組織のメンタルヘルス対策の重要性とは
仕事のストレスは、労働者にとっての心身の健康のためだけでなく、組織にとっても組織の健全な経営にかかわる大きな懸案事項です。
職場でのストレスの増加に伴い、自殺関係の訴訟や精神障害の労災請求など、メンタルヘルスの問題が増加しています。メンタルヘルスの問題は、組織の労働生産性を低下させます。
独立行政法人の労働政策研究・研修機構が実施した調査では、企業が考えるメンタルヘルス不調を起こす原因としての項目において、1位が「本人の性格の問題」で67.7%、2位が「職場の人間関係」で58.4%、3位が「仕事量・負荷の増加」で38.2%という結果でした。
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研修機構』「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」結果
1位の「本人の性格の問題」は、入社前の採用選考で判断すべき内容です。心理学研究の知見によると、人間の性格や価値観は変化しづらいとされているためです。2位の「職場の人間関係」や3位の「仕事量・負荷の増加」は、組織のメンタルヘルス対策により改善できます。
メンタルヘルスケアの担い手として重視される立場の1位は「職場の上司や同僚(配属や採用)」で、2位が「人事労務部門」となっています。
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研修機構』「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」結果
人事労務部門は、採用選考時に「本人の性格の問題」を見極めるだけでなく、良好な「職場の人間関係」を築ける人材を見極めることで、メンタルヘルスケアを実施できます。良好な「職場の人間関係」を築ける配属先を見極めることで、メンタルヘルスケアを実施できます。
社員のメンタルヘルス対策には、管理職の関わりも欠かせません。今回は、職場の上司などの管理監督者が行う取り組みとして重要な「ラインケア」についてご説明します。
ラインケアを組織で実施するメリットとは?
ラインケアとは、事業管理者や各部署の管理職が部下の心の健康をケアし、職場環境を改善するメンタルヘルス対策のことです。
厚生労働省が2006年に発表した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、職場におけるメンタルヘルスケアを推進するために設定した「4つのケア」の内の1つが「ラインケア」です。
4つのケアには「ラインケア」の他に、労働者がストレスを正しく理解し対処するための「セルフケア」、セルフケアやラインケアが効果的に実施されるよう支援する「事業場内産業保健スタッフなどによるケア」、情報提供や助言を受けるなどのサービスを活用する「事業場外資源によるケア」があります。
ラインケアを実施する重要性とメリットについて
ラインケアは「企業のリスクマネジメント」だけでなく「組織の健全化」にも効果的です。
企業のリスクマネジメント
ラインケアは、企業のリスクマネジメントにも重要な役割を果たします。組織の管理者には指揮・命令を行う権限がある代わりに、労働者の心身の健康を守る義務「安全配慮義務」が、労働契約法により課されています。
メンタルヘルスに問題がある社員がいる場合、企業側が「安全配慮義務」に違反していたと判断される可能性があります。労働契約法に違反しないためにも、総合的なメンタルヘルス対策であるラインケアが重要とされるのです。
組織の健全化
ビジネス環境において、納期の設定や難易度の高い仕事などのストレスはつきものです。
ある程度のストレスは、組織全体の生産性や能力を高める大切な要因です。しかし過度なストレスを抱える環境では、社員が高いパフォーマンスを発揮し続けることが困難になります。
ラインケアが機能すると、社員は過度なストレスから解放され、自分の業務に専念できます。過度なストレスから開放されることで、誰もが積極的に意見するなど、コミュニケーションが活性化されて、健全で風通しの良い職場を作ることができます。
ラインケアを実施するために準備することとは
ラインケアを行うためには、職場のストレス要因と部下のメンタルヘルス状態を把握し、部下から自発的に相談しやすい環境を作ることが重要です。
職場環境を改善する5つのステップについて
ストレス要因には、職場環境が大きく影響します。職場環境とは、業務内容だけでなく、職場の照明や温度などの外的環境やオフィスレイアウト、指揮命令系統などの外的環境も含まれます。
職場環境の改善は、人事部をはじめ管理監督者、社員一人ひとりが取り組みが大切です。職場環境の改善には、専門家の指導を受ける、職場上司や労働者が自主的に活動するなど、さまざまな方法があります。
出典元『厚生労働省 こころのみみ』e-ラーニングで学ぶ15分でわかるラインによるケア
「いつもと違う」部下の把握
ラインケアを行うためには、管理監督者が「いつもと違う」部下に早く気付くことが大切です。
「いつもと違う」印象は、真面目だった部下が遅刻や無断欠勤を繰り返すなど「過去の行動様式からズレた行動」から気付くことができます。
変化した部下の言動に素早く気付くためには、日頃から部下に関心を持って接しておき、普段の行動や人間関係などについて把握しておく必要があります。
相談しやすい環境を作る
部下が自発的に相談しやすい環境や雰囲気を整えることで、メンタルヘルス不調が起きる前にラインケアを行えます。
部下が残業過多などで過労状態にあったり、強いストレスを伴う出来事を経験した場合などは、管理監督者から積極的に声をかけて「あなたを気にかけている」ことを示すと、部下にとって相談しやすい雰囲気を作れます。
経営者や管理職に求められる行動とは
部長・課長等の管理監督者は、事業主から委譲された権限によって、部下に指揮命令をして業務を遂行したり、部下の評価をしたりしています。
管理監督者には、部下の健康を守る義務も課されています。部下の健康を守るためには、部下の健康状態を把握することが必要です。
管理監督者が遂行するラインケアには、大きく分けて「職場環境の把握と改善」と「部下からの相談への対応」の二つがあります。
職場環境の把握と改善
管理監督者は、部下が身を置いている職場環境や勤務形態、職場組織が適切に機能しているかを把握・評価し、必要に応じた見直しを図ることが求められます。部下の勤怠を把握し、仕事に関する問題がないかを聞き取るなどして、職場のストレス要因を把握しましょう。
チーム全体の一人ひとりに対して、過度な長時間労働や心理的負荷などが生じないように、個々の能力や適性、職務内容に合わせた配慮を行うことが必要です。
部下からの相談への対応
管理監督者は、日頃から部下を観察し、長時間労働で疲労の蓄積がないか、過度な心理的負荷やトラブルを抱えていないかなど、必要であれば声をかけるなどの配慮が求められます。個別に対応するときは、相談を受ける機会を設けて、じっくり話を聴くように心がけましょう。
管理監督者自身からの指揮命令系統にストレスを感じているケースもあるため、部下一人ひとりとの接し方にも配慮する必要があります。
ラインケアの重要性やメリットを確認しよう
ラインケアとは、メンタルヘルス対策として企業が取り組める施策の一つです。労働契約法で安全配慮義務が課せられているため、ラインケアを怠ると、最悪の場合は労働契約法違反による罰則を受ける可能性があります。
管理監督者は、普段から従業員とコミュニケーションをとり、従業員それぞれの個性や労働環境などを把握した上で、相談対応やフォローを行うことが重要です。的確なフォローを行うためには、部下一人ひとりとの接し方に正しい配慮が必要になります。
ラインケア研修を管理者研修の一貫として取り入れ、社内のメンタルヘルス対策に取り組むことで、リスクマネジメントや職場環境の改善に役立ててみましょう。