M字カーブが改善されている理由とは?日本政府や企業の取り組み

日本における、女性の労働力率で問題視されていたM字カーブ

近年、日本における女性の就労環境の変化とともに、就労する人の数が増加しています。顕著に表しているのが「M字カーブ」と呼ばれる日本特有の現象です。「M字カーブ」とは、女性の生産年齢人口に対する労働力人口の割合を示す「労働力率」を、5歳ごとの年齢階級別でグラフ化した場合、アルファベットの「M」に近い曲線になることをいいます。M字カーブは改善されつつあり、特徴が「台形」により近くなっています。

年齢階級別労働力率の推移
出典元『内閣府男女共同参画局』女性の年齢階級別労働力率の推移

過去の日本では学校卒業後に就業、20代でピークとなったのちに、出産・子育てを迎える30代で底を打ち、子育てが一段落した40代で上昇するという、「M字」を描いており、日本女性の働き方を象徴していました。

30~40歳代の部分が顕著に落ち込むこの「M字カーブ」と呼ばれる特徴が近年薄れ、米国や欧州各国などに似通ってきています。背景には、現政権の「働き方改革」などの国の支援、各企業の努力などによる育児休業など企業側の制度整備が進んだことや、働く意欲を持つ女性の割合が増えたことなどが大きいと言われていますが、待機児童の問題など、その解消は以前道半ばです。

今回は、徐々に改善されてきたといわれている「M字カーブ」の解消の原因とそれによる市場への変化などを掘り下げ、日本における女性の就労全体のこれからについて考察していきます。

M字カーブの推移からみる、日本の女性活躍の現状とこれから

M字カーブの現状

総務省が月下旬にまとめた最新の労働力調査によると、2017年は15~64歳で働く女性が2607万人、男性は3199万人。就業率でみると、男性は83.7%であるのに対して女性は71.6%と、男女間の就業率の差も埋まりつつあります。

景気回復が始まった2012年からこの上昇は加速しており、5年間で6ポイント上昇しています。海外も含め、歴史的に珍しいペースの上昇と言われ、2016年には米国やフランス(ともに67%)を上回ったというのが大きなニュースとして取り上げられています。

別の角度から「M字カーブ」をみてみると、女性を取り巻く社会や環境の変化がわかります。たとえば、M字のボトムは、1975年(42.6%)は「25~29歳」、1985年(50.6%)、1995年(53.7%)は「30~34歳」だったのが、2011年(67.0%)は「35~39歳」へと移行。この背景には、女性の晩婚化や晩産化が影響していると考えられています。

年齢階級別労働力率の推移
出典元『内閣府男女共同参画局』女性の年齢階級別労働力率の推移

25~29歳及び30~34歳で労働力率の上昇が見られる背景としては、女性の進学率の上昇(大学卒などで就業する者が増えてきていること)、未婚化の進展だけでなく、結婚・出産を経ても就業を希望する層が増えていることなどの要因が考えられます。

M字カーブ解消の要因

女性を取り巻く環境の変化~社会変化などによる労働意欲の高まり

総務省の統計で年齢階級別に女性の就業率を見ると、1980年代以降、20代後半~30代前半の上昇が目立ちます。1975年には25~29歳では41.4%、30~34歳では43.0%だった就業率は、2011年にはそれぞれ72.8%、64.2%まで大きく上昇しています。

年齢階級別女性の就業率の推移
出典元『国土交通省』第1節 働き方の変化

女性の就業率の上昇の背景の一つは、女性の労働意欲の高まりがあると考えられています。同じく総務省の統計で、女性の理想とするライフコースを尋ねると「両立コース」(結婚し子どもを持つが、仕事も一生続ける)および「再就職コース」(結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ)を選択する者が2010年時点でそれぞれ30%を超えており、特に両立コースを選択する者については1992年の調査以降一貫して増加傾向にあるなど、家庭と仕事を両立しようとする女性の意欲の高まりが顕著です。

女性の理想ライフコース
出典元『国土交通省』第1節 働き方の変化

M字カーブにおいて労働力率が高まっている25~29歳及び30~34歳の年齢層について、1987年と2007年を比較すると、25~29歳と30~34歳のいずれの年齢区分においても就業率は上昇してます。しかし「正社員」「パート・アルバイト」「派遣社員・嘱託・その他」の雇用形態ごとの就業率を見ると、就業率全体の上昇は「正社員」の増加よりも、「パート・アルバイト」および「派遣社員・嘱託・その他」の増加によるところが大半です。


出典元『国土交通省』第1節 働き方の変化

この数値だけで問題を特定はできませんが、一概に数値が上昇していること=日本の女性の働き方が前進している、とは確定することは誤解を招くところでしょう。

国の政策による後押し

M字カーブが近年改善傾向にある理由としては、国の取り組みによる影響が大きくあります。

先進諸国の中では早くはありませんでしたが、1980年代に「男女雇用機会均等法」を制定以降、近年は特に「女性の活躍」を促進するためのさまざまな法整備を推進しています。

女性活躍推進法

少子高齢化が急速に進み、労働力人口の減少が叫ばれる中、「持続可能な全員参加型社会」を構築するための施策として施行された法律です。

2016年に施行されたばかりの女性活躍推進法は、事業主(国、自治体、企業、学校、病院など)に対して、女性の活躍推進のための数値目標を含む行動計画の策定・公表などが義務づけられました。 ただし、これは従業員301人以上の事業主への義務であり、300人以下の事業主については努力義務となっています。

女性活躍推進法のポイントは、女性活躍に関する自社の情報を公開する義務がある事です。 企業側としては就業希望者に対するアピール材料にもなり、ブランディング等にも影響する事から、自ずと取組みに力を入れるのではないかと期待されています。

一定の基準を満たし、女性の活躍推進の状況が優良な企業には、厚生労働大臣認定を受けられる制度があります。認定マークは「えるぼし」と言い、広告や商品、求人票に使用する事が可能です。

育児介護休業法

2016年改正、2017に全面施行された法律です。

妊娠・出産・育児・介護などが必要とされる時期に、離職する事なく働き続けられる環境を整備するための法律で、子どもの看護休暇が1日単位ではなく半日単位で取得が可能になる、妊娠・出産・育児・介護などを理由とする上司などによるハラスメント防止措置を義務化しています。

マザーズハローワークの整備

「マザーズハローワーク」「マザーズコーナー」は、全国189カ所(2016年7月時点)に設置されている、育児をしながら就職活動を行う人向けのサポート施設です。 キッズスペースなどが完備され、仕事と子育ての両立が可能な求人の提供や、保育所等の情報提供、担当者制の職業相談などを行っています。

参考URL『厚生労働省』子育て中の仕事探しは”マザーズ”で

企業の取り組み(離職防止など)

女性の就労が加速した最大の理由は、企業が離職防止に取り組んできたことだと言われています。

女性の育休取得率はやや低下傾向にあるとはいえ8割超で推移しており、育休中の生活を支える政府の育児休業給付金の受給件数は、平成18年度の131,542件から平成27年度の303,143件へと2倍以上増加しています。

育児休業給付の支給状況

出典元『厚生労働省』雇用継続給付について

ある程度育成をした年代の層の離職は、現場の社員の疲弊も招くリスクがあります。新たな人材を採用するより既存の優秀な人材に投資していくことで得られるメリットは少なくありません。

M字カーブの解消が市場にもたらす影響とは?

M字カーブの解消について、大和総研の鈴木準政策調査部長は、25~44歳女性の就業率については「このままのペースで上昇すれば2022年には80%に到達する」と意見しています。

参考URL『日本経済新聞』M字カーブ「谷」緩やかに 30~40代女性の離職歯止め

国立社会保障・人口問題研究所の試算をもとに計算すると、2022年に25~44歳女性の就業者数は2016年と比べて200万人以上減る見通しですが、就業率が80%に上がることで減少幅は46万人と算出されています。政策努力などでさらに比率を高めることができれば、日本社会全体の労働力の減少を食い止めることができるかもしれない、いう意見もあります。

しかし、楽観的な見方を戒める声も目立ちます。第一生命経済研究所の柵山順子氏は「M字カーブの完全解消には保育所不足などがハードルになるでしょう」と分析。ここ数年で女性の就労が政府の想定以上のテンポで進み、待機児童は減少するどころか2万6千人強に膨らんでいるのが現状です。政府は22万人の保育枠を追加整備する方針ですが、都市部の整備が遅れるミスマッチを解消するのは一朝一夕には難しいと、多くの専門家は指摘しています。

参考URL『日本経済新聞』M字カーブ「谷」緩やかに 30~40代女性の離職歯止め

M字カーブ解消に向けてー企業がするべき対応とは?

生産年齢人口の急激な減少が進む中で女性の就労をさらに後押しするには、企業のより一層の取り組みも重要です。

経済成長の土台を確かなものにするにはM字カーブを解消し、労働力を底上げするのは理想的な方向です。とはいえ、家庭の収入が低迷するなどで就業を希望していないにも関わらずパートタイマーとして働く層もいまだ多く、賃金の伸びは低迷しています。

日本の経済全体を考えたとき、ただ労働力率を高めることだけに注力するのではなく、働き方自体の「質」を高めていくことが今、企業の側にも止められています。
さらに女性の就労を後押しするには育児休業などの整備を加速させるのはもちろん、生産性向上と賃上げなどで積極的に働き手に報いる努力が不可欠でしょう。

離職者向けの再就職支援、学び直しの機会の提供など、あらゆる方向から手立てを講じることも欠かせません。

M字カーブの解消を自社の中で展開するために

M字カーブが解消されつつあり、離職しがちであった30代が育児をしながら働ける環境を構築することは、企業がよりよい人材を勝ち得るために何よりも求められることです。

育児などがキャリアダウンの要因になること=「マタハラ」とも捉えられるケースもあるため、対象の人材のキャリアをいかに構築していくべきか、仕組みも全方位的に構築していく必要もあります。社内制度を整えた上で、多くの女性が仕事選びのポイントにする「人間関係や社内の雰囲気」についても、しっかりと環境を整えておくことも必須です。

「M字カーブ」の現象に関しては、単体の企業の取り組みで変化できるものではありません。女性の活躍できる環境作りを推進する中で、常にウォッチしておくべきポイントの一つではあります。多くの企業の取り組みと国のサポートが、女性の働き方をより輝かせると同時に、日本社会全体をより活性化させることにつながるのです。

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