日本には熱意ある社員が6%しかいない
日本には「熱意のある社員」がどれくらいいるか、ご存知でしょうか。
米ギャラップの調査では、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかないことが解ります。この割合は、米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139カ国中132位と最下位クラスです。このような結果は、日本で働く者として残念に思われる方が多いのではないでしょうか。
参考URL『日本経済新聞』「熱意ある社員」6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査
ベイン・アンド・カンパニーとプレジデント社が共同で調査した結果、「やる気あふれる社員」は「満足している社員」よりも生産力が2倍以上あることがわかりました。また「満足していない社員」と比べると、3倍も生産性が高いことがグラフからもわかります。
出典元『PRESIDENT Online』”3人に1人”の不満社員を奮起させるには
アメリカの人事コンサルティング会社KeneXa High Performance Institute(以下、ケネクサ)の「従業員エンゲージメント」についての調査によると、日本は「従業員エンゲージメント指数」が31%で、28カ国中最下位という結果でした。
参考URL『DIAMOND online』世界でダントツ最下位!日本企業の社員のやる気はなぜこんなに低いのか?
ケネクサは「組織の成功に貢献しようとするモチベーションの高さ、そして組織の目標を達成するための重要なタスク遂行のために自分で努力しようとする意思の大きさ」を「従業員エンゲージメント」と定義しています。つまり「従業員エンゲージメント」とは、「仕事に対するやる気」と言い換えることができます。
今回は、自社従業員のやる気や満足度を調査するモラールサーベイについて紹介します。
統計的に従業員の意識調査をするモラールサーベイ
モラールサーベイとは、職場の管理者が自社の従業員の意欲や満足度、問題意識などを調査し、科学的に分析する手法のことです。士気調査、従業員意識調査、社員満足度調査と言いかえることができます。自社の従業員は果たしてやる気があるのか、問題を感じているならばそれは何なのかということを調査し統計学的に数値化して、明らかにしていく手法です。
モラールサーベイでは居酒屋で愚痴を聞くのとはまた違った従業員の本音を確かなデータとして収集することができると考えられます。モラールサーベイは、何を目的として調査を実施するか説明した上で匿名性を保持した状態で回答を求める場合が多く、企業にとって有意義な情報が聴取できるという特徴があります。
モラールサーベイを実施する目的とは?
現場の本音を聞くこと
社員のリアルな本音を収集することです。
どのような規模の組織であっても、経営者、幹部、人事担当者などが従業員一人一人の本音全てを把握していることは、まずないでしょう。飲み会やミーティングで悩みや要望を話しやすい雰囲気を作っていたとしても、対面した状況下でネガティブな発言は出しづらいものです。
モラールサーベイでは基本的に匿名で回答するため、より素直な回答をしやすくなる、どのような小さなことでも問題に感じている点を指摘しやすくなるなどが期待できます。
モラールサーベイをしなければ知ることのなかった従業員の本音に向き合う大きな目的があります。
組織改革に活かすこと
従業員の回答から、特に問題意識があるところ、不平不満の出やすい事柄、放置すると大きなトラブルにつながりかねない課題点などを抽出していきます。その内容が従業員の誤解や我がままのような不平不満であったとしても、見過ごしたり従業員側の問題とみなしたりせず、管理者は謙虚に、誤解が生じた経緯を内省する必要があります。少し辛い作業かもしれませんが、一つ一つの内省と歩み寄りが従業員のやる気の向上、より快適な職場環境づくりなど組織全体の改革につながります。
経営者らが良かれと思って取り組む改革も、唐突に始めると不満が出ます。しかしモラールサーベイにより「〜割の人が〜と回答した」「〜という意見が多かった」と統計的な結果を示しながら説明すると、新たな取り組みへの理解が進みます。両者納得の上で組織改革が進む、これは従業員にとっても経営者らにとっても、モラールサーベイでこそ得られる貴重な利点です。
貢献意欲を高めること
モラールサーベイや調査結果を踏まえた改善取り組みを進めていくと、従業員各々が組織をより良くしようと、貢献意欲を高めることが期待できます。「やる気を出せ」「貢献しろ」とただ言われるだけでは気分は高まりませんが、自分たちが伝えた本音に経営者らがしっかり向き合ってくれる姿勢を見ると、従業員らの組織への愛着は増すことでしょう。
もっと生産性をあげようと従業員自ら積極的に改善したり、長く働きたいと思い離職率が低下したりと、全体にとって好ましい結果へとつながります。このような流れを作ることも、モラールサーベイを実施する目的です。
モラールサーベイで質問すべき5つのカテゴリーとは
モラールサーベイの実施にあたり、どのように問題を構成すべきでしょうか?参照すべきは「自己実現理論」で有名な心理学者アブラハム・マズローが提唱した「人間の欲求5段階説」です。
「人間は自己実現に向かってたえず成長する」という仮説のもと、ピラミッド状の5つの階層で示しています。人間はまず第一段階の欲求が満たされてこそ、次の欲求を抱くと考えられています。
例えば身の危険が迫る中で将来の夢のことは考えにくいですが、安全が確保され人との繋がりから充実感を得ている時であれば、未来のことを考える余裕が持てます。段階的な5つの欲求カテゴリーに添って、設問を構成するのがお勧めです。
- 生理的欲求・生存欲求
現在の給与への満足度、通勤時の問題の有無、プライベートな時間への支障の有無 - 安全欲求
危険な業務への意識、取り組み不足の指摘、働く環境の快適度、休みの取りやすさ - 社会欲求
人間関係不和の有無、相談できる相手がいるか、社内外の人間関係やコミュニケーションの程度 - 承認欲求・自我欲求
自分は適切に評価されていると思うか、自身の長所と業務内容がマッチしていると思うか - 自己実現欲求
今後のこの会社で仕事したいか、何が改善されると仕事を一層好きになりそうか
これらの質問で従業員の仕事に対する意欲を確認したいことは確かですが、まずは従業員の立場で考えることも大切です。「仕事」と一言でいっても「通勤時間の長さや満員電車が苦痛で仕事が憂鬱」「業務内容は好きだけど上司がかなり苦手」など仕事に関する問題意識や意欲につながるポイントは無数にあります。それらを丁寧に聞いていく必要があります。
従業員のためのモラールサーベイを実施しよう
モラールサーベイとは、従業員意識調査とも呼ばれる、従業員が抱える問題意識ややる気に関する現場の声を調査し、統計的に分析する方法です。従業員の思い・気持ち・考えといった目に見えない抽象的な物事を、具体的な概念への落とし込み、数値化して調査検討することで、取り組むべき施策が明確になります。
従業員のイキイキ度は、顧客満足度、企業の成長にもつながる重要な事柄です。経営者側にとっては辛辣な意見が寄せられる可能性も高く、腹をくくった上での調査になるかもしれませんが、従業員に本音を答えてもらってこそ意味があります。本音を引き出しやすい設問の構成、尋ね方に留意し、さらに精度を高めるため複数の質問を設ける必要があります。一方で、回答する従業員の負担への配慮も、忘れてはなりません。
実施には様々に留意すべき事柄があり、何より経営陣の勇気がいるものですが、活用でき企業の成長につながるモラールサーベイを目指しましょう。