外国人労働者の増加と外国人採用の実態
外国人労働者数は増加傾向にあります。内閣府の「『外国人雇用状況』の届出状況表一覧((平成28年10月末)」の報告によれば、国内の外国人労働者は2012年以降、加速度的に増えており、2017年には約128万人(2016年比18%増)となっています。
外国人採用を行う事業所はまだ多くはありません。総務省統計局によると平成28年の事業所数は約558万事業所と報告されていますが、厚生労働省の調査では外国人を雇用している事業所は約17万事業所であるため、実際に外国人を活用している事業所は3%にとどまります。
出典元『厚生労働省』今月の特集 日本で安心して働いてもらうために 外国人雇用Q&A
First Advantageが各国の採用候補者を対象に実施したスクリーニング調査によると、日本における経歴詐称率は5.47%と諸外国と比べて低い水準にあるものの、日本人が「真面目で嘘をつかない」というわけではなく、「経歴を詐称するインセンティブがない」ことが理由として考えられています。「経歴を詐称するインセンティブがある」文化で育った外国人人材においては、経歴詐称などが起こるリスクについても理解しておくことが大切です。
出典元『Japan PI』海外の採用事情 経歴詐称が多い国・少ない国ランキング 日本は何位?
外国人労働者を採用するためには、日本人労働者と異なる点が多々あります。例えば就労ビザなどの手続きですが、それ以外にも多くの手続きが必要となります。
手続きに不備があった場合には、内定を出したのに採用できなくなるだけでなく、最悪の場合は「不法就労助長罪」で3年以下の懲役・300万以下の罰金の可能性もあるのです。
今回は外国人労働者の手続きについてお伝えします。
外国人採用におけるステップで必要な手続きとは
手続きの各ステップごとにどんな手続きが必要なのか、概要や注意点についてご紹介します。
1.募集段階
人材紹介会社やハローワーク等様々な媒体を使用して募集をかけます。
注意点は、まず外国人労働者が従事する業務内容・賃金、労働時間、就業場所、労働契約期間、労働・社会保険関係法令の適用に関する事項について、書面の交付等できちんと明示することです。国外に居住する外国人労働者の人材紹介を受ける場合には、許可または届出のある職業紹介事業者からきちんと受けるものとし、職業安定法または労働者派遣法に違反する業者からは斡旋を受けないようにする点も注意しましょう。
求人の申込みを行うに当たり、国籍による条件をつける等差別的取扱いをしないよう留意してください。
2.内定(合格)
内定を出そうと考えている外国人労働者がいましたら、在留カードの提示を求め、現在持っている在留資格の確認をしましょう。不法就労は法律で禁止されています。
不法就労は、不法就労した外国人だけでなく、不法就労させた事業主も処罰の対象となります。特別永住者の方を除き、在留カードを持っていない場合は、原則として就労させることはできません。「留学」「研修」「家族滞在」「文化活動」「短期滞在」の在留資格をもって在留している方についても、資格外活動許可を受けていない限り就労できませんので必ず確認が必要です。
外国人労働者の雇入れ・離職の際には、ハローワークへの届出が必要です。ハローワークに届けることで、雇用環境の改善や事業主の方への助言や指導、離職した外国人への再就職支援を行っています。
不法就労の防止のためにも忘れずに外国人の在留資格などを確認を行いましょう。
3.雇用契約書の取り交わし
内定を出したら「雇用契約書」を作成しましょう。
入国管理局に就労ビザの許可申請をする際、採用する企業と外国人の雇用契約が適法に締結されていることが前提となります。雇用契約書は、就労ビザを申請する際に必要な書類の1つですので、就労ビザの申請前に作成しておく必要があります。基本の雇用契約書の作成方法は日本人との雇用契約書と同じですが、下記の点は注意が必要です。
- 外国人の母国語の雇用契約書も必要があれば用意する。
- 雇用契約書の「業務内容」欄は、外国人の学歴や職歴に関連する採用職種でないとビザが取得できない。
- 雇用契約書に「この雇用契約は日本で就労可能な在留資格の許可及び在留期間の更新を条件として効力を有する。」と追記する。
雇用契約書には就業する上で大切なことが書かれていますので、お互いにきちんと理解することが重要です。日本語にまだ不慣れな方に対してはトラブル防止のためにも母国語での契約書を作成してあげましょう。
雇用契約書は就労ビザと異なるものであるため、就労を約束するにはビザ前提である旨は記載しておきましょう。
4.就労ビザ申請手続き
就労ビザは会社の所在地を管轄する入国管理局に申請します。
就労ビザの審査には、1か月~3か月程度かかります。もし外国人が日本にまだ滞在していなければ在留資格認定証明書は発行されてから「3か月以内」に日本に入国しなければ無効になってしまいますので、採用から入国予定日までに期間があくときは、申請の際に入国予定日を入国管理局に伝えて、在留資格認定証明書の発行時期を調整してもらうことが必要です。
就労ビザの申請手続きのポイントは、企業の事業規模や事業内容、採用する外国人が従事予定の業務内容と本人の学歴・実務経験との関連性などを入国管理局へ客観的に証明することです。個別の具体的な事情によっては、理由書などのさまざまな書類を求められることがあるので注意が必要です。
それぞれのパターン別に就労ビザの手続きについてみていきましょう。
海外から外国人を呼び寄せて採用する場合
- 「在留資格認定証明書」の交付を申請
- 「在留資格認定証明書」を本人に送付、続いて本人がビザの申請
発行された「在留資格認定証明書」を、海外に在住している外国人に送付し、外国人本人が、「在留資格認定証明書」と他の必要書類を揃えて自国の日本大使館もしくは総領事館へ持参し、ビザの申請をします。
- ビザが発行され、本人が来日可能
ビザ発給後に来日することで、企業で就労を開始することが可能となります。
日本国内にいる外国人を採用する場合
- 現在の「在留資格」と新しい業務の照合
内定の際、在留資格の確認をしていると思いますが、「資格内」の活動内容と新しい業務内容の照らし合わせをします。現在の在留資格内で可能な活動内容と新しい業務内容との間に齟齬がある場合、在留資格の変更手続きをする必要があります。
- 入国管理申請手続き
外国人が転職をして元の契約が終了・新たな契約の締結があった場合、終了・新規両方の契約について入国管理局に「契約機関に関する届出」を提出する必要があります。
5.受け入れ体制の準備
外国人に早く会社に馴染み、活き活きと働いてもらうには、受け入れる体制をきちんと整えることが重要です。
社内全体に外国人採用について周知しましょう。会社がなぜ外国人を採用するのか、その先にどのような目標があるのかを社員が共有することで、目的意識がはっきりとし、受け入れ姿勢が整います。
もしも外国人採用に否定的な社員がいれば面談の時間を設け、先入観や誤解がある場合は誤解を解いていく努力も対応できるので、まずは社内の社員にきちんと広報していきましょう。
6.入社、継続して働くために
続いて働きやすい環境を整えることも大切です。言葉の壁でコミュニケーション不足やトラブルに発展するケースもありますので、必要であれば第二言語の資料やマニュアル等を用意しましょう。
異文化を理解しようとする姿勢や、多様性を認めようという柔軟な企業風土を育てることも非常に重要です。各国の宗教の慣習に柔軟に対応する会社も増えており、例えばお祈りの場所や時間を設けたり、社員食堂ではメニューの選択肢を増やすなど、特定の食材が食べられない外国人にも対応する、などの策を取るなど多様性に対して臨機応変に対応していくことも求められているでしょう。
国籍や言語関係なく、会社と一従業員としてきちんと説明、理解を得ることが大切
外国人採用において増える手続きは「就労ビザ」関係の手続きで、仮に違反した場合は懲役や罰金が課せられる可能性があります。
それ以外の「求人」や「入社手続き」についても、日本人労働者同様の手続きにはなるものの外国語対応などを行う必要が出てきます。あくまで国籍や言語関係なく、会社と一従業員としてきちんと説明、理解を得ることが大切となります。入社後も長く就業してもらうために文化や考えに配慮しつつ一人ひとりに寄り添った対応が望ましいでしょう。