企業や労働環境に原因があるとされる労災が起こりやすくなっていると考えられます。

精神障害の請求、決定及び支給決定件数の推移
引用元『厚生労働省』精神障害に関する事案の労災補償状況

政府としても、根本の原因となる「長時間労働の是正」や家庭と仕事の両立を支援する「ライフワークバランス活動」などに積極的に取り組んでいます。平成27年度からのストレスチェック義務制度も、労働者の健康を保つための施策の一つでしょう。

産業医とは、労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるように、専門的立場から指導・助言を行う医師のことを指します。常時50人以上の労働者を使用する場合には、産業医の選任を行う義務が労働安全衛生法にて定められています。

当然のことながら、常時50人未満の労働者の企業や職場に問題が生まれないわけではありません。常時50人未満の労働者を抱える事業場(小規模事業場)でも、産業医を選任して指導や助言を受ける活動を支援するために生まれたのが小規模事業場産業医活動助成金です。

今回は小規模事業場産業医活動助成金の目的や各コースの内容、受給要件や受給金額などの概要について説明します。

小規模事業場産業医活動助成金の概要や各コースの目的や違い

小規模事業場産業医活動助成金は、3つのコースがあります。

1つ目は産業医コースです。産業医コースは、小規模事業場(常時50人未満の労働者を使用する事業場のこと)が、産業医の要件を備えた医師と産業医活動の全部又は一部を実施する契約を締結し、実際に産業医活動が行われた場合に実費を助成するものです。

2つ目は保健師コースです。保健師コースは保健師と産業保健活動の全部又は一部を実施する契約を締結し、産業保健活動を実施した場合に実費の助成を受けることができる制度です。従業員の心と体の健康をサポートすることが目的の制度で、産業保健活動とは、産業医の要件を備えた医師と職場巡視等、もしくは保健師と健診異常所見者や長時間労働者等に対する保健指導等を指します。

3つ目は直接健康相談環境整備コースで平成30年度に新設されました。直接健康相談環境整備コースは、小規模事業場が産業医と締結する産業医活動契約、又は保健師と締結する産業保健活動契約のいずれかに契約した産業医又は保健師に、労働者が直接健康相談できる環境を整備した条項を含めた場合に助成するものです。

小規模事業場産業医活動助成金の目的とは

平成27年度から常時50名以上の従業員が勤務する事業者へのストレスチェックが義務化されましたが、50名未満については努力義務となっています。ですが、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は年々上昇しており、50名未満の事業所も従業員の心の健康面に対し、対策を講じてほしいという目的があります。

職業生活でのストレス状況と原因
出典元『厚生労働省』職場における心の健康づくり

ストレスチェック制度だけがメンタルヘルスケアではなく、産業医などの職場の健康管理における専門家の指導や助言による職場改善もメンタルヘルスケアの一貫です。50人以上の事業場では選任が義務付けられていますが、50人未満の事業場では選任の義務はありません。

50名未満の事業所に対し、産業医や保健師と契約を締結することで助成される小規模事業場産業医活動助成金制度が存在し、50名未満の事業所の社員に対しても心の健康面でのフォローを行うことが目的となっています。

小規模事業場産業医活動助成金の受給要件について

産業医コースと保健師コース、直接健康相談環境整備コースは、共通する4つの要件と、各コースごとに異なる1つの要件を全て満たしていることが条件となります。

  1. 小規模事業場(常時50人未満の労働者を使用する事業場)であること
  2. 労働保険の適用事業場であること。
  3. 産業医(保健師コースでは保健師)が産業保健活動の全部又は一部を実施していること。
  4. 産業保健活動を行う者は、自社の使用者・労働者以外の者であること

産業医コース特有の要件は、以下のとおりです。

  • 平成 29 年度以降、産業医の要件を備えた医師と職場巡視、健診異常 所見者に関する意見聴取、保健指導等、産業医活動の全部又は一部を実 施する契約を新たに締結していること。

保健師コース特有の要件は、以下のとおりです。

  • 平成30年度以降、新たに保健師と健診異常所見者や長時間労働者等に対する保健指導、高ストレス者等に対する健康相談、健康教育等の産業保健活動の全部又は一部を実施する契約を新たに締結していること。

受給を受けるためには、産業医や保健師と契約するだけでは支給されず、全部又は一部の活動を実施している必要があります。

直接健康相談環境整備コース特有の要件は、以下のとおりです。

  • 産業医と職場巡視等、産業医活動の全部又は一部を実施する契約又は保健師と保健指導等、産業保健活動の全部又は一部を実施する契約のいずれかに契約した産業医又は保健師に、労働者が直接健康相談できる環境を整備する条項を含めて平成30年度以降新たに締結していること。

調節健康相談環境コースは、3の要件である「産業医(保健師コースでは保健師)が産業保健活動の全部又は一部を実施していること。」は「労働者へ産業医又は保健師と労働者が直接相談できる仕組みを周知していること。」に変わります。制度の整備だけでなく、労働者への制度の認知も受給要件として含まれています。

小規模事業場産業医活動助成金の受給金額とは

どのコースも1事業場当たり、6か月ごとに10万円を上限に実費を支給されます。ただし1事業場当たり将来にわたり2回限りまでとなります。

受給するために実施しなければならないこと

受給するまでに、契約に基づき産業医による職場巡視、健康診断異常所見者に関する意見聴取、保健指導等、産業医活動の全部又は一部を実施しておく必要があります。

そのためには、従業員に心の健康づくりのために、このような契約をしたという旨を広報し周知する必要があるでしょう。まずは社員に活動の認知を促しておきましょう。

申請から受給までの流れについて

申請から受給までの流れは各コースで異なります。

6か月ごとに支給されるので、申請も2回発生します。申請ごとに書類が必要になります。必要書類は以下のものですのでご確認ください。

  • 「小規模事業場産業医活動助成金支給申請書」
  • 産業医活動又は産業保健活動に関する契約書の写し
  • 「産業活動実績報告書」
  • 産業医の要件を備えた医師、もしくは保健師の支払の事実を明らかにする証拠書類の写し(継続する6か月の産業医活動実施期間に対する費用の領収書の写し)
  • 医師や保健師であることを証明できる書類の写し
  • 事業場の労働保険概算、確定保険料申告書等の写し
  • 「小規模事業場産業医活動助成金支給申請チェックリスト兼同意書」
  • 労働保険一括納付に係る証明書(該当事業場のみ)
  • 振込先の通帳等
  • 事業場宛ての返信用封筒(82 円切手貼付)

産業医コースの流れ

  1. 産業医との契約
    小規模事業場が産業医の要件を備えた医師と職場巡視、健康診断異常所見者に関する意見聴取、保健指導等、産業医活動の全部または一部を実施する契約を締結します。
  2. 産業医活動の実施
    契約に基づいた産業医活動を実施します。
  3. 小規模事業場産業医活動助成金(産業医コース)の支給申請(1回目)
    必要な書類(6か月分の産業医に支払った費用の領収書等)を添えて、労働者健康安全機構へ助成金の支給申請を行います。
  4. 小規模事業場産業医活動助成金(産業医コース)の支給申請(2回目)
    必要な書類(6か月分の産業医に支払った費用の領収書等)を添えて、労働者健康安全機構へ助成金の支給申請を行います。

保健師コースの流れ

  1. 保健師との契約
    保健師と健診異常所見者や長時間労働者等に対する保健指導、高ストレス者等に対する健康相談、健康教育等の産業保健活動の全部又は一部を実施する契約を締結します。
  2. 産業保健活動の実施
    契約に基づいた産業保健活動を実施します。
  3. 小規模事業場産業医活動助成金(保健師コース)の支給申請(1回目)
    必要な書類(6か月分の保健師に支払った費用の領収書等)を添えて、労働者健康安全機構へ助成金の支給申請を行います。
  4. 小規模事業場産業医活動助成金(保健師コース)の支給申請(2回目)
    必要な書類(6か月分の保健師に支払った費用の領収書等)を添えて、労働者健康安全機構へ助成金の支給申請を行います。

直接健康相談環境整備コースの流れ

  1. 産業医又は保健師と産業医活動等の契約
    産業医と締結する産業医活動契約、又は保健師と締結する産業保健活動契約のいずれかに、契約した産業医又は保健師に労働者が直接健康相談できる環境を整備した条項を含めた内容の契約を締結します。
  2. 直接健康相談環境整備の周知
    産業医又は保健師と労働者が直接健康相談できる環境を整備したことを労働者へ周知します。
  3. 小規模事業場産業医活動助成金(直接健康相談環境整備コース)支給申請 (1回目)
    契約施行開始日から6か月経過後、必要な書類を揃えて、助成金の支給申請を行います。
  4. 小規模事業場産業医活動助成金(直接健康相談環境整備コース)支給申請 (2回目)
    1回目の申請時に対象となった契約期間の最終月の翌月から6か月経過後、必要な書類を揃えて、助成金の支給申請を行います。

労働者の健康管理を行う専門家を活用しよう!

小規模事業場産業医活動助成金は、産業医の選任が義務付けられていない小規模事業場(常時50人未満)に対して、産業医や保健師を積極的に活用してもらうために生まれた助成金です。

産業医によって、労働環境だけでなく、高ストレス者や長時間労働者に対する指導、健康状態のチェックなど、定期的に従業員の健康管理を、専門家の視点から行うことが可能になるので、助成金支給だけでなくメリットも高い制度です。導入を是非検討されてみてはいかがでしょうか。

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