コンピテンシーモデルは効果がない?片手間にはできない設計と運用
企業の中で注目されているコンピテンシーですが、活用には有用な「コンピテンシーモデル」を作成することが肝要です。
コンピテンシーモデルとは、複数のコンピテンシーを体系的に整理し、その役割や業務内容によって組み合わせたものを指します。ひとつひとつの行動特性が「コンピテンシー」であり、それらを部門・職種や等級・職位といった単位ごとにまとめたものが「コンピテンシーモデル」ということなのです。
コンピテンシーモデル設計には多くの労力がかかるのに対し、効果が出にくいモデルになってしまうことも、企業の現場でたびたび起こっています。
コンピテンシーモデルを活用してもうまく効果がでない背景には、どういった理由・原因があるのか、詳しく説明していきます。
コンピテンシーモデルの運用時に効果が出ない理由とは?
コンピテンシーモデルの効果が出ない理由として、主に6つの理由が挙げられます。
- 環境に適したモデル設計ができていない
- 自社の目的に合ったモデル設計にできていない
- モデルを設計するのに時間と手間がかかる
- 初期段階から高いレベルの結果・アウトプットを求めてしまう傾向にある
- 「コンピテンシー」だけに頼ってしまう
- 構成要素の選定が適切にできていない
この6つの理由について、一つ一つ掘り下げていきます。
1.環境に適したモデル設計ができていない
(モデルのアップデートができていない)
変化のスピードが年々加速している現代のビジネス環境において、その時その時の時節に適した「コンピテンシーモデル」が求められていることは明白です。過去に流行ったものの焼き直し的なものではなく、最先端な組織モデルや考え方などのフィルターを通して人材を見ることで初めて、新時代のリーダーを特定できます。
アップデートを適宜行っていないと、せっかく構築したモデルも全く使えない無用なものとなってしまいます。
なお、モデルのアップデートが適した形・時期で実施されることで、以下のようなメリットが得られます。
- それぞれの職務の「成功要件」が明確に定義される
- パフォーマンスの測定方法が容易になるのと比例して、フィードバックの質も向上する
- 適材適所な人材の採用を実現できる
- 人材戦略=経営戦略の形式が一貫性を保つことができる
これの裏付ける調査として、外資系の人材コンサルティング会社『コーン・フェリー』が、高業績企業の70%は、2~3年に一度の割合で、コンピテンシーを更新しているという結果を発表しています。
参考URL『Harvard Business Review』コンピテンシー評価で成果が出ない企業には何が足りないのか?
コンピテンシーをアップデートする一般的な手法は、経営陣による「タレント・レビュー」を用いる手法です。経営戦略と人材戦略を整合させるプロセスの一環で、運用しているコンピテンシーの妥当性を検証・随時修正を加えていきます。ケースバイケースで、根本的な構築ごとやり直しになることもあり、マイナーチェンジで進めていくなど、アップデートの方法はさまざまです。
いずれにしても、日々変化する事業環境において、時節をとらえた「コンピテンシーモデル」を運用していくこと、そのために定期的な見直しが必要である、ということは押さえておくべきポイントです。
2.自社の目的に合ったモデル設計にできていない
業務を遂行して成果を達成するうえで鍵となるコンピテンシーは、組織や事業形態によってさまざまです。「コンピテンシーモデル」を構築する場合は、このような事業環境の特性を十分に意識して分析することが大きなポイントとなります。
たとえば、ある領域への新規参入を検討している場合には、より多くのコンピテンシーが求められるでしょう。また、海外で事業展開する場合に必要となってくるコンピテンシーは、国内で事業を展開しているときと同じではありません。
コンピテンシーは「結果(成果)に直結する能力・タレント」と定義されていますが、ここでいう「成果」や「能力」は、業種や職種、エリア(環境)、時代などによって異なる、ということは重要なことなのです。
同業他社と同じコンピテンシーになることは稀であり、1でも説明しましたが、自社であっても目的が変わることでコンピテンシーは異なります。
3.モデルを設計するのに時間と手間がかかる
「コンピテンシーモデル」は『職務遂行能力』などのように、汎用性のモデル・形式がないため、それぞれの企業にマッチするようなモデルに構築するのに、物理的な時間やコスト、労力がかかります。
環境変化や新規事業への参入などにより、モデルを再設計したり新たに構築するなどのメンテナンスも必要です。さらにコンピテンシーを「評価」に用いる際は、部門・部署などの組織や職位ごとに異なるコンピテンシーを設けるケースが多いため、評価する側は使いこなすまでにある程度の時間と労力がかかります。
4.初期段階から高いレベルの結果・アウトプットを求めてしまう傾向にある
(段階的かつ目的に即した内容にする必要がある)
コンピテンシーの構成要件にはそれぞれのレベルがあり、全てのレベルでハイレベルな結果を求めることに意味はありません。
グローバルで多くの企業で導入されているとされる『WHOコア・コンピテンシー』でも、マネジメントやリーダーシップなど、それぞれの役割や必要な能力領域によってコンピテンシーは分類されており、各々のレベルや目的に合わせて導入・運用していくことが重要です。
評価の段階では、最低これだけは備えてほしいとする最低の要件と、ハイパフォーマーのコンピテンシーに分ける方が望ましいとされています。
導入の際の規模感や目的などにより展開はさまざまですが、コンピテンシーモデルを組織全体に導入するときは、特に綿密な計画と内容の細分化、適切な項目選択は欠かせません。
5.「コンピテンシー」だけに頼ってしまう
コンピテンシーは過去、「魔法の手法」と言われたこともありますが、決して万能ではありません。人事領域(採用方法や評価制度など)のすべてをコンピテンシーモデルに反映していくことが、自分の会社にとって適正なことなのか、その目的やゴールと照合して考えることが必要です。
たとえば、上述したコーン・フェリー・グループとPDI社が、40年以上にわたる研究調査から導き出した『KF4Dモデル』という人材評価軸があります。
出典元『Harvard Business Review』コンピテンシー評価で成果が出ない企業には何が足りないのか?
KF4Dモデルは、コンピテンシーに加えて本人の「性格特性」「動機付け要因」「経験」という、キャリアに重大な影響を及ぼす四つの側面から人物を総合的に測るもので、『Whole Person Approach(全人格アプローチ)』とも呼ばれています。
個人の採用や昇進・昇格、能力開発、コーチングといった局面で人物を評価する際に、KF4Dモデルのような、全方位的なモデルを当てはめることで、より精緻に個人の能力を測定することが可能となります。
「汎用的なコンピテンシーモデルに意味はあるか」という素朴な疑問を持たれる方も多いと思いますが、それでいうと、活躍するリーダーには地域や環境に関係なく、共通の言動があることが、調査の結果から明らかにされています。
「成功要素」を共通要素として抜粋し、一つの参考として標準化することには意味があると言われています。言い換えれば、汎用性の高いコンピテンシーモデルは、グローバルで活躍するリーダーが身に付けるべきスキルの基準であるということです。コンピテンシーの理解と実践は、あらゆる能力開発施策のベースとなるものなのです。
6.構成要素の選定が適切にできていない
よくある問題として挙げられるものです。そもそも肝となる「構成要素」が適切でない、というパターンです。
コンピテンシーモデルを導入する際には、目標を明確にして、項目を具体的に絞り込む、というステップを踏みます。たとえば「収益アップ」を目標にするとき、売上の金額を伸ばすのか、新規の顧客数を増やすのかで、行動は変わってきます。
漠然と「収益アップ」のような、解釈の自由度が高い項目で設定してしまうと、項目の数は多いけれど具体性のないものになり、意味のないモデル設計になってしまいます。
項目を決定する際はチーム全体で客観的に行うことも重要です。経営者やマネージャーなどが、自分たちの経験測や好ましい人材像を念頭に項目を抽出するなど、選定の手法自体が偏ってしまっては意味がありません。
「コンピテンシーモデル」を上手く活用するためには
コンピテンシーモデルがそもそも何なのか、どう活用していくことが自社として適当なのかを正しく理解することが、活用以前に必要なポイントです。
多くの労力と時間を費やして構築したものでも、そのやり方や選定手法などを間違えてしまうと、効果は全く見込めないものとなってしまいます。今回挙げた問題点もその一部ですが、まずはこういった問題点やマイナスのポイントにも留意しましょう。
そして、活用後も、定期的にモデルの形が適正かどうかをチェックしながら運用していくことが肝要なのです。