今の新卒採用のポイントの一つ「オヤカク」
「オヤカク」とは、企業が内定を出した学生に対して「自社への入社を親は承諾しているか」を確認する、または企業が内定学生の親に直接連絡を取って説明・確認する行為のことです。
現在の就職活動の現場では、自身の就職に関して、親に確認をとる学生は少なくありません。以前から就職先が決定すればもちろん、親には報告をするケースは一般的でしたが、それはあくまでも「報告」で、相手に何か意見を求める「相談」や「確認」ではありません。
「報告」ではなく「相談」「確認」に変化してきた背景には、就職活動に対する親の関わり方や意識が変わったことが挙げられます。少子化という事象の中で一人っ子が増加し、子供に対する「教育」や「就職」への思い入れが、格段に強くなっている、というのが考えられます。
授業料が数十万円といわれる高額な就職塾が活況を呈している、という例からもその現実が垣間見えます。その授業料を負担しているのは、学生本人ではなく、その親であることは少なくありません。
新卒の就職を主に扱う人材サービス企業・ネオキャリアの調査によると、『オヤカク施策が必要』と考える割合は、企業が58.4%に対して親は32.2%と低い数値ですが、『子供が内定をもらった企業でも、企業によっては内定辞退を促す』と回答した親は22.0%。また、親の意向によって内定辞退があった企業は51.7%にものぼり、新卒での就職活動において親の存在は小さくありません。
出典元『株式会社ネオキャリア』就職活動における「企業」と「親」に関する調査
出典元『株式会社ネオキャリア』就職活動における「企業」と「親」に関する調査
就職白書2018では、内定人数を164とした場合、内定辞退人数は76.4と、約46%もの人が辞退している現状があります。売り手市場の昨今、内定辞退を防ぐことも大きな課題となっています。
オヤカクが求められるようになった背景とは?
本来、自分の意思で入社を決める就職活動において、なぜ「オヤカク」という活動が企業側に求められるのでしょうか。主な背景として、以下が挙げられます。
少子化などで、親が進路に関与する機会が多くなった
少子高齢化社会で労働力が不足している日本において、子供の進路に関心を持つ親は増加傾向にあると言われています。
1970年代前半の第二次ベビーブーム以降、子供の出生数・出生率は右肩下がりのままです。一人っ子や兄弟が少ない家庭も増えた結果、親による進路への関与が強まったとされています。最近のニュースで「貧困」「就職難」というワードが取り上げられるようになり、そういった社会的な負の側面を見て、子供の将来に干渉してしまうというケースも多くなっていると言われます。
「大手企業=安泰」という親世代の価値観
親世代に根強く残る「大手企業=安泰」という価値観が、自分の子供の就職も安定した企業に、という思いを後押ししている背景があります。
スタートアップなどベンチャー企業も珍しくなくなった現在においては、企業の報酬の在り方や福利厚生の内容も変化しています。とはいえ、企業規模などの関係で、大手と比較して、福利厚生がそれほど充実していない中小企業やベンチャー企業もあります。
終身雇用制度や年功序列という制度で就業してきた親世代には、より安定した大手=福利厚生など社員を守ってくれるものがある会社に勤めた方が、生活は安定し保証されるという強固な価値観を持っています。
売り手市場による、就職先の選択肢の増加
第二次安部内閣により、2012年からさまざまな成長戦略を展開する「アベノミクス」以降、日本は比較的安定した経済状況が続いています。
社会や経済状態の安定を受け、採用現場でも就活生の売り手市場となり、内定が取りやすくなったため、選択肢の幅が広がっていることも要因となっています。
「ブラック企業」問題の表面化
長時間労働やパワハラが根強く残る大手企業から中小企業まで、さまざまな業態の企業で就業内容に重大な問題がある「ブラック企業」が、広く指摘されるようになりました。
大手企業であっても労働環境を気にする親が増加し、子供が入社する内定先企業への関心が高まる要因にもなっているようです。
オヤカクの施策内容とは?
「オヤカク」の活動としては、会社情報資料の送付、採用ホームページ内の親向けページの作成、親向けの内定理由通知書と会社案内など資料の送付、挨拶状や電話による連絡、経営者・採用担当者による家庭訪問などが挙げられます。
実際に、贈呈品を持って、家庭訪問を行う企業もあり、その内容は多岐にわたります。
オヤカクを行うポイント
ネオキャリアの「就職活動における「企業」と「親」に関する調査」によると、「オヤカク」施策が必要と考える割合は、企業58.4%に対して、親は32.2%と親の方がオヤカクに期待するレベルは低くなっています。ただ「親が希望する施策」と「企業で必要だと考える施策」とでギャップが存在しており、そこに「オヤカク」実施の大きな問題があることが見て取れます。
出典元『株式会社ネオキャリア』就職活動における「企業」と「親」に関する調査
ギャップが大きいものは順に「企業情報資料を親へ送付」(18.7ポイント)「企業からの電話による挨拶」(11.1ポイント)「企業情報DVDを親へ送付」(10.1ポイント)となっています。
「親が希望する・企業が必要だと考える」全ての項目において、企業側の数字が大きい結果になっており、企業側のオヤカクに対する考え方や対応がセンシティブであることも浮き彫りになりました。
さまざまな側面で両親に自社のことを理解してもらう
「オヤカク」の目的は“親の確認を取る”ことです。入社の承諾を取るだけでは先に挙げたようなトラブルが発生してしまいます。ほとんどのトラブルが、会社側と親とのコミュニケーション不足にあります。
親としては、事業内容や福利厚生はもちろん、働き方や会社の理念、社会貢献活動、会社の経済状況などあらゆる側面で理解してもらう必要があります。企業説明会などで実際に働いている社員の紹介などを行うことで、理解が深まりやすくなります。
内定通知を出した後は“親に入社を承諾してもらう”のではなく、“親に子供が入社する会社を理解してもらう”ということが大切です。会社に対する理解が深まれば、入社の承諾はもちろん、入社とのトラブルも発生しにくくなります。
継続的に、候補者と親の意向を確認し丁寧に対応する
就活生の意思決定において、親の与える影響が大きい兆候が見て取れた場合には、候補者と親の意向の推移を記録し、丁寧な対応をするようにしましょう。
具体的には、一人ひとりの進捗ややり取りに関してしっかりと記録し、定期的にコミュニケーションを取るようにします。現在の自社への関心度と不安な点の洗い出しなどを記録し対応をしていくことで、今後増える可能性がある「オヤカク」に対し、過去事例を踏まえ焦らず効果的な対応ができるようになります。
過度なオヤカクは内定者に不信感を抱かせてしまう
何事もやり過ぎは良くないといいますが、過度なオヤカクはかえって、内定者に不信感を抱かせてしまいます。
オヤカクの対象は内定者の親ですが、あくまで主役は内定者です。オヤカクを行う前には本人にオヤカクの目的や趣旨をきちんと説明する必要があります。過度なオヤカクは「オハワラ(就活終われハラスメント)」と受け取られる可能性もあるので、内定者・親ともにコミュニケーションを大切にする必要があります。
子の就職活動に対する親の考え方として、「自分だけで決めて欲しい」は56.0%、「子供に就職してほしい企業とそうでない企業がある」は56.6%となっており、子供の自主性は尊重するものの、少なからずそこに意見したい親の気持ちがあることが分かります。
出典元『株式会社ネオキャリア』就職活動における「企業」と「親」に関する調査
就職の主役は就活生―親の心配事にも、しっかりと最適なフォローアップを
「周りに流されずに自分だけで決めてほしい」と考える親は56%と半数以上ですが、「しっかりと親の意見も反映して進めるべき」という親も20%弱存在していることが分かりました。
過度な対応は控えながらも、企業情報資料送付などの簡単なオヤカクに加え、内定理由通知書や内定同意書を送るなど、細やかなフォローとコミュニケーションが求められているのが今のオヤカクです。
送付書類については、「ライフワークバランスを重視している」ことや「福利厚生制度の紹介」など、親が気になっているポイントを説明することが効果的であることも押さえておきましょう。