「M字カーブ」は緩やかに「台形」に近づく
女性が出産や育児によって職を離れ、30代を中心に働く女性が減少する「M字カーブ現象」。さまざまなメディアや国際比較などで長らく、日本に特徴的なワークスタイルの問題と言われてきました。
出典元『内閣府男女共同参画局』女性の年齢階級別労働力率の推移
M字カーブが近年、改善されつつあります。この背景には、現政権の働き方改革での「女性の活躍推進」に関する方針があり、「育児休暇制度」「テレワーク(リモートワーク)」「時短勤務」などさまざまな働き方が推奨されるようになったことが一因でもあります。
企業の多くでもその国の動きに先んじて、それぞれの企業の業態に合わせて、産休・育休・介護休暇の設定や、フレックス制、リモートワークを実践しています。女性を取り巻く環境が整備されるのと並行して、社会情勢が変化する中で、女性がより活躍できる仕事の増加なども要因としてあると言われています。
女性の活躍度合い=労働力としてみなされる女性の割合を示すグラフをみたときに、30~40歳代の部分が顕著に落ち込む「M字カーブ」が薄れ、米国や欧州各国の数値に近づいています。
今回は「M字カーブ」が発生したそもそもの原因や、国際社会からみた日本の女性の働く現場の現状などについてご説明します。
なぜ日本特有の「M字カーブ」は生まれたのか?
背景と変遷を見る
M字カーブが発生していた原因や理由
長らく日本の女性は、結婚や出産後は家庭に入り、仕事を退職することが慣例とされてきました。日本女性の労働力率は学校を卒業・就職した「25-29歳」頃にピークとなり、その後出産・育児などに専念するため「30-34歳」で底を迎えます。 そして、子育てが一段落する「45-49歳」で再びピークを迎える「M字カーブ」が描かれてきました。
平成13年と古い調査ですが、内閣府によると、第1子出産に伴い仕事を辞める割合は7割にもなるとの報告がされています。仕事と育児の両立が難しい現状を表した結果とも言えます。
労働力比率を国際比較で見てみると、「M字カーブ」を描いているのは日本と韓国だけです。ドイツやスウェーデン、米国では「逆U字型」と呼ばれる曲線で、一定の年齢層で労働力率が下がることはほぼありません。 背景には、女性の働き方に対しての柔軟性が高いことや、国や地域の子育て支援の環境が整っている事などが考えられています。
出典元『内閣府男女共同参画局』女性の年齢階級別労働力率(国際比較)
日本における「M字カーブ」の変遷
女性の年齢階級別労働力率について、昭和50年頃は25~29歳(42.6%)がM字の底となっています。平成24年では齢階級別で最も高い労働力率(77.6%)となっています。この時期、35~39歳(67.7%)の年齢階級がM字の底となっていますが、30~34歳の年齢階級と共に30代の労働力率は上昇しています。
出典元『内閣府男女共同参画局』女性の年齢階級別労働力率の推移
現在でもまだ「M字カーブ」の傾向は続いていますが、カーブは以前に比べて浅く、より「台形」に近い形状になっており、M字の底となる年齢階級も上昇しているのが見て取れます。「15~19歳」については、大学等への進学率の高まりを受けて、労働力率は低下傾向にあります。
M字のボトムが、徐々に変化(1975年(42.6%):「25~29歳」→1985年(50.6%)、1995年(53.7%):「30~34歳」→2011年(67.0%):「35~39歳」)していますが、女性の晩婚化・晩産化が影響していると考えられています。
25~29歳および30~34歳で労働力率の上昇が見られる背景は、大卒人材の増加や、未婚化の進展などでより長期的な就業を希望する人が増えてきていること、結婚・出産後も就業を希望する人材の増加などが考えられています。
M字カーブが改善した背景 / 国と企業の取り組み
M字カーブが近年改善傾向にあるのは、国の取り組みは大きく関係しています。
先進諸国の中では対策は遅れ気味でしたが、1980年代に「男女雇用機会均等法」を制定以降、近年は特に「女性の活躍」を促進するためのさまざまな法整備を推進しています。
国の取り組みについて
女性活躍推進法
少子高齢化が急速に進み、労働力人口の減少が叫ばれる中、「持続可能な全員参加型社会」を構築するための施策として施行された法律です。
2016年に施行されたばかりの女性活躍推進法は、事業主(国、自治体、企業、学校、病院など)に対して、女性の活躍推進のための数値目標を含む行動計画の策定・公表などが義務づけられました。 従業員301人以上の事業主への義務であり、300人以下の事業主については努力義務となっています。
女性活躍推進法のポイントは、女性活躍に関する自社の情報を公開する義務がある事です。 企業としては就業希望者に対するアピール材料にもなり、ブランディング等にも影響する事から、自ずと取組みに力を入れるのではないかと期待されています。
一定の基準を満たし、女性の活躍推進の状況が優良な企業には、厚生労働大臣認定を受けられる制度があります。この認定マークは「えるぼし」と言い、広告や商品、求人票に使用する事が可能です。
育児介護休業法
2016年改正、2017に全面施行された法律です。
妊娠・出産・育児・介護などが必要とされる時期に、離職する事なく働き続けられる環境を整備するための法律で、子どもの看護休暇が1日単位ではなく半日単位で取得が可能になる、妊娠・出産・育児・介護などを理由とする上司などによるハラスメント防止措置を義務化しています。
マザーズハローワークの整備
「マザーズハローワーク」「マザーズコーナー」は、全国189カ所(2016年7月時点)に設置されている、育児をしながら就職活動を行う人向けのサポート施設です。 キッズスペースなどが完備され、仕事と子育ての両立が可能な求人の提供や、保育所等の情報提供、担当者制の職業相談などを行っています。
企業の取り組みについて
国の政策が進む以前から、積極的に女性のワークスタイルを応援してきた企業は多くあります。詳細は別途ご紹介したいと思いますが、企業が導入している女性の活躍推進に関する施策は主に以下のようなものが挙げられます。
- 女性管理職の積極的な登用
- 育児休業制度、短時間勤務制度の充実
- 在宅勤務制度、フレックスタイム制の導入
- 女性の社内ネットワークの充実
- 個別相談窓口の設置
- ダイバーシティ推進研修、キャリア開発研修の実施
参考:アベノミクスの成長戦略
2020年に向けて女性活躍の指針発表
M字カーブが緩やかになり解消に向かう過程には、アベノミクスの成長戦略における、女性の社会進出が重要課題となった事も影響しています。 安倍総理が2013年に行ったスピーチでは、女性の活躍推進について以下の目標が掲げられました。
- 2020年に25-44歳の女性就業率を73%に(2012年時点では68%)
- 2020年に第1子出産前後の女性の継続就業率を55%に(2010年時点では38%)
- 2020年に管理職の女性の割合を30%程度に(2012年時点では11%)
- 2017年度までに保育の受け皿を約40万人分確保
- 子どもが3歳になるまで育児休業期間を延長
参考URL『首相官邸』安倍総理「成長戦略スピーチ」
雇用が110万人増加
成長戦略発表後、2016年に安倍総理が「この3年間で雇用が110万人増加した」と発表しました。2016年の調査では女性雇用者数は前年より、38万人増加しています。 男性は7万人増、と比較すると女性の伸び率の高さが顕著です。女性の雇用者が増えたのは主に「医療・福祉」産業で、急速な高齢化などによる医療福祉分野での需要拡大が理由として挙げられます。
賃金、待遇、男女間格差の解消…etc 全体最適を考え行動するために
M字カーブは改善されつつあり、「女性の活躍推進」などの良い部分もあれば「共働きしなければ子育てできない」などの賃金の問題も依然として大きな要素です。各企業においては「働きやすい環境づくり」はもちろんのこと、結婚や妊娠・出産に伴う「女性のキャリア」や「男性や子供のいない女性」などからのマタハラなどにも真剣に考える必要があります。
売り手市場が加速し労働力不足が懸念される中で、女性だけでなく従業員一人一人と向き合う姿勢は、今後必ず、企業をより活力ある組織に変化させていくことでしょう。